【人事の未来】感情の可視化・集合知・生涯学習が変える2040年の組織づくり―サイバーエージェント CHO 曽山哲人×藤元健太郎対談(後編)
2030年から2040年の未来を見据え、組織づくりはどのように進化していくのか。感情と健康の可視化技術、集合知を活用した意思決定、そして生涯学習の重要性。テクノロジーの進化がもたらす新しい可能性と、それを活かすための組織づくりのポイントついて、サイバーエージェントCHOの曽山哲人氏に話を聞いた。
注目すべきは、テクノロジーの活用と人間本来の価値の両立だ。ウェアラブルデバイスによる健康管理や感情の可視化技術は、個人の ウェルビーイングを支援するツールとして期待される。一方で、全社員の声を経営に活かす集合知の活用や、産学連携による継続的な学びの仕組みづくりなどの重要性も強調された。

左:曽山 哲人(ゲスト)、右:藤元 健太郎(ホスト)
プロフィール
感情と健康の可視化がもたらす新時代の健康経営
藤元 ここからは、2030年~2040年をターゲットとした約150の未来仮説「未来コンセプトペディア」から、曽山さんが重要だと思う項目として選んでいただいたテーマについて議論したいと思います。
曽山さんが選んだ未来コンセプトペディアカード
藤元 「感情・幸福度の可視化技術」に注目されたのは、どのような理由からでしょうか?
曽山 AIやエンジニアリングの進化と共に、感情面における人事マネジメントの重要性が高まっています。マネジメントにおいて最も難しいのが、相手の感情を正確に読み取ることです。技術の発展により、感情や幸福度、さらにはモチベーション低下やしらけた状態まで可視化できれば、より効果的な人材マネジメントが可能になるでしょう。
藤元 目の動きや表情から精神状態の予兆を捉えるなど、既に技術開発も進んでいますね。「ウェアラブルデバイス」の活用についてはいかがでしょうか?
曽山 腕時計型のデバイスなど、様々な健康データを取得できる技術には大きな可能性を感じています。個人の健康リスクを早期に発見できるだけでなく、睡眠の質の改善など、健康寿命の延伸にも貢献できるでしょう。
藤元 年に一度の健康診断と異なり、日常的な変化を継続的に把握できる点が重要ですね。
曽山 その通りです。リアルタイムでのデータ取得が自然な形で実現されれば、より安心して仕事やスポーツに取り組める環境が整うと考えています。
藤元 高齢化社会において、シニア社員の健康管理はより重要な課題になってきますね。
曽山 はい。人事責任者として、社員の高齢化に伴う健康管理は非常に重要な課題だと認識しています。社員一人一人の健康と長寿を支援することは、これからの人事戦略の重要な柱となるでしょう。
集合知を活用した意思決定の新潮流:社員の声を経営に活かす
曽山さんが選んだ未来コンセプトペディアカード
藤元 次に、「集合知を活用した意思決定」についてはいかがでしょうか?
曽山 サイバーエージェントでは、役員合宿の前にGEPPOを通じて、「あなたの周りにある組織課題を教えてください」という質問を全社員に投げかけています。これによって、評価制度や人材育成に関する課題など、様々な意見が集まってきます。
集まった意見は役員合宿で共有され、「一人からの意見であっても、重要な経営課題かもしれない」という視点で議論されます。このように集合知を活用しながら、最終的には経営陣が責任を持って意思決定を行う仕組みが確立されています。多くの企業がまだ社員の声の集め方に苦心している中、こうした取り組みの重要性は今後さらに高まるでしょう。
藤元 顧客の声を聞くマーケティング活動は多くの企業で実践されていますが、従業員の声を同様に扱っている企業はまだ少ないように感じます。また、行政における住民参加なども、同様の文脈で考えられそうですね。
曽山 その通りです。集合知の活用は、企業経営だけでなく、社会全体にとって重要な課題といえるでしょう。声を出す機会を提供し、それが実際に反映されていることを実感できる仕組みづくりが、組織や社会の発展には不可欠だと考えています。
生涯学習が創る持続的な競争力
曽山さんが選んだ未来コンセプトペディアカード
藤元 「生涯学び続ける価値観」についてはいかがでしょうか。
曽山 経営者やビジネスパーソンとの対話を通じて気づくのは、継続的に業績を伸ばしている方々に共通する「学び続ける姿勢」です。一方、CXOとして転職しても活躍できないケースの多くは、「前の会社ではこうだった」という発言に象徴される、学習停止の状態にあります。このラーナビリティ(学習能力)の維持は、これからのキャリア形成において極めて重要です。学習を継続することで、人生の選択肢が広がり、仕事における交渉の幅も拡大していきます。
藤元 アンテナを広げ、新しい視点や情報を取り入れることも重要ですね。
曽山 その通りです。一つの成功体験に依存することは危険です。成功体験の賞味期限は意外と短く、1-2年で陳腐化することも珍しくありません。だからこそ、常に新しい知識を吸収し、選択肢を増やすことを意識しています。
藤元 これは教育機関の役割にも変化をもたらしそうですね。
曽山 はい。もはや「卒業して終わり」という時代ではありません。当社でも、AIに関する研究所で大学の研究者との共同プロジェクトを進めています。
前編・中編から続く本対談を通じて、2040年に向けた新たな人材マネジメントのポイントが見えてきた。個人と組織の関係性の変化を捉えた自律的キャリア形成の支援、データとテクノロジーを活用した戦略的な人材配置、そして未来を見据えた健康経営と集合知の活用。これらはいずれも、「人」を中心に据えながら、テクノロジーの力を賢く活用することで実現される新しい人事・組織づくりの形だ。
「優秀な人材が多数存在する日本企業の潜在力を、どう活かしていくか」。曽山氏が投げかけたこの問いは、まさに日本企業全体が向き合うべき課題であり、その解決の糸口は、個人の成長と組織の発展を両立させる新しいマネジメントの仕組みづくりにあるのではないだろうか。
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■ 出演者プロフィール
曽山 哲人(ゲスト) 株式会社サイバーエージェント 常務執行役員CHO
上智大学文学部英文学科卒。高校時代はダンス甲子園で全国3位。 1998年に株式会社伊勢丹に入社し、紳士服の販売とECサイト立ち上げに従事。 1999年に当時社員数20名程度だった株式会社サイバーエージェントに入社。 インターネット広告事業部門の営業統括を経て、2005年人事本部長に就任。 現在は常務執行役員CHOとして人事全般を統括。 「若手育成の教科書」「クリエイティブ人事」「強みを活かす」などを出版。 プロダンスDリーグの「サイバーエージェントレジット」のオーナーも務める。
藤元 健太郎(ホスト) FPRC 主席研究員 / D4DR 代表取締役
元野村総合研究所、元青山学院大学大学院 MBA 非常勤講師、関東学院大学非常勤講師。 1993 年からインターネットによる社会変革の調査研究、イノベーションに関わる多くのコンサルティング、スタートアップを支援。
本対談でも使われている「未来コンセプトペディア」についてもっと詳しく知りたい方は、150の未来仮説がひと目でわかる「2030年~2040年150の未来予測レポート」をご覧ください。
資料は以下よりダウンロードいただけます。
■この資料でわかること
・中長期的に実現される可能性のある社会変化
・未来事業が起きる背景、産業や価値観の要因
・未来に革新的な変化を及ぼすと予測される最新技術
■ こんなお悩みにオススメ
・社会課題や未来変化に応えられる事業を創出したい
・感情センシングや自動運転など、生成AIより先の最先端の技術トレンドをキャッチアップしたい
・短期的な中長期計画に変わる、未来から逆算した計画を立てたい
