重松大輔×藤元健太郎 対談前編 スペースマーケット代表取締役社長が語る シェアリングエコノミーと個人の選択肢の多様化

FPRC未来コンセプト対談第6回は日本におけるシェアリングエコノミーの先駆者であるスペースマーケット代表取締役社長 重松大輔氏にお話を伺った。「スペースマーケット」は、イベントスペースや会議室から球場、お寺、無人島まで多様なスペースを貸し借りできるサービスである。

まだ日本では「シェアリングエコノミー」という概念が浸透していなかった2014年にスペースマーケットを創業し、シェアリングエコノミー協会の理事も務める重松氏は、未来についてどう考えているのか。前編では、住む場所・働く場所などの個人の選択肢の多様化や地方の活性化などについて伺った。

左:藤元健太郎(聞き手)、右:重松大輔氏(ゲスト)

プロフィール
重松大輔 スペースマーケット 代表取締役社長
1976年千葉県生まれ。千葉東高校、早稲田大学法学部卒。2000年、東日本電信電話(株)入社。主に法人営業企画、プロモーション等を担当。2006年、(株)フォトクリエイトに参画。一貫して新規事業、広報、採用に従事。国内外企業とのアライアンス実績多数。2013年7月、同社にて東証マザーズ上場を経験。 2014年1月、(株)スペースマーケットを創業。2016年1月、シェアリングエコノミーの普及と業界の健全な発展を目指すシェアリングエコノミー協会を設立し代表理事に就任(現在理事)。2019年12月、東証マザーズに上場。

藤元 健太郎 FPRC 主席研究員、D4DR 代表取締役
元野村総合研究所、元青山学院大学大学院 MBA 非常勤講師、関東学院大学非常勤講師。 1993 年からインターネットによる社会変革の調査研究、イノベーションに関わる多くのコンサルティング、スタートアップを支援。

スペースマーケット重松大輔×藤元健太郎 対談①「シェアリングエコノミーと個人の選択肢の多様化」|FPRC未来コンセプト対談Vol.6

シェアリングエコノミーが住む場所・働く場所の制約を減らす

新型コロナの流行をきっかけに、テレワークの実施率は上がり、ワークとバケーションを組み合わせた「ワーケーション」や地方移住への注目度も高まった。シェアリングエコノミーが働く場所や住む場所の制約を小さくすることに寄与しているのではないかという藤元の問いかけに、重松氏はこう語った。

重松 シェアリングエコノミーのビジネスを起業した理由の一つは、多拠点生活(マルチハビテーション)やテレワークといった個人の選択肢を増やせること、またそれを個人間のやり取りで可能にできることに価値を感じたことです。現在はスキル、空間、移動、モノなど、いろいろなシェアリングエコノミーのサービスがありますが、それらを好きなときに好きな分だけ使えるというのは個人の選択肢を増やしているなと思っています。スペースマーケットのホストさんには、親御さんの介護のためなかなか外で働けない主婦の方で、自宅の離れのような場所を貸し出すことで収入を得ている方もいらっしゃいます。

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家の作り方・使い方も変化する

スペースのシェアが広がることで、家の設計も変わると考えられる。また、シェアすることを前提として家の選択をする人もいるという。

藤元 先程のお話に関連して、これからの家の作りは、一部分だけ人とシェアすることを前提とした設計など、大きく変わる気がしています。日本は新築志向が強く、バブル以降は没個性的なよくある間取りの新築住宅が主流の時代が長かったと思いますが、今後は個性的で柔軟性のある作りの家が増えてくるのではないかと思っています。そうするとますますみんなが楽しめるし、シェアするともっと楽しいですよね。

重松 スペースマーケットのホストさんにも、様々な家の使い方をしている人がいて、おもしろいですね。例えば、若い会社員の方が、月収に対してはオーバースペックな駅近の家を借りて、リノベーションして自分が使わない間は積極的に貸し出すことで、家賃以上の収益を上げているケースもあります。家の一部をシェアしていろいろな人が使ってくれることで、お土産を置いていってくれたり、コメントをくれたり、ただ住むだけでは経験できないことがたくさん起きるそうです。

一人で数十件のレンタルスペースを管理されている方もいますね。監視カメラをつけて入り口をスマートロックで管理すれば、ほぼ無人で管理できますから。空き家も地方の古民家などはタダ同然の値段で借りられるので、それを貸し出すとすぐに黒字になります。そのように空き家を使って稼ぐ人を増やしたいとも思っています。

多拠点生活・関係人口と地方の活性化

また、重松氏は2030年~2040年をターゲットとした約150の未来仮説「未来コンセプトペディア」から、重要だと考える未来コンセプトに「消滅・破綻する地方自治体の増加」「関係人口の重要性の高まり」「多拠点生活(マルチハビテーション)」を挙げた。

重松 地方が活力を失っていくことについては、以前から関心を持っていました。前職から仕事で地方に行くことが多かったのですが、地域にどんどん元気がなくなっていく様子を見てきました。仕事がなくて都会に出ていってしまうというのが一番大きな理由ですね。

新型コロナウイルスの流行を機に、地方移住への関心は高まっている。NTTデータ経営研究所が2021年9月に都市圏居住者を対象に実施した調査によると、約28%が地方移住に関心を持っており、そのうち半分弱がコロナ禍を機に関心を持ったと回答している。(出典:NTTデータ経営研究所「地方移住とワーケーションに関する意識調査」

多拠点生活(マルチハビテーション)への関心も高い。一般社団法人 不動産流通経営協会が2020年7月に実施した調査によると、多拠点生活の経験者は全体の約14%、多拠点生活に興味がある層を含めると全体の約43%に上る。

複数拠点生活の実施者・意向者ボリューム

出典:一般社団法人 不動産流通経営協会「複数拠点生活に関する基礎調査<概要版>」

重松氏自身も、多拠点生活を実践しているという。

重松 私自身、多拠点生活(マルチハビテーション)に以前から興味がありました。今は東京にいるのは半分くらいで、なるべくいろいろなところに仕事や人のつながりで滞在し、人を紹介してもらって会いに行くようにしています。定額で複数の拠点に住み放題のサービスに入って、別荘生活もしています。家族も佐賀と広島の学校に通っていて、家族でいろいろなところに関係人口を作って、マルチハビテーションをしているような形ですね。

しかし、地方での生活に興味を持っていても、生活の拠点をまるごと他の地域に移す移住や、複数の生活拠点を確保する必要がある多拠点生活は、実際に行うハードルが高いと感じる人も多いだろう。まずは関係人口を増やすことが地方の活性化にとって重要なのではないかと、重松氏は話す。

重松 コロナの流行を機に一時的にでも地方で働く人が増えて、関係人口という形で地方に関わる人が増えたことは、活性化の糸口になるのではないかと思っています。

藤元 かつては移住者を増やして人口を増やしたいと考える自治体も多かったと思いますが、最近は関係人口さえ増えれば良いという意識に変わってきているのでしょうか。

重松 そうですね。そのような相談も受けます。地方の自治体にとって、外から来た人にいきなり定住してもらうのは難しいですが、まずは1週間でも来てもらって、好きになってもらうことだけでも全然違いますよね。何かきっかけがあれば定期的にその地域を訪れるようになる人も多いのではないでしょうか。

藤元 多拠点生活や関係人口に関連して、FPRCでは「住民税の分割納税ができるようにすべき」という提言をしています。これまでは、富裕層が住民票を移すとその自治体の税収が突然上がるということがありました。ふるさと納税は確かに地域に貢献していますけど、返礼品が欲しいという動機の場合も多いですよね。それよりは、自分が住みたい場所や関わりたい場所に住民税を分割納税できたほうが良いのではないかと思います。地方交付税は国が集めて配分する形式ですが、自主的に分割納税ができるようになると税の民主化にもつながるのではないでしょうか。

【対談後編】富裕層・低所得層の二極化は悪か?相互扶助の可能性はこちら


FPRCでは、2030年~2040年の未来戦略を考えるための約150の未来仮説「未来コンセプトペディア」を公開しています。未来創造に役立つ集合知として質を高め続けていくための共創の取り組みとして、 様々な分野の有識者の方々などにご意見をいただき、更新を行っています。

 

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