関西電力 上田嘉紀氏×FPRC【後編】イノベーションの推進で企業価値、顧客提供価値を高める
対談の前半はこちら
関西電力 上田嘉紀氏 ×FPRC 【前編】インフラ企業がデザインする未来の街づくり
前半の対談では、関西地域のインフラ企業としての使命や、モビリティを軸にした今後のビジョン、新しい電力のモデルや非エネルギー領域も活用した、街という単位での新たな取り組みについての意気込みを伺った。
後半では、スマートシティを軸にした街の今後のあり方や、関西電力のような大企業におけるイノベーションの実情や所感についてお話いただいた。
街がフレキシブルに
―生活者のニーズや価値観に合わせて変化する街-
藤元:
エネルギー領域と非エネルギー領域を組み合わせて生活者に価値を提供できるスマートシティは、大きなビジネスチャンスということを前半で伺いました。スマートシティのような街が増えていくことで、街自体が最適化する、フレキシビリティを持つような世の中になると思います。これについてはどうお考えでしょうか?
上田:
スマートシティだけでなくモビリティにおいてもそうだが、効率化が最大の目的になりつつあります。一方、失敗はできないという、イノベーションと対極に当たる特徴もあります。
イノベーションを要素として取り入れることで、全体として最終的に成功に導けるか、というところが最も重要になってくると思います。
交通やエネルギーなどのデータから状況を把握⇒予測し、さらに需要側を誘導(行動変容)できれば、スマートシティもフレキシビリティを持った形に変わっていけるでしょう。
しかし、このお客様の行動変容に対するインセンティブが何か?は社内で議論しており、課題となっています。過去にポイントを付与した実証もやってきたが、BCPの観点で行動変容を促していくアプローチもあるのではないかと考えはじめています。
藤元:
コジェネレーションが備わった街ができたとき、電力会社は予備電源とされる可能性が大いにあると思いますが、こちらに関してはどうお考えでしょうか?
上田:
エリアごとのマイクログリッドを実現するとき、品質を上げようとするとコスト高になりがちで、逆は不安定になる可能性がある。コジェネレーションに関してもエネルギーは必要です。関西電力としては、ガスの供給もコジェネレーションの工事も請け負っているので、お客様の要望に合わせて最適なものを提供できるよう、努力を続けていくことになるかと思います。
早川:
エンドユーザーであるお客様の要望に合わせるほど、非エネルギー領域をバンドリング等で獲得していく必要性が高まるかと思います。例えば、モビリティとバンドリングすることでエネルギーの価値を上げていくなど。
上田:
お客様が何に付加価値を感じるかは人それぞれです。関西電力としては関連会社が70社以上ありますので、あらゆるソリューション、サービスを提供していくことで、お客様に選んでいただく努力をしています。
また、 分散エネルギーに特化した「K-VIPs」というプラットフォームも提供しており、デマンドレスポンスの実施状況の可視化、将来的には制御までやろうとしています。これに街のモビリティなども連動できると、エネルギーの価値はさらに高まっていくのではと考えています。
※K-VIPs:https://kepco.jp/biz/vpp
坂野:
エンドユーザーはインターフェイスとしてのサービスしか、一般的には意識せず、エネルギーは無意識に使っている人も多いため、難しいところも多いかもしれません。逆にGAFAはそこが強みでしょうね。
プラットフォーム的な考えだと、電柱は物理的なマルチユースプラットフォームとして活用できるのではと思います。電柱を大きな動かないロボットとしたとき、細かいグリッドでの位置情報提供や、微気象のセンシング、通信機能が電柱に備わるなど、いろいろな可能性が考えられ、フレキシビリティに富んだ物理的なプラットフォームができるかと思います。
以前、モビリティの実装実験で電柱を活用したことがあって、人が飛び出しそうになったら電柱に表示をするという実験でした。一方、災害時に避難誘導を出したり、平時は広告を出す、街の見守りをするなどの試みも行っています。アイディアコンテストなどでも、電柱に宅配ロッカーを設置して再配達問題を解決するなど、電柱には大きな可能性が秘められていると思います。
大企業のイノベーションを推進していくためには
藤元:
上田さんは関西電力という大企業のイノベーションラボにいらっしゃいます。大企業に所属する方の目線で、イノベーションの実情や所感を教えていただけますか?
電力会社は安定的に電力を提供する、ということを使命にしており、失敗してはならないという想いが、イノベーションを考える上でハードルになっているかと思います。イノベーションを目指して「失敗しても良い」と言われても、このような使命感が企業文化で叩き込まれているため、新たなマインドセットは必要かと思います。
それを補うビジネススキルや発想力、またイノベーションをやっていくと共通言語も必要になりますが、共通言語を獲得するためにはやはり共通の体験も必要で、このような知識や経験の積み重ねの獲得、が最も大変なところかと思っています。
新規事業を軌道に乗せるためにはそれなりの時間も必要になるので、長期的視野に立った人事ローテーションも必要だと感じます。
早川:
関西電力では、新規事業に中途採用や外部人材の登用、意図的に外のベンチャーに協力してもらったりするなどの試みはしているのですか?
中途採用については、様々な部署ですでに行っています。新規事業に関しては、グループ会社すべてから応募できる仕組みになっており、さらにオープンイノベーションを推進するため、「K4 Ventures」という組織を立ち上げて出資できる枠を設け、関西電力本体とは別に意思決定できる仕組みを構築しています。
K4 Ventures :
http://www.k4v.co.jp/
早川:
個人の所感では、大企業のオープンイノベーション疲れ、オープンイノベーションの言葉倒れが1週回ってきたタイミングだと思っています。しかし、イノベーションに関してはあきらめずにやり続ける必要があると思うが、大企業の経営層がこれに関してどのように考えているかを伺いたいです。
オープンイノベーションはオープンであるから意味がある、ということ。関西電力は昔からイントレプレナーの制度があるため、そこに力を入れている傾向があります。オープンイノベーションは新しい取り組みとして、もう少し腰を据えて、時間をかけてやっていく必要があると考えています。
藤元:
お互いに共通言語がないまま、オープンイノベーションだけやっていても、やはりすれ違ってしまう感じはありますよね。
早川:
オープンイノベーションに関しては、スタートアップの立場で言わせていただくと、「検証」の段階から一緒にやっていきましょうというスタンスですが、大企業は出来上がったものを見比べて、ピッキングしていくような傾向にあると感じます。
それは良くない傾向ですよね。ベンチャー・スタートアップと一緒に、過程も含めて育っていく、歩んでいくのだから、大企業側も手を掛けないといけないですね。逆に大企業でしかできないところはありますので、そういうところはベンチャー・スタートアップと一緒になって研究していくなど協力の形が望ましいと思います。最初から資本業務提携でなく、まずは業務提携するなど。
早川:
業務委託、でも良いくらいかと思います。
個人的に腑に落ちないのが、業務マッチングする事務局に多大な手数料を払うが、アクセラレーターには多額の資金が落ちているのに、実際にベンチャー・スタートアップに落ちてくるのはほんのわずかだったりする。
ベンチャー・スタートアップが手弁当でやってくれるだろう、という感覚の人が残念ながら、中にはいます。ベンチャーはまだ立ち上がったばかりで、資金も人材も不足しているという、当たり前のことが分かっていない人もいる。まさに、この感覚が「共通言語」ですね。
藤元:
早川さんみたいな、スタートアップを運営している人が、大企業に中途入社して担当になるような時代が来れば、共通言語化の問題はスムーズに解決されるでしょうね。
上の人が変わると方針も変わるので、誰が後ろ盾になってやっていくか、は非常に大きいと思います。
「K4 Ventures」 は副社長が責任を持ってやる、という形式を取っているので、一定の決定権を持ってやっています。
なお、関西電力グループのデジタル変革の推進は社長直下で進めており、アクセンチュアと共同で「K4 Digital」を設立しています。
K4 Digital
https://k4digital.jp/
この「K4 Digital」「K4 Ventures」を両輪で進めていく、というのが関西電力のイノベーションにおける戦略になっています。
後編では、街自体がフレキシブルになる時代においての関西電力の戦略や、提供価値の方向性、またイノベーションに携わる上田さんならではの視点で、大企業のイノベーションにおける所感や課題、今後の方向性をお話いただきました。
関西電力では「K4 Digital」でDX(デジタルトランスフォーメーション)と、「K4 Ventures」でオープンイノベーションの両輪を追求するという、これからの日本社会、日本企業にまさに必要な戦略を取られていることが理解できました。
大阪都構想や2025年の大阪万博と、大阪は関西地域のさらなる活性化に向けて生まれ変わろうとしており、関西電力への期待もますます高まっていくことでしょう。
今後の関西電力、関西地域の動向に注目です。
Yoshida
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