【イベント報告】「アパレル店舗の海外進出の現状と未来」(11/21 第69回NRLフォーラム)

2024年11月21日、69回目となるNext Retail Labフォーラムが開催された。

Next Retail Labとは、「次世代の小売流通」をテーマにした研究会で、製造から小売りまで、さまざまな業種に関する調査研究や、マーケティング視点での提言などを行う任意団体である。

今回は、「アパレル店舗の海外進出の現状と未来」をテーマに、ワールド・モード・ホールディングス株式会社 代表取締役社長の加福真介氏と、同グループ会社である株式会社iDA 代表取締役社長の堀井謙一郎氏を講師に迎え、アパレル業界の現状と未来について講演が行われた。

また、講演に続いてNext Retail Labのフェローも参加したディスカッションが行われ、さまざまな論点で議論が交わされた。

越境ECやリアル店舗展開を活用し、海外市場での収益を最大化しながら、効率的な投資とリスク管理をどのように実現するのか。さらに、デジタル化やサステナブルな取り組みを通じて、ファッション業界が次の時代に向けてどのように持続可能な成長を遂げていくのか。加福氏と堀井氏の講演をもとに、アパレル業界のグローバル戦略をレポートする。

■講師:
加福真介氏 ワールド・モード・ホールディングス株式会社 代表取締役
堀井謙一郎氏 株式会社iDA 代表取締役

■ゲスト:
五月女由紀子氏 杉野服飾大学 教授

■ホスト:
菊原政信 フィルゲート株式会社 代表取締役(NRL理事長)

■進行・モデレーター:
藤元健太郎 ディー・フォー・ディー・アール株式会社 代表取締役社長(NRL理事長)

アパレル店舗の海外進出の現状と未来
(加福真介氏:ワールド・モード・ホールディングス株式会社 代表取締役、堀井謙一郎氏:株式会社iDA 代表取締役)

本講演では、海外進出を成功させるための投資戦略、越境ECからリアル店舗展開までの包括的支援、デジタルとサステナビリティを活用した未来志向のアプローチが解説された。また、グローバル市場での成功に向けた人材戦略の重要性や、コラボレーションの具体例も示され、参加者にとって実践的な示唆が得られる内容であった。

ワールド・モード・ホールディングスの創業と事業展開

ワールド・モード・ホールディングス株式会社は、1999年にSEPHORAの日本進出を支援するなど、ファッション業界での実績を積み上げてきた。SEPHORA撤退時には、約300名のスタッフ雇用を守るという挑戦を成功させ、業界内での信頼を確立した。現在では、ファッション・ビューティー業界に特化した国内外唯一のソリューショングループとして、1,550社以上を支援し、業界全体の成長を牽引している。

グローバル展開の背景と現状

コロナ禍以降、越境ECの普及とインバウンド需要の急増がグローバル市場の変化を促進している。こうした状況を踏まえ、日本企業が海外進出を目指す際には、包括的な支援スキームが重要となっている。ワールド・モード・ホールディングスは、越境ECから現地店舗運営までを一貫してサポートする体制を整えており、新市場での競争力を高めている。

海外進出を成功させる戦略

海外展開を成功させるためには、効率的な投資とリスク管理が重要である。講演では、越境ECを活用したデータ分析を基に現地店舗展開を進めるアプローチや、グローバルCRMや生成AIによる顧客価値の向上が示された。また、現地企業との強固なパートナーシップの形成が、リスクを抑えつつ収益を確保する成功事例として紹介された。

人材戦略と教育支援の重要性

株式会社iDAは、ファッション・ビューティー業界に特化した専門性の高い人材派遣サービスを提供している。国内外で約8,000人のスタッフが稼働しており、現地スタッフの教育や研修を通じて組織力を向上させている。こうした人材戦略が、海外進出における競争力の源泉となっている。

デジタル化とサステナビリティ対応の未来

デジタル化の推進により、省人化オペレーションや業務効率化が進み、従業員が付加価値の高い業務に集中できる環境が整えられている。また、企業や学校との連携による新たなブランド創出や、持続可能な労働環境の実現など、サステナビリティに配慮した取り組みも進行している。

未来に向けた課題と展望

グローバル市場での成功には、オムニチャネル戦略が欠かせない。越境ECや現地ECを活用しながら、顧客体験を向上させる仕組みを構築することが重要である。また、持続可能で豊かな労働環境を実現するために、企業全体でのサステナブルな取り組みが今後の鍵となる。

【ディスカッション】
日本のファッションブランドの海外展開と市場適応戦略

講演に続き、Next Retail Labのフェローらが参加しディスカッションが行われた。一部を抜粋して紹介する。

■ディスカッション参加フェロー
・川添隆氏 エバン合同会社 代表取締役
・五月女由紀子氏 杉野服飾大学 教授

海外からの人材の流入と多国籍化日本では絶対的な人手不足が進行しており、特に店頭販売員が不足しているという問題がある。このため、ワールド・モード・ホールディングス株式会社としては販売人を確保するのが困難な状況になっている。また日本企業は、海外の大学や語学学校、シンガポール政府のイニシアチブを活用し、海外で販売員を育成している。シンガポールでは、助成金を活用して販売員の能力向上プログラムが開始され、来年から本格的に始動する予定。コロナ前は台湾から多くの人材が来ていたが、現在はマレーシアやオーストラリアからの人材流入が増加しており、以前の中国人中心から多国籍化が進んでいる。円安の影響もあるが、日本で学びたいという意欲を持つ人々が増えている。

日本のアニメ産業の成長と可能性

日本のファッションブランドはアジアでは尊敬されているものの、韓国ブランドに対して劣位にあるとの認識がある。また日本のアニメは急速にグローバルでの影響力を拡大しており、輸出産業として4.9兆円規模に達している。アニメとファッションのコラボレーションが日本のブランド戦略において新たな可能性を生み出す可能性がある。アニメの人気は日本以上に海外で強く、例えばルフィやポケモンのキャラクターが商業施設で広く認知されている。これを活かしたコラボレーションは日本ブランドにとって大きなチャンスとされている。

顧客との密接な関係と成功事例の活用

海外展開において、ECだけでなく卸売を活用する可能性について言及。特に米国などでは、卸売を活用した進出が効果的であると提案されている。またファッション業界は変化に対して抵抗感が強く、ビジネスの進行がシーズンごとの仕込みに追われて振り返りが弱いという課題がある。変革を進めるためには、どうやって業界の固有の慣習を打破するかが重要なポイントになってくる。この解決策として、顧客との距離を縮め、成功事例を共有することで、変化を促進することが挙げられる。長年の関係性を活かし、提案書の作成や業務支援を通じて、新しい挑戦を一緒に進めることがワールド・モード・ホールディングス株式会社の強みとなっている。

ライブコマースとEコマースの融合

ライブコマースとEコマースの境界をなくし、ファッション業界を盛り上げるために、シンガポールで研修プログラムを実施する予定である。また中国市場進出を検討しているが、新日の国を選ぶことが重要とされ、現地パートナーとの協力を強調した。る. 自社だけでなく、仲間とともにアジア展開を支える方針が示されている。さらに東南アジア、特にベトナムでは、若い人口の増加と富裕層の拡大が見込まれており、日本で経験を積んだベトナム人がファッション業界に貢献する可能性が高いと述べられた。日本企業の進出に向けた環境整備が進むことが期待されている。

日本のファッションブランドの海外展開の課題

日本のファッションブランドが海外に進出する際、特にアジア市場では競争が少ないため、逆にブームを作りやすい可能性がある。特にドバイなどの中東市場では、日本のブランドは影響力を持っていないことが多く、逆にチャンスと捉えることができる。また複数の日本ブランドが連携し、ECサイトでの展開を図る形で、ブランド同士が協力し合う新たなビジネスモデルが提案されている。百貨店の空きスペースを利用した共同出店の形で、複数ブランドが集まり、海外市場に向けて商品を提供する方法が示唆されている。マレーシア市場などでは、現地の文化(例:ヒジャブを着用している女性)に合わせた商品展開が求められる。日本ブランドが現地のファッションスタイルを理解し、どのように商品を合わせるかを試行錯誤しながら展開していく必要がある。

まとめ

本講演では、海外進出を成功させるための投資戦略や包括的支援体制、デジタル技術やサステナビリティを活用した未来志向のアプローチが紹介された。特に、越境ECと現地店舗運営の一貫サポート、効率的な投資とリスク管理、グローバルCRMや生成AIを駆使した顧客価値の向上が重要な要素として強調された。また、ファッション業界における人材戦略やデジタル化推進、オムニチャネル戦略がグローバル市場での競争力向上に寄与することが示された。ワールド・モード・ホールディングス株式会社の経験を基に、現地企業とのパートナーシップ形成やサステナブルな取り組みの必要性も強調され、実践的な示唆が提供された。

またディスカッションでは、日本のファッション業界が抱える人手不足や海外進出の課題に対し、多国籍化する人材戦略やアニメとファッションのコラボレーションを活用した新たな戦略が紹介された。特に、シンガポールやベトナムなどのアジア市場での人材育成や、現地文化に適した商品展開の重要性が強調された。また、ECと卸売を活用した進出方法や、ライブコマースとEコマースの境界をなくす取り組みが示され、業界の変革には顧客との距離を縮め、成功事例を共有することが鍵となった。さらに、アジア市場や中東市場でのチャンスを最大限に活かすための戦略が提案され、日本ブランドのグローバル展開に向けた具体的なアプローチが示された。

文:青山学院大学経営学部経営学科 宮野葵、青山学院大学経営学部マーケティング学科 杉木莉沙子


※本記事はNext Retail Labから許諾を得て元記事と同内容にて掲載しております。
Next Retail Labとは、所属している組織の枠を越え、産学連携で次世代のリテールやサービス業、地域コミュニティやマーケティングについて考えアクションすることを目的とし、緩やかにつながるシンクタンクコミュニティです。NRLでは、月に1度のペースでフォーラムを開催しています。

主催:Next Retail Lab
問い合わせ先
電話:03-6427-9470
e-mail:info@nrl-lab.net

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