【イベント報告】「『UGCサイネージ』と『iBODY』による新価値創出」(10/24 第68回NRLフォーラム)

2024年10月24日、67回目となるNext Retail Labフォーラムが開催された。

Next Retail Labとは、「次世代の小売流通」をテーマにした研究会で、製造から小売りまで、さまざまな業種に関する調査研究や、マーケティング視点での提言などを行う任意団体である。

今回は、『「UGCサイネージ」と「iBODY」による新価値創出』をテーマに、柏木又浩氏が代表を務める株式会社ビーツの二つの新たなサービスについて、共に事業をすすめる株式会社REGALI代表取締役社長の稲田光一郎氏、iBODY JAPAN株式会社代表取締役社長の林和人氏を講師に迎え、それぞれ講演を行った。

また、講演に続いてNext Retail Labのフェローも参加したディスカッションが行われ、さまざまな論点で議論が交わされた。

UGCサイネージやiBODYが、その新しい機能によって目指す顧客体験とはどのようなものなのか。抜粋してレポートする。

■講師:
柏木又浩氏 株式会社ビーツ
稲田光一郎氏 株式会社REGALI
林和人氏 iBODY JAPAN株式会社代表取締役社長

■ホスト:
菊原政信 フィルゲート株式会社 代表取締役(NRL理事長)

■進行・モデレーター:
藤元健太郎 ディー・フォー・ディー・アール株式会社 代表取締役社長(NRL理事長)

「UGCサイネージ」と「iBODY」による新価値創出
(柏木又浩氏:株式会社ビーツ、稲田光一郎氏:株式会社REGALI、林和人氏:iBODY JAPAN株式会社代表取締役社長)

柏木氏(以下敬称略):株式会社ビーツは、小売の販売現場を中心に、エンドユーザーに向けたブランド体験を軸としたソリューションを提供している会社です。「リテール領域のブランド体験を共創する」というミッションを掲げ、店頭の販促関連の販売什器やPOPの販売、店舗やショールームの施工などを手がけています。

今回は、「UGCサイネージ」と「iBODY」による新価値創出をテーマにお話させていただきます。まず、今回パートナーとして一緒にUGCサイネージに取り組んでいる、株式会社REGALIの稲田さんをご紹介します。

稲田:はじめまして、株式会社REGALIの稲田と申します。REGALIは創業が2017年、テクノロジーの力で小売を進化させるというミッションのもと、小売に対してのソリューションを提供してきました。

当社が提供しているのは、LEEEPというECサイト向けのSaaSです。LEEEPは簡単に言うと、ECサイト上にUGCや動画などのコンテンツをエンジニア不要で簡単に掲載ができるというサービスです。2021年11月から正式にサービスをスタートし、現在、サイト導入数は1100を超え、いろいろな業種、業態、規模のお客さまにご利用いただいています。

今、ECサイトは大きく変わってきています。一昔前は、大手のECサイトでも、商品などの画像と価格などのテキストがあるだけというのが一般的でした。しかし、今はSNSでいろいろな情報が見られるようになり、商品を購入する消費者からすると、これだけだと情報が足りないんですね。そうした消費者が求める多様なコンテンツをエンジニアがいなくても簡単に付加できるというのが、LEEEPのコンセプトになっています。

ではどんなコンテンツを掲載することができるのか。まずはUGCです。UGCはUser Generated Contentの略で、ユーザー・お客様の投稿などがその一例です。そして、動画も掲載可能です。やはりECの場合は直接商品に触れることができないため、動画で確認したいというお客様は多くいます。LEEEPではこうしたコンテンツを、エンジニア不要で簡単に掲載できる機能を提供しています。

サイネージとUGCコンテンツを連携、新たなアウトプットを

柏木:こうした機能を生かして新しいUGCサイネージを店頭に設置できないかということで、今年、私たちビーツと稲田さんのREGALIの2社で業務提携をして、一緒に「商品が売れるサイネージ」を目指すことになりました。

先ほど、稲田さんからECが変わってきたという説明がありましたが、僕もECを専門として仕事をしてきて、やはりECの中にある売上に関わるコンテンツが大きく変わってきていることを実感しています。中でも一番影響が大きいと考えているのが、ユーザーレビューと動画です。

ユーザーレビューに関しては、オンラインレビューを購入時に参考にするという人が77%、オフラインの店頭でも口コミやレビューをチェックするという人は70%というデータもあります。動画についても、商品詳細ページに動画を組んでいるECサイトは確実に増えています。今までは、YouTubeやInstagramのようなサイト外にある動画と中のECは、違うものとして存在していました。それが現在は、離れたソーシャルメディアという関係も残しながらECの中にも動画を埋め込み、そして、よりコンバージョンを上げていくという動きになっています。

稲田:一例を挙げると、例えば10ヶ月着回しができるという点が売りのトップスを紹介している約10秒の動画があります。動画だとテキストよりも圧倒的に多い情報量で瞬時に伝えることができるので、10秒の中に、シーズンごとのコーディネートを見せて紹介し、こんなに長い期間着続けることができるという特徴をコンパクトに表現しています。それから、たくさんモノが入って軽いバッグであれば、実際にモノを入れる様子や人が持って動く様子を動画にすることで、わかりやすくセールスポイントをアピールできます。

柏木:我々が考えたのは、オンラインでコンバージョンにつながるコンテンツなのであれば、それはオフラインにおいても売り上げに寄与するはずだという仮説です。オフラインの店舗でもその商品を購入するためのきっかけとすることができるのではないかと考え、UGCをオンラインからリアル店舗にアウトプットするという今回の取り組みを考えました。

もともとビーツには、クラモニという店頭やイベント会場などでご利用いただけるクラウドサイネージのサービスがありました。低価格で好評いただき、約200の企業が導入してくださっているのですが、REGALIさんと共同開発してこのサイネージとUGCコンテンツを連携させることができたら、新しいアウトプットが作れるのではと期待をしています。

現在は、これからコンセプト実証・PoCをやるという段階で、1社目として株式会社チヨダが展開している東京靴流通センターの店舗で実施する予定です。こちらの会社では機能性がある靴を多数扱っており、ECサイトもお持ちなのですが、そこにはその機能に関するレビューが多数投稿されています。そのレビューや動画を店頭に設置したサイネージに掲載し、反応を見ていきたいと考えています。

コロナ禍を経て、やはりオンラインだけではダメだということを多くの方が感じています。オフラインの本当の体験、リアルがあってこそのソーシャルメディアですし、リアルがあってこそSNSを見て共感することができるのではないでしょうか。今回の取り組みを通じて、リアルな店舗の体験を少しでも増幅できるような、そういう仕掛けを一つでも増やしていきたいと考えています。

人間のデジタルツインを作る、「iBODY」とは

柏木:今回お話する二つ目のテーマは、3Dボディスキャナーについてです。僕はアパレルにいた時に、ブランドの旗艦店にボディスキャナーを入れてオーダーのスーツを作ったり、元いた会社の部下がボディスキャナーの仕組み作りに携わっていたり、ボディスキャナーに携わる機会が比較的多くありました。

その上で、これからご紹介する「iBODY」を見た時、本当に驚愕したんです。こんなに低価格で、かつこんなに精度の高いスキャナーを見たのは初めてで、革命的だなと感じたことを覚えています。

小売の中でのボディデータ活用、顧客データの新しいあり方みたいなものが考えられないかなということで、林さん率いるiBODY JAPAN株式会社とジョイントをして、現在いろいろと取り組んでいるところです。最初に、林さんよりiBODYについて、詳しくご紹介していただこうと思います。

林:林です。よろしくお願いいたします。私はずっと金融取引システムを作る仕事をしていて、これまでに6社事業を起こし、今はこのiBODYをメインにビジネスをしています。

私は、金融取引システムがシステムの中で一番難しいと思っています。金融取引システムの経験をすると、次に何かやりたいことができてもやりやすい、次はお金と健康をやりたいと思い、トレーニングジムの会社を買収して、自社でボディスキャナーを作ってみました。

まず、iBODYとはどういうものか、簡単にご説明させていただきます。iBODYは、基幹システムを活用した高性能のボディスキャナーです。この基幹システムは、国立の産業技術総合研究所と共同で開発研究して作り、さらに独占使用権の契約を結んでいます。

このスキャナーでは、赤外線とCMOSの12台のカメラを使って、約150万点の点群を撮って約30秒で人間のボディデータを生成します。そして、人間のデジタルツインを作り、アプリで骨格や筋肉の状態、体の歪みなどを確認したり、体の状態に合わせたエクササイズをレコメンドしたりすることが可能です。

例えば、こちらはヘルスケアのアプリの画面です。点群で体を再生し、脂肪や筋肉、骨などの情報もわかります。下からでも上からでも360度見ることができて、横から見ると姿勢が結構歪んでいるな、なんてこともわかります。背骨が後ろに少しのけぞっていて中心がずれている場合、それを改善するようなおすすめのエクササイズも出てきます。また、体のサイズというセンシティブな情報なので、個人情報の暗号化などセキュリティ面でもしっかりと対策をしています。

西村:ここから少し、ビーツ側からの視点でこのiBODYの活用などについてお話しさせていただきます。株式会社ビーツで執行役員を務めております、西村幹太と申します。

ビーツとしては、このiBODYを活用して新たなUXを提供していきたいと考えています。皆様ご認識のとおり、労働力人口減少によって店舗の無人化、省力化は今後ますます進むと予測されています。先ほど見た、例えば身体の歪みがどこにあって、改善するためにはどうしたら良いかを提案するようなサービスも、今までは当然人が人に相対することで提供していましたが、今後はもっと自動化されていくべきものであるはずです。

さらに、このデジタルヘルスケアの領域は今、世界でも非常に伸びており、市場規模は2033年までに1兆9,209億米ドルに達する見込みだと言われています。日本でも健康経営に取り組む企業は年々増加しており、データを使った健康管理というものがますます注目を集めています。

このデジタルヘルスケアと言う観点で、iBODYは、先ほどお伝えしたようなフィットネスやスポーツジムに限らず、いろいろな領域での活用が期待できます。

例えば老舗の寝具メーカー、西川株式会社様では、全身の形状をミリ単位で計測が可能なボディースキャナーで測定し、体の骨格、姿勢のゆがみなどを可視化した上で、その人に合った寝具などをおすすめしています。

さらにはファッションの領域でもiBODYの活用はいろいろと考えられます。

例えば、人の体だけではなく、衣服も同じ要領でデータを取れば、体の測定をして作成したデジタルツインにデータを取った服を着せ、実際に着たときの様子を見ることが可能です。Lサイズがぴったりの人がSサイズの服を着ると食い込み、大きすぎるとぶかぶかになります。それから、シルクや木綿など素材によっても実際に着たときの雰囲気は大きく変わりますが、その違いもしっかりとわかります。

柏木:ファッション領域においてもう一つ考えられるのは、サステナビリティーの実現です。簡単に言うと、無駄なものを作らずに済むので、ファッションロスを減らすことができるんです。

欲しいサイズ、素材を確認したあと、その服のデザインデータを工場に直送すれば、本当に必要なものだけを作ることが可能です。このボディデータと、衣服のデザインデータがくみ合わさることで、新しい洋服の作り方にもつながるのではないかと思っています。

さまざまな業種と連携することで、iBODYの可能性は大きく広がります。今後もボディデータを活用したあらたな価値の創出を考えていきたいと思います。

【ディスカッション】
リアルとデジタルの間をつなぎ、新たなUXの創出を

講演に続き、Next Retail Labのフェローらが参加しディスカッションが行われた。一部を抜粋して紹介する。

■ディスカッション参加フェロー
・中見真也氏 神奈川大学経営学部国際経営学科 准教授
・松本阿礼氏 株式会社ジェイアール東日本企画 駅消費研究センター研究員

藤元:最初に私から一つ質問させていただきたいと思います。UGCサイネージは、具体的な効果測定はしているのでしょうか。している場合、どのような形で効果を測っているのでしょうか。

柏木:効果測定については、各社これから開始するという段階です。カメラ測定のような機能をクラモニが持っているので、滞留時間みたいなものを最初に取ろうと考えています。最終的には、売上につながったのかどうかを測定する必要がありますが、そのあたりは例えばPOSの企業との連携など、いろいろな可能性を考えています。

稲田:さらにその次の構想として、ビーコンの技術を使って、誰が来たかを判別できないかと考えています。自社のアプリを持っている会社であれば、6mぐらいまでの範囲でどの会員が圏内に来たのかを検知することができます。全てのお客様の行動を測るという選択肢をあえて捨てて、アプリを持っているお客様がサイネージのエリアに入ってきたときに検知する、というやり方です。さらに、例えばポイントを貯めるためにアプリをレジでかざせば、その商品を買ったかどうかも検知することが可能です。

松本:私は駅ビルのユーザーの調査やリサーチを担当しているのですが、消費者の方たちは、店舗をメディアとして捉えているなと感じることがよくあります。雑誌として眺めるような形で、今のトレンドは何かなとか、何か面白いネタがないかという感じで歩いているというお話をよく聞くんです。そういった中で今回のお話にあったUGCサイネージは、これまでのような企業側の発信だけではなく、ユーザーの方々の情報も一緒に見られる場所をリアルで広げる可能性があり、店舗がお客様にとって役に立つより良い場所になっていくんだろうなと感じました。

ただし、リアル環境でのサイネージの視聴は、結構シビアだと思っています。私たちも実験すると、数秒しか見られていないことが多く、Web上で投稿されたものをそのまま映しても、異なる視聴環境だと見てもらえない可能性があるのではと思います。

そこを解決するために、例えば編集の仕方など、何か検討されていることはありますか。

柏木:これから実験をするという段階なので、まだ明確には言えないのですが、やはり環境によってコンテンツ自体の見られるポイントが変わる、アルゴリズムが変わるといったことと同じではないかと考えています。YouTubeショートやInstagramのリール、TikTokでも、3秒の壁、7秒の壁とよく言いますよね。その壁をどうやって超えさせるのか、というような実験をしていくことになるのではないかと思っています。例えば歩いている環境で流すのであれば、何秒ごとにアイキャッチが必要か、アイキャッチが効果があるとしたら映像が良いのかエフェクトの方が良いのか。棚の前だとまたアルゴリズムが異なるかもしれません。そうした勝ち筋みたいなものをいかに見いだすのかが重要です。そしてそれを体系化できるようになれば、さらにそこにAIをプラスしてより精度を上げていく。それができればリテールメディアに近づけるのではないかなと思っています。

稲田:例えばWebで考えた場合、一番UGCが輝く場所はどこかというと、商品詳細ですよね。それを実店舗に置き換えると、柏木さんがおっしゃったように棚だと思います。商品詳細にあるコンテンツの目的は、明確にCVRを上げることです。買おうかどうしようか迷っている人のあと一歩を押す。そう考えると、棚にあるサイネージも大通りにあるような大きいものである必要はなくて、小さなタブレットでも十分効果があるはずです。そして、凝視してくれるようなフォーマットが求められます。

また通りに置く場合は、恐らく店舗に立ち寄ってもらうためのきっかけになるようなコンテンツである必要があり、大きさも棚とは異なってくるはずです。そうした作り分けや、棚の次の通りのコンテンツ作りなどは、これからになってくると思います。

会場参加者:リアルとデジタルの間を行き来するものがサイネージでありスキャナーであり、そこを鍵にして新しいUXを作ろうとされていることが、お話を聞いていてよくわかりました。

僕もいろいろなデバイスを使ったサービスや事業開発に関わることが多いのですが、いつもテーマになるのが、いかに人間の従来の振る舞いや意識に寄せた体験をさせるか、という点です。その点で何か計画しているようなことはあるでしょうか。ボディスキャナーでいうと、精緻な体のデータはその人のマザーデータとなります。AIでそこから予測データを生成する、例えば過去の写真や動画とマザーデータを突き合わせてその人の今を推察したり将来を予測したり、いろいろなことができるのではないでしょうか。

林:実は、3次元解析システムと人間の体というのは、AIが一番不得意とするところなんです。なぜかと言うと、今日の私の体型と昨日の体型は同じではなく、異なっているからです。AIで機械学習をさせて大量データを取ってみても、今の私とは違っているんですね。朝と夕方では身長は全然違います。私のボディデータをとって3Dプリンターで同じものを作っても、私のシャツは着ることができません。人間の体はそれほど柔軟でフレキシブルなんです。だからこそ、今という断面で私の精緻なデータをとって可変できるというところに商機があるというのが我々の考え方です。人間は生きているので、昨日と今日は違う、そこに何らかのビジネスチャンスがあるんだろうなと思っています。

まとめ

現実世界とデジタルの世界をつなぎ、いかにネットとリアルの融合をはかるのか。さまざまなチャレンジが続けられている中で、UGCサイネージとiBODYは、大きな可能性を秘めている。さらなる進化によって、顧客により良い体験を提供する起爆剤となるのか、今後のさらなる展開が期待される。


※本記事はNext Retail Labから許諾を得て元記事と同内容にて掲載しております。
Next Retail Labとは、所属している組織の枠を越え、産学連携で次世代のリテールやサービス業、地域コミュニティやマーケティングについて考えアクションすることを目的とし、緩やかにつながるシンクタンクコミュニティです。NRLでは、月に1度のペースでフォーラムを開催しています。

主催:Next Retail Lab
問い合わせ先
電話:03-6427-9470
e-mail:info@nrl-lab.net

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