近未来研究会 第1回フォーラム「第4次産業革命と超江戸社会」

近未来研究会とは、各界の有識者が集まって近未来を熟思し、伝えていくグループです。
セミナー第1回目を担当するのは、弊社D4DR取締役社長 藤元健太郎です。
第4次産業革命と呼ばれる現在、あらゆるモノとモノがインターネットを介して相互に繋がるなど、テクノロジーが凄まじい進化を遂げています。藤元は大学時代にインターネットと出会い、これを使うことで世の中が大きく変わると言い続けてきました。また、年を重ねるごとに今後どう変わるんだろうかと俯瞰的に考えるようになり、歴史観的なことに興味を持ち始めるようになりました。そこで、現在のテクノロジーと江戸の自由でゆとりある社会を上手に組み合わせて、理想の社会モデルが実現できるのではないか、という意識の下に講演しました。

テクノロジーの役割変化 :利便性から体験価値へ

第1次産業革命で蒸気が使われるようになり、第2次産業革命で電気が、第3次産業革命でコンピューターの時代となりました。今さまざまな新しいテクノロジーの単語を聞くと思いますが、ここで一気に花開いて、これからの社会はどうなるのでしょうか。
例えば、仮想空間で恐竜と戦闘するゲームがあります。あたかもその世界にいるような体験ができます。また、北欧の一部では手の中にマイクロチップを埋め込んで決済できます。現在は、物を運ぶときには人の力が不可欠ですが、近い未来にドローンで運搬できるようになれば人がいらなくなります。テクノロジーが着実に進化をして、こういったSFのようなことが現実に可能になっています。
あわせて、今の時代の考え方の一つと思える事例があります。それは、パナソニックのコーヒー焙煎機です。今まで家電は人を楽にしてくれるものでした。この場合は、コーヒーを自動で抽出してくれるコーヒーメーカーのようなものです。今の時代の人々が家電に求めることは、心地よい体験価値です。この場合は、自分で手間をかけて上質なコーヒーを味わう体験をしたいということなのです。そのため、この焙煎機は非常に高価なのですが、購入する人がいます。家電の役割がシフトして、人間を楽にさせるのではなく、楽しくさせるためのものになってきたということです。

 
画像1: 「第4次産業革命と超江戸社会」(近未来研究会 第1回フォーラム)

江戸社会と超江戸社会

ここで、江戸時代を振り返ってみます。
江戸の街では武士と町人で生活の制約が異なっていました。
武士はいろいろと行動が縛られていましたが、町人は自由で楽しく生活していました。
そんな江戸の街は、循環型社会であり、リサイクルや物品の貸し借りが頻繁に行われていました。
長屋の大家は、住人の排泄物を肥料として周辺の農家へ販売し、その分家賃を安くしていました。
ふんどしのレンタルも行われており、2~3回貸し出したものは新品に交換していました。使い古したふんどしは藍染めで染め直して売ってしまったようです。そうすることによって、ふんどしの仕入れ代金を回収していたというのです。
棒手振や屋台は、人々が集まるところやご飯時に長屋の近くまで行って、市場で仕入れた新鮮な魚・野菜、そばや天ぷらなどを売っていました。
お茶屋と置屋と仕出しという仕組みがあります。お茶屋がお客様に最大の体験価値をしてもらうために、その都度置屋や仕出しを選び、芸者さんを呼んだり料理を提供したりします。
江戸時代の町人は、みんなのために何かをする、誰かのために何かをしてあげるというようなボランティア精神と団結力の高さがありました。町人同士でともに支え合って生活していました。
町人は、さまざまなサービスを生み出して好きなときに働き、自由に休暇を取って、ときどき大衆文化を楽しむ。そういった生活をしていました。何事も自由に、自分の人生を満喫していたわけです。以上のことから、江戸社会は循環型社会、自分で作れるものは自分でつくるファブ社会、多次元的な仕事がある社会、ということが分かります。
そういった江戸社会の自由さや利点を、現代のテクノロジーと組み合わせることによって、生産性が高く安心・安全な社会が実現できるのではないでしょうか。そんな社会は「超江戸社会」とも呼べる、今私達が目指すべき社会のモデルではないかと思います。

 
画像2: 「第4次産業革命と超江戸社会」(近未来研究会 第1回フォーラム)

続いて、トークの内容に関して有識者から意見を伺いました。
メンバーは、武蔵野学院大学国際コミュニケーション学部准教授の上松恵理子さん、前朝日新聞ジャーナリスト学校シニア研究員の服部桂さん、天草IoTイニシアティブ発起人の野間英樹さんです。

テクノロジーの力で地域振興を

まず野間さんは、自身の行っている事業と絡めてこう言います。
「私はIoTが、電動工具のようにどの現場でも使うのが当たり前の時代になると考えています。事例として2つ挙げます。
まず、養殖業です。クルマエビの養殖なのですが、昼間は砂に潜っていて夜間に出てきます。今まで経験と勘でやってきたことを、IoTを利用し、水温や酸素濃度をデータ化することで裏付けを取ることができます。例えば、珪藻が日中酸素を生成して、夜間にエビや微生物がそれを消費します。そのバランスが悪いと、酸欠でエビが死んでしまう、餌をやりすぎるとたくさん酸素を使うなどがあります。どうすればより適した養殖環境が作れるのかを検討しています。
さらに養殖のエサ代が高騰してます。現在の餌は、漁で獲ってきた魚を使用した魚粉です。天草では、年間5000頭もイノシシが捕れるので、それを使った飼料を検討しています。新たな循環の仕組みを考えようとしています。
もう一つは、イルカウォッチングです。天草にはイルカが定住しています。イルカは魚を食べるため漁師に嫌われるのですが、イルカの定住する地域は素潜り漁が盛んです。昔から変わらずに、イルカを含めた生態系を維持する仕組み、これを学ぶことができるイルカウォッチングにしたいと考えています。そのためにイルカのことをもっと知る必要があります。そこで、カメラで撮影すると個体識別する仕組みや、水中マイクを使って鳴き声を分析することで、イルカのいる場所を推定できないかといったことを大学の研究者と検討しています。」

財政破綻からITで教育革命

続いて上松さんが教育の観点から話しました。
「第4次産業革命で、教育にイノベーションが起きる幕開けと思います。例として、ニュージーランドの話をとりあげます。ニュージーランドは、ドローンや無人運転技術が非常に進んでいる国です。公立の学校の庭には無線LANが導入されていて、庭のどこでもインターネット接続が可能です。自動運転のテストや、空を飛ぶタクシーの開発も始まっています。こういったアイディアを生み出すヒントとなるのが、教育革命です。教育革命が起こった要因として、30年前の財政破綻があります。その時行ったのが、公務員を6割削減し、教育委員会と学習指導要領をなくしました。そのかわりに、徹底的にITを導入しました。ただし、一人ひとりにパソコンを持たせるには資金が必要になります。そこで、学校がお金を稼いでいます。例えば、学校には校長が2人います。1人は学校で仕事をして、もうひとりが外で資金を集めてきます。そうして、学校にIT環境が整うようになりました。それらの結果、学校で独自のカリキュラムを組むことができるようになりました。小学校でも自分の好きなコースを選べるようになっています。ITが進むことによって、いろんなことが簡単にシェアできて、コストも削減できるようになりました。自分たちの裁量でいろいろなことができるようになった、というのがニュージーランドの事例です」

過去を知れば、未来も分かる

さらに、マーシャル・マクルーハンに関する著者の服部さんはこう語ります。
「マクルーハンは、テクノロジーを一つの手がかりにして、人類の歴史の中で文明のレベルがどれくらい上がったかを論じています。蒸気から、電気、コンピュータとそれぞれの時代で産業革命が起こりました。コミュニケーションの語源は、みんなで分けるという意味です。人間は、テクノロジーが好きなのではなく、みんなでどうやればコラボレーションできるかを考えて成長してきたのです。結果、インターネットという手段を得ました。マクルーハンは、手段としてのメディア、最も我々の文明や共通の問題意識を語ることができるということで、メディア論ということを言いました。
人々は印刷革命が起きたことで、知を共有することができました。併せて教育によって、字を読むことができるようになりました。新たに情報の共有をすることによって、今までのことは間違いだったのではと、人々は理解するようになってきました。
現在でも、フェイクニュースなど似たようなことが起きています。未来のことは、過去に書いてあるとも言えます」

良き時代へ進化するためには

参加者を含めた討論のあとに、最後に藤元はこうまとめました。
いま起きている第4次産業革命というのは、良き時代へ進化するチャンスだと考えています。工業化社会より前の良き仕組みを受け継いで、現代における最高のテクノロジーを使って改善・進化させること、それが日本のあるべき姿として目指すと良いのではないかと思います。ロボットの社会を思い描いていくよりも、名付けて「超江戸社会」とすることでより親しみやすくなるのではと思います。

 
画像: 野間さん、服部さん、上松さん、藤元、司会の校條さん

野間さん、服部さん、上松さん、藤元、司会の校條さん


江戸の自由で余裕を持った生活を補強するために現代の最新テクノロジーを使うことは、とても理想的なモデルだと思います。せっかく素晴らしいテクノロジーがあるのだからこそ、それをうまく使いこなしてゆとりある楽しい人生を送れるように革新していく必要があるのかもしれません。

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