Web3.0は「消滅可能性都市」を救えるか――加賀市の挑戦から考える地方創生(後編):当日イベント動画全編あり
2022年12月、石川県加賀市で開催された、新しいテクノロジーを活用した地方創生について考える「加賀市Web3.0未来エンパワーメント会議」。前編に続き、後編となる本稿では、Web3.0を活用したさまざまな取り組みを行っているトップランナーたちによる、ディスカッションについてレポートする。
地方創生を目指すそれぞれの活動を
トップランナーがプレゼン
國光氏の基調講演に続き、イベントでは次の6名が登壇し、ディスカッションが行われた。
登壇者)
・國光宏尚氏:株式会社フィナンシェ代表取締役CEO
・早川周作氏:琉球アスティーダスポーツクラブ株式会社代表取締役
・樋田桂一氏:株式会社ブロックチェーン戦略政策研究所
・川村文彦氏:コーギア株式会社代表取締役社長
・山内 智史:加賀市最高デジタル責任者
総合司会)
・藤元健太郎:D4DR株式会社代表取締役社長
ディスカッションでは、各登壇者が、それぞれの活動や加賀市との取り組みなどについてプレゼンテーションを行った。ショートプレゼンの内容について抜粋を掲載する。
卓球プロリーグのチームとしてトークン発行、沖縄から世界へ
:琉球アスティーダスポーツクラブ
琉球アスティーダスポーツクラブは、Tリーグという卓球のプロリーグに参戦をしている。沖縄県の中城村(なかぐすくそん)という人口2万人の村に本拠地を置き、日本で初めて上場したプロスポーツ会社として話題を集めた。
琉球アスティーダでは、クラブトークンを発行。クラブトークンはブロックチェーンで発行・管理され、トークン購入者は保有しているトークンの数によって投票企画に参加したり、抽選特典に応募したりすることができる。
「アスティーダ」とは、「明日」と沖縄の方言で太陽を意味する「ていだ」を組み合わせてできた言葉。早川氏は、「われわれが目指すのは『沖縄発の明日の太陽』となることです。われわれが世界的なクラブチームとなることで、周囲が勇気づけられ、夢実現のきっかけになるようなエコシステムを作りたいという思いで取り組んでいます」と意気込みを語った。
ブロックチェーンを活用した「コミュニティづくり」を目指す
:ブロックチェーン戦略政策研究所
樋田氏は2014年に日本ブロックチェーン協会を立ち上げ、2018年まで事務局長を務めた。ブロックチェーン戦略政策研究所は昨年1月に設立。「e-加賀市民とともにつくる北陸Web3.0拠点化プロジェクト」構築のため、加賀市と連携協定を結んでいる。
樋田氏が加賀市と進めているのは、ブロックチェーンを活用した「コミュニティ作り」だ。Web3のコミュニティを生成することで関係人口を創出し、加賀市の魅力を体験してもらうプロジェクトを計画している。樋田氏自身、何度も加賀市を訪れ、豊富な観光資源に感銘を受けたという。
もう一つ、整備を検討しているのが、オンラインではない、リアルに集まることができる空間だ。実際に加賀市を訪れた人が集まったり滞在したりできるリアルな場所づくりをすすめ、人々の交流を促すことを目指している。
「加賀市の取り組みは、5年10年続けていく長いプロジェクトだと思っています。大変ですが、それだけ続けていけば、『ブロックチェーンだったら加賀』というぐらいの世界ブランドになることができます。加賀市はそのポテンシャルを持っているので、しっかりと取り組んでいきたいと思います」。
自治体、事業者、e-加賀市民が三つ巴になったエコシステム導入を
:コーギア
コーギアは、ソニーのグループ内スタートアップとして2021年2月に設立された。データ分析プラットフォームの開発などデジタル系の事業開発を推進している。今回、e-加賀市民の関係人口創出について加賀市と取り組みを行っている。
加賀市とコーギアは、今年3月からe-加賀市民制度導入に向けた実証実験を予定している。実証実験では、加賀市公式のNFTを販売するサイトを立ち上げ、NFTをe-加賀市民証として機能させる。そして、e-加賀市民証を持つ人が加賀市を訪れ、e-加賀市民証を提示することで特典を得たり、様々な事業を応援できる仕組みを予定している。
川村氏は、自治体と各事業者、それから関係人口であるe-加賀市民、それぞれが三つ巴になった、Web3.0をベースにしたエコシステムを導入したいと目標を掲げた。
「一方的に制度を作り、与えられる人・与える人という分け方にするのではなく、みんなで一緒に仲間になってやりませんかと、呼びかけていきたいと思っています。加賀市から世界に発信し、日本中を元気にできたらと考えています」。
質疑応答
ディスカッションでは質疑応答も行われ、会場やオンラインの聴衆などから多くの質問が寄せられた。登壇者による回答とあわせてお伝えする。
質問:株式とトークン、どのような違いがあるのでしょうか?
國光氏:株式と違って、トークンはプロジェクトや経営的なプロセスに参加できるという点が新しいところだと思います。例えばスポーツジャンルだったらユニフォームのデザインをトークン保有者による投票で決めるなど、いろいろな企画が考えられます。
それから、SNSのいいねみたいな感じで、コミュニティへの貢献に対してトークンをもらうという仕組みも考えられます。ビジョンの実現に向けて、みんなが能動的に行動できるようサポートするという役割もトークンは持っているのかなと思います。
質問:多くの良い点がある一方で、トークンの活用には課題もあるのではないかと思います。実装し運営していく上で、どのような課題がありますか。
早川氏:今、日本の法律がものすごく厳しいので、そこがやはり難しいところだと思います。例えばトークンを買う際も、直接アスティーダトークンを買うのではなく、FiNANCiEポイントを購入して、それをアスティーダトークンに変えるというやり方になっています。
われわれは上場会社として初めてトークンを出したので、東京証券取引所や証券会社などと相当やり取りをして、この手法になりました。
やはり法規制をもっと緩和して、例えば投げ銭的な形で非経済効率性、非経済合理性を含めてどんどんお金の循環を促していくような仕組みを作れば、もっと活性化するのではないでしょうか。それが加賀市で実現できたらめちゃくちゃ面白いのではないかと思います。
質問:NFTとDAOの違いについて、よくわからないという人も多いと思います。どのように違うのでしょうか。
樋田氏:簡単に言うと、NFTというのは、デジタルデータや権利の移転をブロックチェーンで証明しているというものです。DAOは組織を指す言葉で、株式会社とか社団法人のような組織とは異なり、トークンを使った新しい形でガバナンスをする組織です。
質問:市民の人たちやオンラインで聞いている外の人たちは、まず第一歩としてどういう参加の可能性があるんでしょう。
樋田氏:おそらく、参加したくてもどうしたらよいかわからない、という方も多いと思かと思います。今後、コミュニティの場や、イベントなどを定期的に開いていくと思うので、まずはそういう場に来て、できる範囲で参加していただけたらと思います。それから、市外の方は、温泉旅館を使ったワーケーションなども企画しているので、環境の良い加賀に来ていただき、開発したり事業を作ったりしてもらえるとうれしいです。
以上、「加賀市Web3.0未来エンパワーメント会議」について、前編につづいて後編ではWeb3.0を活用したさまざまな取り組みを行っているトップランナーたちによる、ディスカッションについてレポートした。
Web3を活用して「消滅可能性都市」を脱却し、全国の地方都市の希望となれるのか、今後の加賀市の挑戦が注目される。
動画(イベント全編)
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