【イベント報告】ニューノーマル時代のスマートシティ戦略~多拠点生活時代の地方と都市の新しい関係~

2020年10月15日、D4DR社のシンクタンク Future Perspective Research Center(FPRC)主催のオンラインイベントを開催した。
今回のイベントでは「ニューノーマル時代のスマートシティ戦略~多拠点生活時代の地方と都市の新しい関係~」をテーマに、地方創生とそのビジネスチャンスについて考察した。ゲストには、加賀市長の宮元氏、株式会社日本旅行取締役兼執行役員の秋山氏、静岡県立大学特任教授の北上氏を迎え、産官学様々な立場の方と対談・議論が交わされた。
今回はその内容を抜粋し、報告する。

SNS分析による、旅行・観光ビジネスの現状

まずは藤元より、D4DRのSNS分析チーム「旅行・観光ビジネスの復興モニタリング 定点SNS調査」の分析結果が発表された。

GOTOキャンペーンの効果もあり、国内の宿泊者数は回復傾向にある。今回、Twitterを用いて分析を行ったところ、鳥取、栃木、岐阜、神奈川の4県では、昨年を上回る観光話題量が確認できた
また、京都・奈良では「少ない」というキーワードが含まれたツイートが多く見られ、インバウンド需要の減退が大きく影響していることが分かった。

このように、SNSでは観光需要の増減をリアルタイムに観測できる点で、優位である。

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地方都市 加賀の先進的な取り組み事例

石川県加賀市は、非常に先進的な考えを持って、地方自治体の抱える様々な課題の解決に取り組んでいる。
今回は加賀市長の宮元陸氏に、その取り組みをご紹介いただいた。

※加賀市長 宮元陸氏(写真右側) FPRC上席研究員 早川(写真左側)

加賀市の概要

加賀市は温泉が観光の大きな柱となっており、年間約200万人の宿泊客でにぎわう。古くは北前船が栄え、加賀市の橋立地区ではその名残を見ることができる。
加賀市は現在、人口減少や観光客の減少などの課題を抱えており、2014年には「消滅可能性都市」の一つに指摘された。そこで、第四次産業革命時代を見据え、イノベーション施策の方向に舵を切っているという。

©石川県観光連盟 加賀橋立 地区

加賀市のイノベーション施策

加賀市ではスマート加賀IoT推進事業と称して、IoT人材の育成や先進テクノロジーの導入を通じて、実証フィールドとして活用できる街を目指しているという。イノベーション関連企業との連携や、ロボットプログラミングを競う「加賀ロボレーブ国際大会」の開催やプログラミング教育の推進、コンピュータークラブハウスの開設、加賀市イノベーションセンターの開設を通じ、IoT人材の育成に力を注ぐ。

官民連携による挑戦フィールドとしての取り組みも先進的である。ANAと連携したアバター技術の活用、トランジェクトリーと連携したドローンの活用と市内全域の3Dマップ作成、MaaSコンソーシアムを設立し市内へのMaaS構築の取り組み(日本旅行も参画)、自治体新電力への挑戦、農業分野においてもブランド果実の栽培データ可視化、WiFiヘイローの実証実験、DMM.comと連携した3Dプリンター関連産業への取り組みなど、数多くの先進的な施策が紹介された。

行政サービスのデジタル化推進

行政サービスのデジタル化においては、行政サービスへのブロックチェーン技術の活用、マイナンバーカードを活用した電子行政サービスの推進を掲げている。これにより、50種類以上の行政サービス手続きをスマートフォンで完結させるべく進めているとのことだ。加賀市ではマイナンバーカード申請率も6割強と高く、市民の関心も高いことがうかがえる。

他にも、学校健診と母子健診情報を電子化し、個人が生涯にわたって健診情報を管理できる仕組みも構築しようとしているとのことだ。

スマートシティ加賀への取り組み

スマートシティ推進に向けたコンソーシアムとの連携や、官民連携の協議会、スマートシティ宣言を通じた取り組みの発信など、スマートシティ加賀に向けて着実な取り組みが紹介された。
スマートシティ加賀構想の内容は、人間中心の未来社会の実現を基本理念にしている。内閣府、国交省、総務省の支援も受けており、今後のスマートシティ加賀の動きに注目していきたい。

ディスカッション

日本海側の豊かな文化を力に、地域振興につなげる

藤元:

工業化社会から世の中が脱しつつある今、日本海側の文化が注目されているように感じます。かつて北前船が栄えたように、加賀・石川の文化、歴史観は今後大きな強みになるのではないだろうかと思いますが、いかがでしょうか?

宮元市長:

加賀は北前船の里と呼ばれています。かつては、日本海側を中心とした物流ネットワークが発展していて、かなりの経済圏を誇っていました。北前船は日本遺産の認定を受けた。今の時代にもう一度、観光も兼ねた形で復活させたいと思っています。今後も日本海側を復活させるべく、活動を続けたいと思っているところです。

早川:

日本海側の長門や益田にも訪問して感じたことがあり、統計的にこれらの日本海側の街は人口が少ないが、実際に街に出てみると地力があると実感します。日本海側はQOLも高く、豊かだなと感じます。

宮元市長:

加賀市の橋立地区はかつて大変裕福で、今でも文化的・歴史的豊かさが残っています。これらが地域振興につながるのではと感じているところです。

加賀市版 e-Residency の狙い

藤元:

加賀市版e-Residencyの話が非常に印象的でした。デジタル化・ニューノーマルで、場所に関係なく関わりを持てるようになり、場所の制約もなくなってきている今、非常に先進的な考えだと思います。今後の市民像をどう捉えていらっしゃいますか?

宮元市長:

加賀市内でも、維持が困難になってきている地区が存在します。真の願いとしては、人が増えて欲しいと思っていて、そのきっかけとして、関係人口は重要と考えています。
エストニアの e-Residency も、ヨーロッパでビジネスが可能となる窓口を提供する、という役割を担っています。そこからエストニアの知名度向上や、生活者や起業者が増加していくことを期待しているのでは、と思います。
e-Residency を通して加賀市に関心を持ってもらうこと、そこから定着してもらうことを目指して取り組みを進めたい。

藤元:

エストニアと比べると、加賀市は都内からも近いので、加賀と東京の半々で暮らすなど、そういうライフスタイルは増えるだろうと感じます。

早川:

最近は加賀市にいながら、大阪や東京の人とオンラインで話すことができるので、仕事上は全く問題なく滞在しています。ただ、奥さんと子供は大阪に暮らしているので、そこは最後の課題かと思っていますが。

宮元市長:

子どもの教育環境においては、安心感をさらに提示できると、関係人口から定住へと結びつくのではと考えています。チャレンジングな場所であること、子育て環境が整備されているということは、定住してもらうために必要なのではと考えます。

早川:

加賀市では5Gの実験場もあるので、実証実験をするためのインフラも整備されています。マイナンバーカードの普及率も各段に高いので、企業にとってはサービス展開をする上での環境が整っていると思いますね。

MaaSで変わる、加賀市民の日常生活

藤元:

ニューノーマルでコンパクトシティのあり方が変わるのでは、と言われています。近くに買い物をする場や病院があって、というのがコンパクトシティのメリットになっているが、移動手段が自動運転などに置き換わってコストが低廉化し、移動ハードルが下がると、市民の利便性が上がるということになるのでしょうか。

宮元市長:

MaaSのように移動障壁が下がる話もあるが、サービスそのものが移動して提供される流れも出てくると、コンパクトシティである必要性はなくなるでしょう。

早川:

加賀市は高齢化率が3割超となっています。加賀市は加賀温泉駅周辺エリアを中心に、7つの大きな拠点があり、その拠点間をどう結んでいくかがこれからの課題となっています。高齢者の足を確保するために、乗り合いタクシーや在来線、バスを組み合わせていくことを考えています。
今後高齢者が楽しく老いていくために、病院だけでなく加賀の重要コンテンツの温泉も組み合わせて、サービスとして提供していくことも思考しているところです。

藤元:

温泉の価値はとても大きいと感じます。例えば健康経営の観点で考えると、仮にオフィスが温泉街にあると、社員がわざわざオフィスに行く価値が出てくるのではと。そう考えると、温泉は観光よりもワーケーション文脈でも大いに活用できるのではと、個人的には思いました。

早川:

また、加賀は非常にご飯が美味しいんですよ。料理人 道場六三郎の出身地でもあり、地域としてかなり強いコンテンツをもっているのでは、と思っています。

藤元:

今後、加賀市ではデータをどのように生かしていく計画なのか、をお聞きしたい。

早川:

MaaSは今後、実証実験を行っていく予定となっています。市民に求められる交通のあり方が何なのか、データを見て検証していく予定です。xIDが普及していくと、個人情報を保護した上で統計分析ができるので、データを活用して施策を考えていくことになると思います。

宮元市長:

市全域の3Dマップを作成しているので、空の管制プラットフォームを作りたいとも思っています。健康関連のデータは個人情報も絡んでくるが、将来の予防医療も考えると、データを利活用していくことは視野に入れてやらないといけないですね。

加賀市の先進的取り組みを支えるものとは?

藤元:

お話を伺って、市長のリーダーシップが素晴らしいと感じました。反面、それを支える人材の育成や発掘も重要で、それに対してどのような打ち手を取っているのか、伺いたい。

宮元市長:

ロボレーブ大会やプログラミング教育など、IT人材の育成はなるべく早く取り掛かることが重要と思っています。他にも、民間レベルで使われている有用なツールはいち早く導入したりと、スピード感は意識しています。また部局長や課長も努力してついてきてくれていると感じます。
外部からのアドバイス、フェローの力を借りるということも、この2、3年加速して進めていますね。

商品右より
・獅子の里(松浦酒造有限会社) 純米大吟醸 愛山
・獅子の里(松浦酒造有限会社) 純米吟醸 旬
https://shishinosato.com/
・ 常きげん(鹿野酒造株式会社) 純米大吟醸 百万石乃白
・ 常きげん(鹿野酒造株式会社) 純米酒 やましろ
http://www.jokigen.co.jp/index.html
・娘娘万頭(山中石川屋)
http://www.yamanakaishikawaya.com/
・加賀棒茶(丸八製茶場)
https://www.kagaboucha.co.jp/

ニューノーマル時代における観光業界のあるべき姿とは(パネルディスカッション)

第二部は元JTB、静岡県立大学の北上氏と、日本旅行の秋山氏をお迎えし、パネルディスカッションを行った。
新型コロナウイルスにより多大な影響を受ける観光業界における現状や今後のトレンド、これからのあるべき姿が語られた。

静岡県立大学 北上真一氏の紹介

日本旅行 秋山秀之氏の紹介

GoToキャンペーンについて

藤元:

GoToキャンペーンについては、どのように受け止めていらっしゃるのでしょうか?

秋山:

一定の経済効果はあったと感じています。9月末の受注状況は前年比400%となり、かなり賑わってきていますね。10月に入ってから、対面の打合せなども増えてきて、潮目が変わったように感じています。

北上:

GoToキャンペーン以前でも、客室内で食事ができるとか、露天風呂がついているなどの一部施設は、前年と同程度の需要を維持していました。しかし、食事がバイキング中心だったり、コストを売りにする施設、インバウンド向けの施設はかなり厳しく、施設によって落差が激しかった印象があります。

秋山:

単価の高い施設は安全性が高かったり、キャンペーンで今まで泊まれなかったところに泊まりたいという消費者の想いもあり、人気が高いようです。エリアでは、特に北陸が人気があります。

藤元:

それではキャンペーンは一定の効果があったということで、成功と言っていいでしょうね。
移動に関しては、移動しなくてもできることが多くなった反面、移動の価値が高まっているとも考えられます。このあたりはどうお考えですか?

秋山:

リモートワークに関しては、距離や時間コストを減らせたことは有益だったと思います。幅広く業務をしている人にとっては、非常にメリットがあるだろうと感じます。

北上:

3月末から、千葉の勝浦に疎開をしています。現在も静岡県立大学への講義はすべてオンラインで行っているため、まったく問題が無い状態です。勝浦は別荘地域であるが、物件への問い合わせが増加しているとも聞いていますね。

藤元:

今後、このような多拠点生活者は増加すると考えていますか?

北上:

全員ができるとは思わないが、増加するとは思います。ただ、インターネット回線は非常に重要なので、このインフラ整備はお金と手間をかけてやっていくべきだと思っています。

早川:

会社勤務だと労務管理が厳しい環境であると、なかなか難しいかと思います。私も地方に実際行ってみると、やはりいろいろな発見があるので、移動することの価値を感じているところです。

今後の観光業界の潮流予測

藤元:

これからの観光がどうなるのか、ご意見を伺いたいです。

秋山:

観光業はこの4、5年間はインバウンドに支えられていました。日本人旅行客数は減少傾向にあり、コロナがあろうがなかろうが、見直しをしなければならない時期にきていたと思います。
今後2、3年はマイクロツーリズムが主流になるだろうと思われます。現地に入ったときに、時間をそこで消費させるようなコンテンツを用意しない限りは、宿泊全体の需要にはつながらないと考えます。環境産業全体の振興に軸足をおくべき時代に来ているでしょうね。

北上:

インバウンドの復活は、2025年以降になるだろうといわれています。今までのように大量に安い観光を受け入れるのではなく、単価の高い観光に注力すべきと考えます。
インバウンドが来ない今、観光地の魅力を醸成していくべき時期に来ていると思います。そもそも日本人が来ないところにはインバウンドも来ないのだから、日本人観光客が安定的に来るような観光地の魅力づくりが重要な局面なのではないでしょうか。

藤元:

今後観光での長期滞在者が増えていく流れになると、宿泊施設のあり方も変わっていくのでしょうか?

秋山:

インバウンドに関しては2軸あると考えていて、隣接4か国(中国、韓国、台湾、香港)のうち、韓国、台湾、香港に関してはインバウンドの範疇で考えるべきでないと個人的には思っています。日本人が韓国アイドルのコンサートを観にいくことと、韓国人がジャニーズのコンサートを鑑賞しに東京に来ることに違いがあるのか、ということです。これらの国に関しては、インバウンド戦略で行くことが違うのではと思います。
ロングステイの需要は今後伸びると思うが、日本の旅館の場合は、宿泊と食事がセットになっているので、すべて旅館で食事までも抱え込む考え方は厳しくなるでしょう。

北上:

コロナ前、オーストラリアから1週間ほどスキー滞在するお客さん向けに、民宿近くの居酒屋などと組んで食事を提供する、という事例もでてきていました(民宿では毎日同じ食事しか出せないため)。
エリア内の宿泊施設、飲食店などがタッグを組んで、観光客にエリアとしての価値を提供していくことが主流化するのではと感じます。

Photo by Fezbot2000 on Unsplash

藤元:

一方移動では、航空会社は岐路に立っていると思っています。そんな中、ANAは先進的なチャレンジをしていて、マルチハビテーションの「ADDress」と組んで、1か月7万円で日本中に住めて移動もできるサブスクサービスの実証をしています。このような移動需要を生み出すサービスは今後すごく可能性を感じています。

北上:

移動と組み合わせたサービスモデルは、今後もますます増えていくでしょう。
VILLAGE INC.とJR東日本が組んで、無人駅の駅前にキャンピング施設を作るという取り組みもあります。漆黒の闇、星空がきれいに見えるなど、無人駅の良さが評価されているようですよ。
もう一つ重要な点として、24時間アピールできるコンテンツをどう作るかで、ロープウェイを使って頂上から朝陽を見るなど、24時間どう楽しめるかが、今後のコンテンツ作りで重要になってくると思います。

秋山:

今まで日本になかったコンテンツが、ナイトコンテンツ。早朝コンテンツも含め、移動のストレスなく体験できること、コンテンツを磨き上げていくことが、今後旅行会社に求められると思っています。その結果、消費者の長期滞在につながるのではと考えています。

これからの観光業界のあるべき姿とは?

藤元:

今後の観光業界は何に備えるべきか?どうあるべきかのメッセージを最後にいただきたい。

秋山:

これからは、観光産業振興企業であるべき、という想いがあります。観光という産業を通じて、地域や企業が栄えていくことを描くのが、観光ビジネスの繁栄につながると考えています。
旅行サービスはだれでも享受できるが、今の時代提供もできるようになってきています。個人事業主やWEBで提供できるサービスも増えてきているので、今後どのようにマネタイズにつなげていくかが重要と考えています。

北上:

先日他の大学でアンケートを取ったところ、使い捨てスリッパでないと嫌、という人が52%もいることが分かりました。今までのおもてなしの方式を変えていくということが必要になってきていると思います。
お客様目線に立って、現在のおもてなしの形がどうあるべきか、を考える必要があるでしょう。別のアンケートでは、旅館スタッフによるお見送りも不要とする方が多数であったようです。お見送りにかける力を、別のところにかけるような、新たなおもてなしの形を模索し続けていくことが、観光業界で勝ち組であり続ける秘訣かと思っています。


いままでの当たり前や常識が、生活者・お客様のニーズで変わっていくニューノーマル時代。
古い常識にとらわれず、新しい価値を把握しそれに沿ったサービスを提供することは、官民どちらにおいても共通の課題となる。

高齢化や人口減少等多くの地方自治体が抱える課題を、IoT、スマートシティ、MaaS、DXなど数多くのイノベーション施策で解決につなげようと邁進する加賀市は、いずれ地方自治体の成功モデルとして取り上げられるに違いない。

観光業界においても、地方ならではの価値の発見・商品化や、MaaSのように地域の交通ストレスを低減するサービスの実現により、旅行者と地域住民の両方にとってより良い世界が実現していく兆しが、ディスカッションを通じて感じられたと思う。

FPRC(Future Perspective Research Center)では、各業界のあらゆる動向、イノベーションの動きをウォッチし、より良い未来(2030年)の実現のためのヒントを発信し続けたいと考えている。
今後もFPRCのイベント等を通して、より良い未来を共創する仲間とそれを追求していきたい。

次回イベントは12月開催予定となっております。また別途ご連絡差し上げますので、奮ってご参加ください。

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Yoshida

専門は卸小売り、個人のライフスタイル、宗教・哲学など人文学。未来社会の事業環境整理・ 戦略コンサルティング、スマートシティ戦略立案等のプロジェクトに関わり AI、ロボット、IoT による社会課題解決に関心を 持つ。 カワイイ白犬と一緒に暮らす、ミレニアル世代。趣味は筋トレ・山登り・座禅・華道で、剛と柔の両立を目指している

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