【イベント報告】ニューノーマル時代に備える戦略とは?(9/18書籍発刊記念イベント)
7月にFPRC主席研究員の藤元による書籍「ニューノーマル時代のビジネス革命」が発刊された記念企画として、内容を解説し参加者とディスカッションするオンラインイベントを開催した。
書籍は新型コロナウイルス(COVID-19)の流行を受けてFPRCが4月から9月にわたって連載した「アフターコロナ時代のビジネス戦略」の流れを汲み、アフターコロナ、ひいてはニューノーマル時代の基本的な考え方となる「4つのY」に沿って、その内容や特徴的な事例を紹介したものである。
本記事では、その講演内容を中心にレポートする。
※本イベントの講演部分は、YouTubeでも公開しております。
工業化社会にとどめをさすCOVID-19
工業化社会では、工場へ労働者が通うのと同様に、ホワイトカラーの知的労働者も都心のオフィスへ通うことに疑問を持たれることはほとんどなかった。しかし急激にリモートワークを導入する企業が増えたことで、そういった知的労働者にとってオフィスが必ずしも必要ではないのだと気付かされたのである。この転換により、長らく続いてきた工業化社会は終わろうとしていることも事実である。
これまでは工業化社会での効率性や生産性を追求するためのものであったIT技術も、いまや第四次産業革命を支える中心的な役割を担っている。そうした技術の発展が目覚ましい中で新型ウイルスが流行したことにより、ポスト工業化社会に向かって一気に加速することとなった。
破壊的イノベーションとコロナ禍で、バックキャストがより重要に
破壊的イノベーションは工業化社会以前への回帰をもたらす側面も持っている。
例えばレコードやCDという工業製品がサブスクに取って代わられることで、音楽における付加価値はライブなどのサービスへと移っている。これは歴史的に見ると工業化社会以前の時代の音楽の楽しみ方に戻っているとも言えるのである。
また、公の問題に対して「自分たちが主体的に行動しなければ」という意識を強く植え付けられたことは、コロナ禍における変化の一つである。これも明治時代より前、公と国が一体化する前の日本社会の形に近い。
ブランドに求められるサービスも、成熟した工業化社会において重視された「自己実現欲求」「承認欲求」といった高次の欲求を満たすだけではなく、より低次の「安心安全」をきちんと保証してくれるというところにも価値が置かれるようになった。
上記からもわかるように、ニューノーマル時代の価値観の変化に備えるには、こういったバックキャストの視点も重要になると考えられる。
ニューノーマルに関連するSNS分析
今回のイベント開催に際して、新しい生活様式にもつながる自主調査を行った。
以下はD4DRのサービスの一つであるSNS分析の手法を使い、Instagramを対象に、コロナ禍で注目された新たなアクティビティ「ベランピング」についての調査結果である。
まず投稿件数について、左上の昨年同月との比較を見るだけでも、GWのある5月で約2000倍、お盆のある8月には外出自粛が緩和されていたにもかかわらず約1000倍となっている。左下の日別推移グラフからも、特に土日・祝日にはコンスタントに一定数の投稿があることが分かる。
右上には特徴的な共起タグをまとめた。「マイホーム計画」といったタグからは、住宅選びの前提として今後もベランピングを楽しむことが加わっているケースが多いことが読み取れる。
さらに実際の投稿を見てみると、写真そのものや「家だと楽」「夏らしい」といったコメントから、なぜ支持されているのか、どのようなシーンで楽しまれているのか、といった傾向を把握することができる。
Instagramを見て分かったこれらの要素から、
・ベランピングは、日常と非日常のいいところ取りな”暮らしの1シーン”として受容されている
・今後の住宅購入に際して、広い庭やベランダのニーズが増える
・本格的なアウトドアに比べて手軽であったり、小ぶりなツールの充実が求められる
といった仮説を導出することができる。
※SNS分析サービス詳細:https://www.d4dr.jp/service/research/sosial-media-research/
様々な事例を通して表れてきた「4つのY+Agility」
4月に公開した「アフターコロナ時代のビジネス戦略」概論で紹介した「4つのY」も、この数カ月を経て議論される機会が大幅に増えた。以下にそれぞれのポイントをまとめているが、詳細は上の記事を参照されたい。
Traceability
・国家による国民のID管理は、台湾のマスク配布や韓国の給付金申請の例のように効率化が望める一方、プライバシーの問題も避けては通れない。アイデンティファイと匿名のバランスをどう取るかが重要である。
・企業にとっては、例えばAmazon GOが「顧客を把握している」ことの強みを活かしているように、LTVの考え方を一般の小売にも適用するためにも顧客のID化は有望な施策と言える。
Flexibility
・店舗の役割が変わりつつあり、来店した匿名の顧客に会員になってもらうのとは逆の流れが起こっている。
・家賃の変動費化も広がり、より柔軟な形態の店舗が出せるようになると考えられる。
・日常と非日常のシームレス化(フェーズフリー)が当たり前になる。非常時には交通機関も店舗もきちんと休むことを前提にしたサービス設計が求められる。
・モバイルオーダーは、もともと取り組んできたOMO施策が非常時に役に立った例の一つ。吉野家やサブウェイなど、新規顧客の取り込みと客単価の向上が図れた事例が増えている。
・働き方が自由になりマルチハビテーションが増えると、住民税も滞在の割合によって分割して納められるとよい。地方創生にもなる。
・時間帯や日によって道路の使い方が変化するというアイデアは、これからの都市設計に必要だと考えられる。
Mixed Reality
・リモートワークが浸透しても、未だブレストやちょっとしたコミュニケーション、エモーショナルな体験はなかなかリアルに取って代わりにくい。
・メタバースの発展に伴って、その中での生活が充実していく。また、Facebookが構想しているメタバースと仮想通貨が組み合わさると、現実以上にそちらで稼ぐ人も出てくる可能性もある。
・コロナ禍で投げ銭(応援経済)が加速し、対価に対する考え方が変わりつつある。
Diversity
・コロナ禍で株主至上主義やKPI至上主義への傾倒ではなく、持続可能性にも目を向けることが必要だと分かった。内部留保という体力を温存しておくことも大事。
・雇用で「女性や外国人やハンディキャッパーを増やさなければ」という議論ではなく、管理や評価の仕方に多様性を持たせる議論に移行していく。
・競合企業であっても、非競争領域で手を組むことはメリットになる。
・国内生産の見直しが進む。
Agility
・ルールを素早くダイナミックに変更する(それを可能にするシステムの確立が必要)。
・リアルタイムで可視化された現状やシミュレーションに沿ってルールを変更することで、社会全体で最適化を図れる。それによってイノベーションも促進される。
顧客・店舗・商品の3要素から考える、これからの店舗ビジネス
顧客とプロダクトをつなぐ場としての店舗における体験価値は、これからも残る。ただ、体験価値のパターンはどんどん多様化していく。楽しさを追求したり便利さを追求したり、付加価値の生み出し方は様々である。
そして、ユニクロのように顧客のデータ・体験の場・プロダクトのすべてを持つ企業も存在する。そうであれば究極のSPA業態を実現できるが、いずれかを持たない場合は、持っているものをひたすら磨いていくことになる。これからの店舗ビジネスを考えるにあたっては、これらの要素に沿って整理していくと先が見えてくるのではないだろうか。
まだデジタルでは補えないセレンディピティ
最後は、ご参加いただいた方からもコメントをいただきながら、「リモートワークでのコミュニケーション」「都心偏重から郊外へのシフト」といったテーマについて議論を深めた。いずれも偶発的にアイデアが生まれたり人やモノと出会ったりするセレンディピティに焦点が当たった。
例えばウェビナーで、通常のセミナーのような懇親会を再現することは現状なかなかできない。興味のある話をしている人と知り合えるチャンスはコロナ禍では極端に少なく、オフィスでの何気ない会話や都心でのふとした出会いも同様である。セレンディピティをデジタルでいかに提供するかという部分にはまだまだビジネスチャンスがある。
D4DRでは、ニューノーマル時代を見据えた事例・影響調査や戦略立案の支援を行っております。
詳しくは、以下のページをご参照ください。
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Matsui
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