【イベント報告】アフターコロナ時代の近未来シナリオを描く(後編)
2020年6月23日に、FPRC主催のオンラインイベント「アフターコロナ時代の近未来シナリオを描く」が開催された。ゲストスピーカーに株式会社 村上憲郎事務所 代表取締役 村上憲郎氏を迎え、FPRC主席研究員の藤元、上席研究員の坂野が、新型コロナウイルス流行を経て起こりうる社会や価値観の変化について議論を行った。
本イベントは、「アフターコロナ時代のビジネス戦略」連載をもとに行われた。 最初に3名がそれぞれプレゼンテーションを行い、その後パネルディスカッションを実施した。坂野と藤元によるプレゼンテーションでは、記事「不可逆なアフターコロナ時代の視座“4つのY”」「パンデミック後の近未来シナリオを考える」の解説を行った。
本記事では、村上氏によるプレゼンテーションの内容を紹介する。
(前編:「【イベント報告】6/23「アフターコロナ時代の近未来シナリオを描く」前編」」)
プレゼンテーション③「我等、遠方より来たりて、遠方へ去る!」(村上氏)
村上氏のプレゼンテーションでは、宇宙が誕生してから現在までの歴史「ビッグ・ヒストリー」の視点から、アフターコロナの未来を考えた。
ビッグ・ヒストリー
ビッグ・ヒストリーの視点から長いスパンで歴史を振り返ることで、「社会の変化が加速していることに気づいてほしい」と村上氏は話す。
人類が138億年前にビッグバンで宇宙が誕生し、46億年前に太陽系・地球が誕生、38億年前に地球上に生命が誕生した。700万年前に人類と類人猿が分岐し、直立原人や旧人の登場を経て、20万年前に「やっと」ホモ・サピエンスが登場した。
その後20万年間の人類社会の歴史を考えると、「Society1.0」と呼ばれる狩猟・自然物採集社会が19万年間続き、農耕社会が1万年前から、200年前からの工業社会を経て情報社会となったのはわずか50年前。そして、現在はIoTやAIなどの技術革新をコアとする「第4次産業革命」を通して、「Society5.0」と呼ばれる「超スマート社会」へ移行しようとしている。
ICTの新地平
ここ50年ほどの情報社会を支えるICTに目を転じても、近年の変化は大きいという。CPUが40年近く続いたが、ここ数年はGPU、TPU、xPUへと移行してきている。さらに、電子計算機から量子計算機へ、論理計算もbit(0と1)からqbit(0と1の重ね合わせ)への変化も進んでいる。「他世界宇宙に渡って同時に計算するという、この場では到底言い尽くせない」変化が起きていると村上氏は話す。
また、ICTの変化で生活のあり方も変わる。モバイル通信が4Gから5Gへ代わり、ウェアラブルデバイスが普及すると、「オーギュメンティッド・リアリティ」という現実と拡張現実が混ざりあったところで遊びや仕事を行える状況が生まれる。
AI時代を生き抜く3つの道
今後、ロボットやAIに人間の仕事が奪われ、資本主義が大きく変貌すると言われている。そのような未来で選べる道は3つあると、村上氏は話す。
ディープラーニングの発展改良に寄与する道
数学的な素養を持つ人には、第4次産業革命後の社会でコアとなる技術の一つである、ディープラーニング(以下DL)に関わる道があるという。高等数学やコンピュータ・サイエンスの素養があり、プログラミング技能を心得ている人は、まだ登場して間もないDL技術の改良に参画することができる。
ディープラーニングツールを使って課題を解決する
近年は、米国大手IT企業などが、DLツールを提供している。これらのツールは、DLの基礎原理さえ理解していれば、開発に携われるほどの専門性を持たない人でも使うことができる。それを利用して課題解決にDLを活用するというのが2つ目の道である。
AIの何たるかを理解し、その社会経済的影響を心得る
②のような道は選べない、という人も、技術進歩が社会に及ぼす影響を理解しておくことが求められるという。
『人間の条件』と、ロボット・AI
ロボットやAIが人間の仕事を奪う時代を迎えるにあたって考えル必要があるのは、「働く」ことそのものについてだと村上氏は話す。
「政治哲学者ハンナ・アーレントは、晩年に執筆した『人間の条件』で、人間の「働く」には「レイバー(Labor)」「ワーク(Work)」「アクション(Action)」の3種類があると言いました。
「レイバー」は簡単に言うと、どうしても食うためにやらざるを得ない仕事。「ワーク」は社会的な典型的には医師、看護師、教師、音楽家、画家、スポーツ選手の仕事で、もちろん食うためにもやっているけれど、どこかしら社会的な貢献の要素がある仕事です。「アクション」は政治に関わる活動のことで、投票に行くことやデモに参加すること、議員に当選して議会に出ることなどが当てはまります。」(村上氏)
「ロボットやAIが人間の仕事を代わりにやる例が、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)です。そして、その別名は「デジタルレイバー」。つまり、自動化によって置き換えられるのは、食べていくためにどうしてもやらざるを得ない「レイバー」の部分だということです。
ベーシックインカムが支えるような社会になると、AIやロボットは人間の仕事を「奪う」のではなく、レイバーをやってもらう存在で、人間は「ワーク」と「アクション」のところをやればいいということだとも考えられます。
200年くらいかかる歴史のプロセスだとは思いますが、人間はいよいよレイバーから解放されるかもしれないですね。」(村上氏)
現在は、村上氏がプレゼンテーションで述べたように、技術進歩によって大きな変化が起きている。だからこそ、ビッグ・ヒストリーやバックキャスティングといった時間軸をまたぐ考え方が重要になると考えられる。
プレゼンテーションの後に行われたパネルディスカッションでは、村上氏のプレゼンテーションを受け、ベーシックインカムが社会に提供する価値についてから議論が始まり、コロナ流行を機にビジネスにおける「体験価値」の質や、トレーサビリティと監視国家についても話題が広がった。
本イベントの後7月29日には、日経BP社より書籍「ニューノーマル時代のビジネス革命」が発刊された。
本イベントの前半で藤元が解説を行った記事の「不可逆なアフターコロナ時代の視座“4つのY”」をもとに、複数のマーケティング事例を紹介している書籍で、より詳細に4つの視座を深掘りしている。
2020年9月18日(金)には、本書籍の発刊記念イベント「ニューノーマル時代に備える戦略とは?」を開催いたしました。 イベントレポートは以下のバナーよりご覧ください。