食もIoT化―進化する食品宅配とスマートホーム―
近年、高齢化や女性の社会進出、食の安全意識の高まりから、食品宅配の需要は高まりをみせ、様々な食品宅配サービスが登場している。食品宅配需要再興の背景にある環境や、海外の最新事例、今後の変化の兆しを見ていきたい。
食品宅配のいま・むかし
食品宅配の歴史は古く、日本国内においては江戸時代にさかのぼる。
江戸時代は冷蔵技術が無かったため、客の元に直接出向く出前販売(そば、すしなど)や、路上で掛け声を上げながら販売する路上販売(シジミ屋、青菜屋など)が大きく発展し、花開いた時代であった。
その後、冷蔵庫や洗濯機など家電の登場による家事時間の大幅な短縮や、高度経済成長期における外食産業の発展とコモディティ化により、食品宅配の需要は鈍化した。
しかし、女性の社会進出や核家族化、高齢化社会の進展など様々な要因により、食品宅配は再び需要が高まり、スポットライトが当たっている。
ワーク・ライフ・バランスとともに変わる食品宅配の需要
近年、女性の社会進出が進み、内閣府の発表によると、平成29年の共働き世帯数は1,188万世帯を突破し、昭和55年の614万世帯からほぼ倍となった。
出典:
http://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h30/gaiyou/html/honpen/b1_s03.html
また、6歳未満の子供を持つ世帯の女性における家事時間は平成28年に約3時間となっており、1日の8分の1を占めていることになる。
出典:http://wwwa.cao.go.jp/wlb/government/top/hyouka/k_42/pdf/s1-1b.pdf
しかしながら、家事の時間は20年で約1時間減少しているという結果も出ており、家電の発達(ロボット掃除機、食洗器、洗濯乾燥機など)による好影響や、共働きとなったことによる男性(夫)との家事分担が進んでいることが要因と考えられる。
仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)が取れてこそ、私たちの人生は喜びや生きがい、幸福で満たされる。夫婦がお互いに定職を持ち、働きながらも助け合って家事や育児をするライフスタイルへの変化が起こっている。
このようなライフスタイルの変化を受け拡大しているのが食品宅配市場で、矢野経済研究所によると、2017年度の食品通販市場規模は約3兆6,000億円(見込)、2021年度には約4兆円(予測)まで成長すると見込まれている。
もちろん共働き世帯の増加のほかに、高齢化も成長の一翼を担う。
食品通販市場拡大の一因となっているのが「ミールキット」で、買い物の手間を減らしたい、調理の時短をしたいという需要の高まりから、共働き世帯を中心に支持されている。
「ミールキット」は料理を作るために必要な食材や調味料、レシピがセットになったキットで、Oisix(オイシックス)、ヨシケイ、コープデリ、生活クラブ、パルシステムなどが展開している。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000334.000008895.html(オイシックス・ラ・大地のプレスより)
アメリカで進化する食品宅配 door-to-door(ドアツードア)からdoor-to-fridge(ドアツー冷蔵庫)宅配は「軒先から家の中」へ
ウォルマートは、食料品の配達を玄関まででなく顧客の冷蔵庫まで届けるサービス(In Home Delivery)を秋より開始予定としている。顧客の家にはスマートエントリー技術を使用して入り、配達人はウェアラブルカメラを装着し安心・安全を担保する。顧客は配達の様子をスマートフォンで確認でき、遠隔で監視することが可能。
宅配を受け取る手間や、買ったものを冷蔵庫に収納する手間が無くなり、食品宅配のサービスは「軒先」から「家の中」まで進んできている。
近年はワークスタイルやライフスタイルの変化により意識の変化が見られ、自分でしなければならない家事や雑事などのアウトソーシングが進む。自分でやる時間がない人や、やるべき時間をサービスとして購入し、自分の楽しみの時間に充てたいと考える人が増え、自分の時間を作るためには、お金を惜しまない考えが浸透してきている。
In Home Deliveryのサービスも、他人を家に入れることに対し、強い抵抗がある人を取り込むことは難しい。しかし、自分の時間を作りたいと家事代行サービスを活用している人や、ベビーシッター、ペットシッター業務を依頼している人、民泊を経営する人などは、他人を家に入れることへのハードルが低いと考えられるため、国内でもIn Home Deliveryのようなサービスが広がっていく素地はあると考える。
出典:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000023712.html
現状、他人を家に入れることへ抵抗がある人は、サービス利用者が40%、非利用者が56%となっている。
「うちの明太子はなくならない」辛子明太子メーカーのふくやが仕掛ける明太子が切れることがない暮らし
国内企業では、辛子明太子メーカーのふくやが面白い取り組みをしている。
IoTの組み込まれたケースで家庭の明太子の残量を重さで検知し、そのデータを基に自動発注を行う仕組み。
自動発注はAmazon Dash Buttonで消費者に認知され、一般化した。他にも使用量をモニタリングし水を自動発注するウォーターサーバー、指定された残重量からコピー用紙を自動発注するサービスも登場している。
辛子明太子は無くなってもさほど困るものではないが、残量を検知して自動発注による商品のお届けを介して、顧客との継続的な関係を築くことに一役買っている。
スマートホームでさらに変わる、食品宅配の形
食品宅配はスマートホーム化の進展により、さらに形を変え進化・普及することが予想される。事実、先ほど紹介したウォルマートのIn Home Deliveryではすでにスマートホームの一機能であるスマートロックを活用していて、食品宅配市場はスマートホーム化の進展と一蓮托生だ。
宅配のスマート化を推進するデバイスとしては、宅配ボックスがすでに普及段階にある。
出典:http://www.group.fuji-keizai.co.jp/press/pdf/190128_19006.pdf
富士経済のデータによると、宅配ボックスの市場は年々拡大傾向にあり、2025年には200億円を超えると予測されている。
出典:https://honote.macromill.com/report/20180605/
マクロミルの調査によると宅配ボックスの普及率は、マンション・アパートで約3割となっており、インターネット通販普及による宅配受け取り需要の高まりに応じて、宅配ボックスの導入が徐々に進んでいることが分かる。
現在の宅配ボックスはインターネットに接続しないアナログな形状が多く、スマートシティの一機能であるとは言えないが、利用者が利便性向上やスマート化を家そのものに求める先駆けと言える存在だ。
特にスマート冷蔵庫の進化は、今後の食品宅配を大きく変える可能性が高い。
サムスンのスマート冷蔵庫「Family Hub3.0」は庫内にカメラが内蔵され、スマートフォンで冷蔵庫の中身を把握することが可能。またあらかじめ食品の消費期限を入力すると、消費期限が近付くとアラートが出て、食品の管理をより容易に行える。スマート冷蔵庫はドイツ「Liebherr」中国「Haier」なども提供している。
冷蔵庫にある食材と消費期限を管理できれば、食品の発注も自動化され、私たちは食品に関わる管理から解放され、スマートに料理や食事を楽しむことができるようになる。
また、スマートホームというより大きな概念で考えた時、スマート冷蔵庫の扉は家の外壁からも開けられるようになることが望ましい。外側から開けられるようになれば宅配がスマートになるだけでなく、余った食材を近所でシェアする、庭で取れた野菜を知り合いの冷蔵庫にお裾分けする、子供食堂などへの食材の寄付を自動で行うなど、様々な活用の可能性が考えられる。
家庭の冷蔵庫内の食品データが管理され、食品宅配サービスや食品シェアリングサービスと連携することにより、国内のフードロスは各段に減ることとなり、社会全体の最適化が可能となる。
スマートホーム化の進行は、食品宅配サービスにあり方に大きく影響をもたらし、私たちの生活をより便利にしていく。
食がスマートホームを介してIoT化することで、個人のニーズに合った商品の提供から、食における社会の全体最適を促すなど、フードロスなどの社会問題を解決し、最適な生産・消費がなされるようになる。
また、食のエンターテインメント化や食を介したつながりの強まりなど、食のサービス化もどんどん進行し、食品宅配サービスも食を宅配するにとどまらないサービスの提供が求められることが予想される。
Yoshida
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