ドローン配送の展望 ~レベル4解禁後の動向、現在地と未来~

2023年6月、第8回目となる「ジャパンドローン2023」が開催される。レベル4(有人地帯での補助者なし目視外飛行)が解禁されたこともあり、国内のドローン市場はさらに活性化が見込まれる。
一方で、ドローンを活用した生活者向けサービスの普及には、まだまだ課題が残っているのが現状である。
本記事では、シンクタンクFPRC首席研究員・藤元健太郎が、ドローンを活用した生活者向けサービスの展望について考察する。

2013年、Amazonがドローンによる配送「Prime Air」構想を発表した。当時はまだほとんどの人にとってドローン配送は夢物語だった。それから10年が経ち、現在起こっているウクライナ戦争では、ドローンは偵察や爆弾の輸送などでもはや当たり前に使われるようになっているが、日本に暮らす我々の日常生活においても、ようやくドローン配送が現実のサービスになろうとしている。

しかし、最初にドローン配送を提唱して2032年までに5億個の荷物を配送すると発表していたAmazonの取り組みは、まだまだごく一部のサービスエリアで実証実験段階のようだ。一方で2014年に設立された米国のZiplineは、まだ物流インフラが整備されていないルワンダなどのアフリカ地域を中心に、医薬品や血液、食品などに特化した配送サービスとして、2016年のサービス開始以降すでに累計35万回、距離にしておよそ4000万マイルの実績を上げている。春に発表された新モデルは最大で3.6kgの荷物を抱え16kmの配送を10分で完了するという、従来の自動車による宅配の7倍程度の速さを実現すると言われている。また、この新モデルのユニークなところは、これまでのように荷物をパラシュートで落下させるのではなく、配達ドロイドと呼ばれる子機(まるでサンダーバード2号の子機のようだ)が本体から荷物を持って地上まで降下してくる。ドローン本体が着地するよりも安全性が格段に高いと考えられるよいアイデアと言えるだろう。

日本国内におけるドローン活用は、主に点検と測量分野では順調に利用が拡大している。2022年12月にようやくレベル4の飛行が解禁され、有人地帯における目視外飛行が可能になったことで、より一層ドローン配送の普及に期待がかかっている。豊田通商が前述のZiplineに国内企業として出資し、五島列島で医薬品の配送を昨年5月末からスタートさせるなど、これまでのドローン配送の実験は離島や過疎地域で主に行われてきたが、今後はようやく都市部も含めた一般地域における配送利用が本格化すると予想される。

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今後国内でドローン輸送を本格化させるための課題はいくつかある。

まず一番鍵を握るのは、飛行機の航空管制システムと同じようなUTM(UAV Traffic Management)と呼ばれるドローン運行管制システムだ。様々なメーカーの多様な性能のドローンが同時に多数飛び交う状況では、適切な管制システムがなければ混乱や事故などのリスクが大きい。また、こうした管制システムを機能させるためにはHDマップと呼ばれる高精度3次元地図が必要になる。特に様々なビルが建ったり取り壊されたりする都会で飛行するには、リアルタイムなマップデータが欠かせない。さらに気象情報も低高度な上空における風力といったきめ細かいものが必要になるなど、環境整備において欠かせないものが様々ある。

次に、目視外の長距離飛行が増える中では、飛行中常時通信できる状況にあることも重要であり、今後は移動体通信サービスとの連携が重要になる。実際に通信各社はドローン子会社を設立するなどしてサービス提供を進めており、例えばKDDIがイーロン・マスク氏による衛星通信サービスのStarlinkと提携したことにも注目したい。日本の携帯電話サービスは人口カバー率99.97%と言われているが、山間部が多く、周辺を海に囲まれ、離島が多い国土の特徴から、カバーできている面積はそこまで広くない。しかし、ドローンは過疎地域や離島でもサービスを提供することが想定されており、Starlinkのような基地局がないエリアでも通信が可能なサービスが必要になる。

さらに国内では荷物を落下させるタイプの配送手段が禁止されているため、ドローンの発着場になるドローンポートの整備と、そこから陸上でラストワンマイルを配送するための低速自動運転車やロボットも重要になるだろう。すでに時速6km程度で走行する小型自動運転車の実験もスタートしているが、人手不足がますます深刻になる日本においては、空と陸の両方で無人化・省人化を実現することが、低コストな配送サービスを実現するために欠かせないポイントだ。

そして何よりの課題はペイロードの向上だろう。大きく重い荷物が輸送できないと、あくまで部分的な代替サービスにしかならず、ドローン配送の用途が軽量な医薬品などに限られてしまう。国土交通省でも50kgの荷物を50km輸送するドローンを開発中だが、モーターとエンジンを組み合わせたハイブリッド型も今後次々と登場することが予想される。カーボンニュートラルを実現するという制約を加味すると、合成燃料や水素など燃料電池対応のドローンなども登場するだろう。

2年後の大阪万博ではいよいよ人載型ドローンの商用利用がスタートする。当初は操縦士が同乗するためコストを下げるのは難しく、利用者も限定されると考えられるが、日本において今後インバウンドの超富裕層向け市場の成長が期待される中で、人載型ドローンを利用した旅行などのサービスは有望な分野だ。超富裕層はプライベートジェットやクルーザーなどで日本に訪れることが予想され、そうした空港や港にドローンが離発着できるポートを整備し、そこから人載型ドローンを使って観光地まで輸送できれば、陸路で訪れるには不便な地域でも格段に交通の便がよくなることが期待される。

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一方、今後ドローンが普及してトラフィックが急増することで、街中での落下事故などのトラブルも増えるだろう。そのことが危険なものとして糾弾されたり議論が紛糾したりすることもあるだろう。しかし現在も自動車の事故は毎日のように発生しており、不幸なヘリコプター事故も記憶に新しい。そもそも物理的な乗り物の事故をゼロにすることはできないのだ。空中のドローンや陸上の自動運転車を一日でも早く普及させるためには、利用する側の我々も一定のリスクを許容していく必要があり、保険制度などの拡充も必要になるだろう。何よりも日本の社会システムを前進させるためには、技術開発だけでなく、利用者側がイノベーションを受け入れ、社会を進化させていく参加者の一員になるという意識も重要になると考える。


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