社会全体に及ぶイーロン・マスクのビジョン――SpaceX、Starlinkなど7事業を徹底解説
イーロン・マスクは、Space Xを最初に手掛けてから、そのロケットで通信衛星を打ち上げるStarlinkや、BMI(Brain Machine Interface)を開発するニューラリンク、テスラのEV・仮想発電所事業、チューブの中を高速移動するハイパーループ事業などを展開してきた連続起業家である。
本記事では、イーロン・マスクが主に運営している以下の7つの事業について内容や特徴、資金調達状況などについて詳しく説明する。
SpaceX
SpaceXは2002年3月にカリフォルニア州ホーソーンに設立されたアメリカの航空宇宙メーカーである。宇宙船の設計や製造だけではなく、宇宙インターネット接続サービスを提供しており、他の惑星への移住を最終的な目標としている。以下はSpaceXが提供する製品である。
「Falcon 9」は同社が開発した宇宙船や補給船の打ち上げに使用されるロケットであり、ブースターの回収や再利用が可能となっている。2010年12月には民間企業として初めて地球周回軌道の飛行、帰還カプセルの回収に成功、2012年10月には民間企業としては初めてISSへの結合に成功している。「ファルコンヘビー」は、2018年2月に初めて打ち上げに成功したロケットであり、重量6.4トン、火星軌道に1.7トンの宇宙船や人工衛星を打ち上げることが可能であることから、世界最大の威力を持つロケットであると言われている。「ドラゴン」は、7名の搭乗が可能な宇宙船であり、民間企業で初めてISSへ人類を送った宇宙船である。
SpaceXの商業用ロケットFalcon 9
(出典:SpaceX 公式サイト)
1961年〜1972年のアポロと比較すると1シートあたりの宇宙飛行士が負担するコストは、SpaceXのドラゴン2を使用することで約1/7のコストカットを実現しているという。2023年1月3日のBloombergの記事によると新たな資金調達ラウンドとして7億5000万ドル調達したことが公表されている。
Starlink
SpaceX社の事業の1つであるStarlink人工衛星を使った通信サービスを提供している。場所を選ばずにネットを利用することができるという点が最大の特徴であると言われている。2020年には、約12,000もの人工衛星を打ち上げ、北アメリカとヨーロッパにて試験運用が行われた。現在は米国、スカンジナビア諸国を除く欧州、南米、オーストラリア、ニュージーランドのほぼ全域で使用可能となっている。
日本ではKDDIが、Starlkinkを基地局とネットワークを繋ぐバックホール回線として使用するau基地局の運用を、2022年12月1日から開始している。2022年2月には新プラン「Premium」を発表。従来のスタンダードプランは50〜250Mbpsだが、新プランは150〜500Mbpsなのでかなり早くなる。価格はアンテナが2,500ドルで月額料金は500ドルとなっている。
Starlinkをバックホール回線として使用する静岡県熱海市初島のau基地局
(出典:KDDI プレスリリース)
NEURALINK
「NEURALINK」は2016年に設立され、BMI(Brain Machine Interface)と呼ばれる人が念じるだけでコンピュータを扱えるデバイスの開発を目指している。
2020年8月には脳にAIを埋め込む「LINK VO.9」、自動手術ロボット「V2」の試作品を発表している。また、イーロンマスクは小型デバイスを人に埋め込む臨床実験を半年以内に開始することを2022年11月30日に公表している。
一方、競合である「Synchron」は米国で初めて人間の脳にチップを埋め込むことに成功。2021年12月23日に発表によると、チップを埋め込んだ男性が念じただけでtwitterでメッセージを発信できたことが判明している。
Neuralinkのデバイスを脳に埋め込んだサルが文字を入力する様子
(出典:Neuralink 動画)
Tesla Car
Teslaは2003年にアメリカで設立された自動車メーカーである。電気自動車の販売においても有名な会社であり、スーパーチャージャーというTesla車専用の充電スポットを世界で40,000基提供している。
同社は自動運転技術にも特化している。自動運転の対象となっている車には8台のカメラが搭載されており、360度の視界と250m先の情報を処理することができる。自動運転がオフの状態のシャドーモードでは、AIの予測と人間の実際の行動の差分データを収集・分析することで自動運転の精度を向上させている。
Teslaの株価は2020年から2021年にかけて10倍に成長し、2022年には65%の急激な下落があったものの、株式時価総額は3890億ドルとトヨタやGMの水準を上回っている。株価の下落は、Twitter買収時におけるTesla株の大量売却や納車台数の減少が原因ではないかと考えられている。
Tesla Model S
(出典:Tesla 公式サイト)
Tesla 電源ビジネス
Teslaは自動車製造だけではなく、太陽光発電や大型蓄電システムの提供も行っている。
「Soler Roof」は、一般的な屋根のタイルよりも3倍以上強い耐久性を持つ家庭用発電機である。タイルと発電の保証期間は25年となっており、Teslaアプリで太陽光発電量、電気消費量を確認することができる。家庭用の発電機である「Powerwall」は、屋内、屋外での使用が可能で、10年の保証期間がついている。
Teslaは各地でPowerwallを用いたバーチャルパワープラント(VPP)事業を展開している。VPPは小規模な発電・蓄電設備をIoTなどを活用したリアルタイムモニタリング技術によって束ね、遠隔・統合制御を行うことで電力の需給バランス調整や取引を行う新しい電力供給・ビジネスの仕組みである。Teslaは日本では2021年から沖縄県宮古島でVPP事業を展開し、2022年8月までにPowerwall300台以上を設置したと発表した。
宮古島に設置されているPowerwall
(出典:テスラ プレスリリース)
「Autobidder」は発電事業者や公益事業者にバッテリー資産を収益化するプラットフォームである。集合住宅からユーティリティ施設まであらゆる規模に対応している。また、南オーストラリア州のホーンズデール電力保護区で市場入札を行ったことで、電力価格低下の競争を促進したとされている。
「Powerhub」は、再生可能エネルギーやエネルギー資源を監視・制御するプラットフォームである。Tesla以外の発電機やブレーカーもPowerhubの対象となるため、他社製品のエネルギー管理が可能になる。「Opticaster」は、リアルタイムでエネルギーの予測と最適化を行う1億時間以上の運用実績があるソフトウェアである。マサチューセッツと南オーストラリア州において仮想発電所のオペレーションの基礎として運用されている。
The Boring Company
「The Boring Company」は、地下トンネル技術を用いた交通課題の解決を掲げる企業である。2018年にはカリフォルニア州ロサンゼルスのホーソーンに約2kmの研究開発用トンネルを建設し、公開した。また、ラスベガスで進めている「Vegas Loop」プロジェクトでは、地下トンネルにEVを走行させて低料金の交通サービスを提供し、渋滞を解消することを目指している。2021年に完成したラスベガス・コンベンション・センターの各建物を結ぶトンネルは、「CES」などの展示会の参加者が利用できるようになっている。
同社が提供する掘削機の「Prufrock」「Prufrock-3」は、遠隔操作、自動運転で稼働できるためトンネル内に人を配置することなく掘削できるという点が特徴となっている。また、自動運転により24時間稼働できるため、工期短縮に繋がる。
2022年4月に6億7500万ドルのシリーズC資金調達を達成し、時価総額は56億7500万ドルに成長した。
Hyperloop
「Hyperloop」は、2013年8月に公表された真空チューブ型鉄道の構想である。時速965kmで乗客を運び、ニューヨークからワシントンD.Cまでの移動時間を約30分以下に短縮するというものである。磁力で移動するためCO2が発生することがなく環境負担が少ない上、チューブの中を移動するためハリケーンなど天候に左右されることなくいつでも移動が可能になる。
2020年11月ネバダ州の砂漠で有人試験に成功し、最大時速172km、500mを15秒かけて走行した。2022年後半にも本格的なテストが開始される予定だが、現在は56kmを自動運転の電気自動車で走る「Loop」という同様の事業も計画が進んでいる。Loopの場合、時速は240kmになると想定されている。
Hyperloop テストトラック
(出典:Hyperloop 公式サイト)
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