サーキュラーエコノミーとは?ビジネスモデルと事例
2050 年の世界人口は 97 億人に達し、それに伴う資源・エネルギー・食料 需要の増大、廃棄物量の増加、地球温暖化をはじめとする環境問題の深刻化が予測されている。例えば、GDP と人口の急激な増加により、世界の資源採掘量は、2015 年における 880 億トンから 2060 年には 1,900 億トンへと2倍以上に増加するとの予測がある。資源価格の高騰に加え、資源への需要が一層高まることで、従来は採掘されなかった低品位の資源が採掘され、資源国等においてこれまで以上の環境影響が生じることも危惧されている。このような状況の下、従来の大量生産・大量消費・大量廃棄型の線形経済モデルは、世界全体として成り立たなくなってきている。
サーキュラーエコノミー(循環型社会)とは、従来のテイク(資源の採掘)、メイク(作る)、ウェイスト(捨てる)の一方向の産業モデルに対して、そこで廃棄されていた製品や原材料などを新たな「資源」としてとらえ、資源を循環させる経済のモデルである。これは、社会全体の利益に焦点を合わせて経済成長を再定義することを目指し、有限の資源消費に頼ることなく経済成長を促す。サーキュラーエコノミーは、従来からある、「Reduce(減らす)」「Reuse(再利用する)」「Recycle(リサイクル)」という製品を消費する段階のみで循環する3Rの考え方とは異なり、原材料調達・製品デザイン(設計)の段階から回収・資源の再利用を前提とし、廃棄ゼロを目指す考え方だ。
本記事では、自治体や企業によるサーキュラーエコノミーの実践事例を紹介する。
サーキュラーエコノミーを実践している街―アムステルダム―
アムステルダムは、サーキュラーエコノミーにいち早く移行することを目指し、すでに70以上のプロジェクトを実施している。サーキュラーエコノミー移行のグローバルリーダーとして注目を集めている都市であり、既にスタートアップから大企業まで、サーキュラーエコノミーを体現する企業が数多く活躍している。Amsterdam Circular 2020-2025 Strategyでは、アムステルダムは一時原材料の使用を2030年までに50%削減、2050年までに100%削減することを目標として掲げている。この目標を達成するにあたって、アムステルダムは食品廃棄物、消費財、建築の3分野でのバリューチェーンに焦点を当てた取り組みを行っている。
例えば、揚げ物に使われた食用油は収集され、市営バスのバイオディーゼルとして使われるほか、石油精製所にてプラスチックの代替品として使われる。また、地産地消や植物ベースの食品が推奨されている。電子機器や衣類、家具などの消費財は、廃棄せず修理して価値を維持し続けることが奨励される。また、 公共の道路や橋、公園などの建築物には、リサイクルされた木くずなどのバイオ原材料が使用されている。
循環型経済をテーマにしたリビングラボDE CEUVEL(デ・クーベル)は、サーキュラーエコノミーのメッカとも言われている。オフィス用にリノベーションされた廃船が並び、循環型の暮らしや社会を志向するスタートアップやアーティストらが入居。 DE CEUVEL では、レジデンス、カフェ、グリーンハウス、バイオガスボートなどが互いに資源を利活用し、コミュニティ内で可能な限り資源とエネルギーの循環を実現している。
サーキュラーエコノミーのビジネスモデルと事例
サーキュラーエコノミーのビジネスモデルは、アクセンチュアの分類によると、5つの種類があるとされる。以下、ビジネスモデル別に事例を紹介する。
①サーキュラー型のサプライチェーン(再生可能な原料を使用)
再生もリサイクルもできない一方通行型の原材料を、環境への影響が少ない原材料に置き換えるモデル。原材料が枯渇するリスクの軽減や、素材の最適化のメリットがある。
Infinited Fiber社(フィンランド)
廃棄衣料や段ボール、稲や小麦のわらからコットンに近いセルロース繊維「インフィナ(Infinna)」というリサイクル繊維を製造している。今後、衣料品の原材料として実用化される予定。
②回収とリサイクル(廃棄前提だったものを再利用)
企業は寿命を迎えた製品を回収し、価値のある素材や部品、エネルギーを取り出して再利用する。あるいは、製造工程から生じる廃棄物や副産物を再利用する。
キリンホールディングス、三菱ケミカル、サントリー、伊藤園、コカ・コーラ、アサヒ飲料など
飲料業界では、使用済みペットボトルから新しいペットボトルへ半永久的に再生できる「ボトルtoボトル」リサイクルが拡大している。従来は、回収されたペットボトルの多くがフィルムやシート、繊維などにリサイクルされ、その後焼却されていた。回収されたペットボトルから新たにペットボトルを作り出す技術で、飲料連合会は、2030年度までにペットボトルの100%有効利用を目指すとしている。
③製品寿命の延長(修理、アップグレード、再販売)
修理や部品交換ができるようにする、または二次市場で再販できるようにすることで、意図的に製品の使用期間を延ばす。企業の既存のビジネスモデルを大きく変えることなく、修理などの新しい収益源が見込まれる。
パタゴニア社
エキスパートによる修理サービスを提供するほか、修理や選択方法などセルフメンテナンスの仕方をウェブサイト「WORN WEAR」で紹介している。自分自身で管理、傷や汚れなどを修繕し、また使える状態にすることで商品に対する愛着が増し、商品のライフサイクルを最大限に延ばすことを狙いとしている。
家電の 「修理可能性指数」 表示(フランス)
フランスでは洗濯機、電動芝刈機、テレビ、パソコン、タブレット、スマートフォンに、その製品がどれだけ安価に簡単に修理できるかを示す「修理可能性指数」を表示することが義務付けられている。修理可能性を高めることや修理に関する情報へのアクセスが容易になることでサーキュラーエコノミーが促進される。
④ シェアリングプラットフォーム(保有しているものを貸して収入を得る)
使用していない製品の貸し借り、共有、交換によって、消費者・企業・起業家に対して新たな事業機会を提供する。
「smallkitchens」(Gifukuru社)
smallkitchensは「料理が得意な作り手」が加盟飲食店の店舗の空き時間を使い、オリジナルのお弁当販売ができる、料理人と飲食店のマッチングプラットフォーム。初期費用は無料で、好きな日に1日から販売することが可能。作り手にとっては料理の販売のハードルが下がる一方、飲食店はスペースを提供することで空き時間を現金化し、集客効果も望める。
⑤サービスとしての製品(顧客は所有せずに、利用に応じて支払う)
企業が製品の所有権を持ち、その価値を「製品サービス・システム」上で顧客に提供する。これにより、企業の関心は量(製品を売ること)から性能(製品の機能を売ること)に転換していく。
家具・家電のサブスク「CLAS」(クラス社)
同社の家具は、修理をする前提で作られている。長く使うほど支払う価格が安くなる仕組みも用意し、サブスクリプションでも消費者が長期間使いやすいようなインセンティブを提供している。製品そのものを売り切るという従来のビジネスモデルとは異なり、製品が提供する「サービス(機能)」をユーザーに継続的に販売するというPaaSのビジネスモデルでもある。家具の売り切りモデルでは廃棄される場合が多いが、家具の所有権はCLASにあるため、修理やクリーニングなどによって、その製品を長持ちさせることが、利益率向上になる。
サーキュラーエコノミー推進のヒント―協働―
サーキュラーエコノミーに取り組みたくても、一企業のノウハウや事業規模では実現が難しいという声も多く挙がっている。上記の事例のように、他企業、自治体、大学、NGO、NGOなど様々な業界のステークホルダーと連携して、それぞれのノウハウや強みを活かして取り組むことが必要である。
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