【国内・海外事例をもとに解説】グリーンスローモビリティとは?
この記事の内容
グリーンスローモビリティの5つの特徴
グリーンスローモビリティの導入事例
パリ協定に基づくカーボンニュートラルの実現に向けて、CO2排出量の少ない低炭素モビリティへの関心が高まっている。国土交通省によると2020年度の国内CO2排出量は、運輸部門は全体の17.7%、自動車は運輸部門のうち87.6%を占めている。電気自動車の認知度や利用者は少しずつ増えているものの、自動車が排出するCO2の環境負担は多いと言われている。一方、高齢化が進むにつれ、過疎地域に住む高齢者の移動手段が少ないなど高齢者の外出に関する社会課題が注目されてきている。これらの社会的・国際的諸問題を解決するための新しい移動手段として「グリーンスローモビリティ」が推進されている。
グリーンスローモビリティとは?5つの特徴
グリーンスローモビリティは時速20km以下で公道を走ることができる小型電気自動車のモビリティサービスである。環境負荷が少ないだけでなく、過疎地域における高齢者支援や観光地の発展に貢献している。国内外の事業化事例として、「バス事業」「レンタカー事業」「自家用有償旅客運送事業」「自家用電動小型自動車」の5つのモデルがある。
国土交通省によるとグリーンスローモビリティは以下の5つの特徴がある。
「green」環境負荷の少ない電動車でエコな移動サービス。
「slow」 時速20km以下でゆっくり走行する
「safe」 低速で安全
「small」小型で狭い道路に最適
「Open」窓がなく開放的
国内事例
東京都町田市鶴川団地(自家用有償旅客運送事業)
2019年12月3日から鶴川団地に住んでいる外出が困難な高齢者を対象に送迎サービスを開始。年間500円の登録制で電話予約で利用することができる。車両は4人乗りのゴルフカート型2台で運用されており、運行や利用登録に関しては社会福祉法人悠々会、車両は株式会社モビリティワークスによって運営されている。グリーンスローモビリティによる自家用有償旅客運送は全国初。
兵庫県三田市南部(バス事業)
2022年11月22日に三田市、関西電力、神戸電鉄、神姫バスなどの協業により行われたグリーンスローモビリティの実証実験。フラワータウン周辺の商業施設には徒歩か自動車を使用するケースがほとんどであり、将来移動を不安に感じる人が多いと言われている。また、株式会社アシックスとも連携し、運動量を計測することで地域住民の健康づくりをサポートする。4人乗りの小型電気自動車で、扉や窓はない構造になっており、運賃は無料で武庫が丘に19ヶ所、狭間が丘に13ヶ所の停留所がある。
出典:神戸新聞
栃木県日光市西町(バス事業)
日光市は東武バス日光株式会社と協業し日光市西町地域にグリーンスローモビリティを観光客向けに提供する。令和2年度に一度実証実験がされており、令和4年に正式に運行が開始された。バスの乗り換えが難しい西参道・西町地域への観光を促し、観光客の満足度を高めることを目的としている。乗車数は21名で1回の利用につき150円(小学生80円)で提供。車両は市が無償提供しており、東武日光バスが運行している。各バス会社が提供するフリーパスでも乗車が可能となっている。
海外事例
アメリカでは日本ほど高齢化が進んではいないものの、高齢者が集まる2000以上の居住区「RC(リタイアメントコミュニティ)」が発達しており、高齢者向けの小型電気自動車が普及している。また、自動車の台数が制限されている観光地の移動手段など、観光客の満足度を高める施策としてグリーンスローモビリティが使用されている事例を紹介する。
アメリカ:リンカーン、パームデザート、ラグナウッズ(自家用)
アメリカのシニアタウンにおけるゴルフカートの利用事例。高齢者の「ゴルフカートを公道で使用したい」という要請に対し、市、住民、デベロッパーの意見が一致したことで導入が開始された。アメリカは地方分権と規制緩和が進んでおり、市が主体となり公道や標識の整備をすることができる。また、視認性や乗降性の高さから重大な事故は起きておらず安全な乗り物であるとされている。
アメリカ:カタリナ島(レンタル、自家用)
カリフォルニア州ロサンゼルスのリゾート地、カタリナ島では、島が狭いため通常の自動車の台数は制限されているものの、交通規制や車両走行の自治権限が付与されている。そのため、上記のシニアタウンの事例と同様に市独自のルールで整備をすることができる。ヤマハによる営業活動が行われ、住民や観光客を中心にゴルフカートの利用が増加した。観光客を対象としたレンタカーの提供も行っておりガソリン車の利用もあるものの、一部住民の間では電動ゴルフカートの利用も進んでいる。
アメリカ:サンシティセンター(自家用)
55歳以上しか住むことのできないシニアタウンでゴルフカートが使用されている事例。ここの地域では免許がなくても運転することが可能だが、速度の早いフリーウェイや日没後の運転が禁止されている。電動のためガソリン代やメンテナンス費用を抑えることができるので、仕事をリタイアした人を中心に利用されている。ドアがついているカートもあり、天気に左右されることなく利用が可能。
出典:AUTO MESSE WEB
「ゴルフカートが公道を走る! アメリカの高齢者タウンで見た意外なモビリティ事情」
グリーンスローモビリティの需要拡大 2つの要因
①社会のさらなる高齢化
厚生労働省の予測によると、2040年には日本の全人口の35%が65歳以上になる。一人暮らし世帯や自動運転免許の非保有者を中心に外出数が低下すると考えられる。今後、足腰が悪くバス停や駅までの移動が難しい高齢者が増加することが想定されることから、新しい手軽な移動手段としてグリーンスローモビリティの需要が伸びると考えられる。
②生活圏内で近距離移動が増加する
コロナ禍で外出自粛が当たり前となり、「15-minutes neighborhood」という15分圏内など近隣のエリアで生活をするといった概念が普及している。また、2022年の都内企業のリモートワークの割合が最大で62.7%になるなど、従来よりも便利な生活圏を選択したいという傾向が増加すると見込まれており、移動手段においても自動車や電車などではなく、近隣地域を手軽に移動できるような小型電気自動車の需要が高まると予測される。
未来のグリーンスローモビリティとは?
上記の事例にもあるように少子高齢化やカーボンニュートラルの実現といった観点から、次世代のグリーンスローモビリティの需要は国内外問わず拡大すると予測される。また、バス会社などの運輸業の企業と過疎地域や観光地の自治体が提携することで高齢者や観光客を主体とするグリーンスローモビリティの普及が進む。
さらにAIなどの技術発展により、街や観光地・住宅街などで自動運転搭載の小型電気自動車が普及するだろう。電車やバスといった従来の移動手段だけではなく、自動運転技術が搭載された自動運転EVを利用することで、自転車のシェアリングサービスのように、年齢や場所、免許の有無などを問わず誰でも移動が可能になる社会が実現すると予想される。
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