主催セミナー「AIが生み出す最先端グローバルスタンダードを日本へ」ゲスト:グローバルベンチャーキャピタリスト 江藤哲郎氏
9/28、シアトルでグローバルベンチャーキャピタリストとして活躍する江藤哲郎氏を講師に、「シリコンバレーからシアトルの時代へ。〜江藤哲郎氏はいかにしてグローバルベンチャーキャピタリストになったのか?〜」を開催いたしました。シアトルやAIといったグローバルビジネス最前線の話から、後半はD4DR代表藤元健太郎からのインタビューや質疑応答により、キャリア形成にまで話は及びました。
AIイノベーションが日本企業を再生させる
江藤 Innovation Finders Capitalは、電通が4000億円で買収したイージスのグローバルIT統合責任者を務めていた私と、LINEの元社長森川亮、三井物産出身の起業家宮崎重則、マイクロソフト出身でシリコンバレーでCEOを務めていたこともあるトム佐藤の4人のチームです。グローバルスタンダードをとる可能性のあるスタートアップだけにこだわり、この1年間シアトルを中心にポートランドやリトアニアまで出かけ、スタートアップのファインディングをしてきました。
我々のミッションステートメントは、日本にAIのイノベーションを集めることです。AIは応用範囲が広く、あらゆる産業に今後インパクトがあります。
将来スタンダードになりうるイノベーションを早く見極め、社内に取り入れて商品化することが、日本企業が再生する早道です。AIに関して、日本企業が自前でやっていたら、スケールでアメリカにまったくかないません。アメリカでやっているキープレーヤーから飛び出したスタートアップを、日本企業にお金がある今のうちに集めるべきです。
もう一つ、日本企業とやるスタートアップにこだわっています。グローバルスタンダードを目指すなら、市場3位の日本にもいずれくるはずで、アメリカの次に日本とやってもおかしくありません。日本とアメリカはルールに同じ部分が多く、価値観も近い。ですから、グローバルスタンダードを目指すスタートアップの皆さんは、アメリカの市場の次は日本を目指しましょうと。
シリコンバレーでそう言っても相手にされませんが、当社が本拠を置くシアトルには10万人の日系人がいます。マイクロソフト、ボーイング、アマゾン、スターバックス、コストコのように日本で成功している企業も多く、日本を見ている人は多いです。
このチームで、日本企業を昨年50社、今年に入って30社回りました。まず聞くのはペインポイント、何に困っているかです。それを解決するためにどういうイノベーションが必要か。もともとどういうビジネスモデルで成功したか。どういう販売チャンネルが他よりも強いか。イノベーションをもってきたら最終的にどういう商品になるのかをヒアリングしたうえでシアトルなどで、スタートアップを探します。これが当社のグローバルなディールソーシングです。
第二のシリコンバレーに最も近い都市、シアトル
今アメリカでは、第二のシリコンバレーを目指して都市間の競争が始まっており、シアトルは、次のシリコンバレーに一番近い都市と言われています。
昨年9月、シアトルがあるワシントン州のインスリー知事が来日しました。知事は、ボーイング、マイクロソフト、アマゾンなどで培ったワシントン州のB to Bの技術をもっと日本に輸出したい意欲を持っています。特にAI、マシンラーニングを日本に紹介することで意気投合し、いろんなキーパーソンを紹介してもらっています。
今、シリコンバレーからシアトルへ、人の流入が始まっています。シリコンバレーのエンジニアにアンケートをとると、最も多い12%の人が、次のステップとしてシアトルに行きたがっています。シリコンバレーでは、不動産が高い、物価が高いと、問題が出てきています。一方、ワシントン州は環境がいい、食べ物が美味しい、治安がいい。20歳以上の人で大学卒業率が人口の50%以上で、これはアメリカではありえません。
また、シリコンバレーの大手企業がどんどんシアトルに拠点を作っています。グーグルは以前から、シアトル郊外のカークランドで一般道の自動運転実験をしていますが、人員を1000人から倍の2000人にすると発表しています。フェイスブックも研究開発の拠点をシアトルに持っていますし、シリコンバレーの大手でシアトルに進出している会社は多いです。
アップルは先月Turiという、ビッグデータをマシンラーニングに読み込ませるためのスタートアップを200億円で買収しました。スタートアップとして注目されていたシアトルの会社をシリコンバレーの大手が買った、最近の大きなニュースです。
論文を出すだけでなく、起業しなさい
Turiもですが、シアトルのスタートアップはワシントン大学の出身者が多いです。ワシントン大学が日本の大学と違うのは、まず研究開発の予算が2000億円あります。そして論文を出すだけではだめで、プログラムを書いて世の中に出しなさい、ハードウェアであればプロトタイプを作って世の中に出しなさい、起業しなさいというのが、大学の方針です。
世の中に対して、どうしたら貢献できるか、大学全体で考えています。社会的な問題、産業の中での問題を解決するためのイノベーションを自分たちで生みだし、ビジネスにしていくことを大学の方針としてやっています。
アメリカでの主導権を握るのは、ワシントン大学とニューヨーク大学、カリフォルニア大学バークレー校になるでしょう。この3校が提携して、ビッグデータの研究に関してテーマを振り分けたり、成果を共有したり、人材を交流させたり、システムを共有化したりするところまできています。ビッグデータ、マシンラーニング、AIの分野において、グローバルスタンダードをとるスタートアップがどんどん出てくると思います。
AI時代に向けて本当に必要なこと
当社は、シアトルのスタートアップコミュニティの内側にいます。シリコンバレーに拠点をもつ日本企業はたくさんありますが、なかなかスタートアップコミュニティの内側に入れていません。シアトルという土地柄が、当社の追い風になっています。
また、Microsoft Acceleratorと協業しています。アメリカでAIの主導的立場にいるIBM、グーグル、マイクロソフト、アマゾンをビッグ4と言います。研究開発費として1年間に兆に近いお金を使っていますし、パブリッククラウドとしてAIのエンジンを提供しており、研究開発やビジネス化が進んでいます。そのうち、シアトルが地場なのが、マイクロソフトとアマゾンです。
Microsoft Acceleratorもアマゾンも、囲い込んだスタートアップに最低25万ドル相当のクラウドを無料で貸しています。人材はマイクロソフトやアマゾン、ワシントン大学にいます。それがベースとなり、今シアトルはマシンラーニングの首都と言われています。Microsoft Acceleratorは半年に10社育てていて、今年の下期は、10社とも全部マシンラーニングとデータサイエンスです。
そのうちの1社がDefinedCrowdです。7月に当社の招聘で東京に来ました。マシンラーニングでAIのエンジンにデータを読み込ませるための最大の問題点は、データが整理されていない、構造化されていないことです。DefinedCrowdは、マイクロソフトもスカウトしたダニエラ・ブラガ博士が創業した会社で、AI時代に向けて本当に必要なことを成し遂げるため、マシンラーニング用のビッグデータを構造化するためにスタートアップしています。現在、日本の代表的メーカー、メディア、開発会社など数社から引き合いがあります。
シアトルからあと2社ご紹介します。9 Mile Labsは、スタートアップをする際に何がペインポイントで何をしなくてはいけないかを9つのポイントで解析し、ステップの9番までいってうまくいかなかったらどこまで戻ってどこをチェックすればいいのかをノウハウ化しています。
それからSURF Incubator。シアトルのスタートアップコミュニティでは有名で、ビルの1フロアをスタートアップに対して安く貸しています。かつ、カフェテリアで毎日のようにミートアップのイベントをしており、当社はこの場所を借りて、日本企業を呼んでミートアップしています。
まずは技術を買いましょう
日本企業側のメリットは、要望に近いスタートアップを、ドンピシャもしくは要望に近いリストを当社から手に入れられることです。面白いと思われたら、まずシアトルに来て社長に会ってもらいます。どういう創業哲学でスタートアップしているか聞いたうえで、まず技術をライセンス契約するのか、ディストリビューション契約か、共同開発か、開発の発注か、ということで日本企業とアメリカのスタートアップの間に当社が入って無料でサポートします。
日本企業にとって一番のポイントは、イノベーションを持ってきて収益を増やすことです。10億円のプロジェクトを複数並べて100億円にすることをお話しています。そうすることでスタートアップのレベニューも増えます。ライセンスの収入や、実際にプロダクトを得て対価を得ることができます。
最初に、スタートアップに出資しよう、買収しようと思わないでくださいとお話しています。最初に買うと、後が大変です。私自身、電通の最後の2年で、ロンドンに本拠を置くイージスで124か国のITインフラを統一して苦労しました。言葉も違う、文化も違う会社を買って、どうコントロールしたらいいのか、日本の会社には経験値がありません。
ですから、まず技術を買って、半年、1年やってみる。いいじゃないかとなったら、買えばいいんです。価格は多少上がっていると思いますが、実際に仕事をしてみないと分からないことがあります。スタートアップの人たちも、日本の会社が自分たちを本当に分かってくれるか、やってみないと分かりません。お互い不安なまま資本関係をもつことは、経験上よくありません。技術提携をして、後から出資する、買収する。経験を重ねれば、その場で出資することも可能でしょう。
日本企業の反応を早くする特効薬はありません。会社に出資する、買収するとなると、投資委員会や取締役会で承認するなど、大事になります。でも事業部で技術を買うのであれば、事業部長レベルでサインしている会社も多いわけです。それでまず技術提携から始めるのです。日本企業の現実を見て、今の仕組みの中でできることから当社は動いています。
とにかく今、AIのニーズが増えています。日本の基幹産業と言わる自動車ですが、テスラ、Uberといった異業種の会社が参入してきていて、車を作って売るモデルがなくなる可能性もあります。車、電車、飛行機の利用を統合的にサービス提供する世界を、グーグルもUberも目指しています。
日本の製造業がそのようなサービスや製品を提供する側になりたいのであれば、世界の動きを読んで、どうなりたいか考える必要があります。
日本企業はドローンをどう使うか考え、シアトルはドローンの管制システムを考える
藤元 日本だとドローンをどう使うかで盛り上がっていますが、シアトルだと、どうやってドローンの管制システムの標準化を握るかが熱いそうで、見ているものが違いますね。
江藤 お隣のポートランドに、Skywardという、ドローンの航空管制システムを開発しているスタートアップがあります。ドローンのハードウェアを作って伸びているスタートアップはありますけれども、本当に世の中に必要なのは、ドローンをどうコントロールして、首相官邸に落ちないようにするか、街中で勝手に飛ばないようにするかということです。
SkywardはCEOが元空軍のパイロット、CTOがヘリコプターの整備技師です。そこにインテルの人がCOOで入り、グローバルスタンダードを目指しています。ドリームチームだと思って契約を進めています。日本でドローンのオペレーション事業をやっている会社に紹介して検討してもらっています。
もう一社、Pure Watercraftというシアトルのスタートアップをご紹介します。モーターボートはエンジンがうるさく、25%のオイルは燃えないまま水の中に出ています。Pure Watercraftの社長は、ガソリンやディーゼルを燃料とするエンジンに代替するものとして、電気モーターで直接ドライブするエンジンのプロトタイプを作りました。シアトルは海の街で、湖もたくさんあります。今のモーターボートは、走るだけで公害を撒き散らしています。そういったことは自分の世代で変えたいと考え、創業者がテスラに乗って研究し、モーターボートに応用しようとしています。海のテスラになると明言しています。
培ったキャリアが、自分で定年を決められることにつながるかどうか
藤元 キャリアについて少し話してください。
江藤 大学を卒業するころ、ビル・ゲイツのインタビューを読んで、マイクロソフトの極東総代理店だったアスキーに入りました。1984年です。忘れがたい年です。マッキントッシュが世の中に出た年であり、ウィンドウズが1.0を発表したけど全然動かなかった年です。入って1年目にシリコンバレーへ行きました。最後はこの産業に貢献しろということなのかなと、ずっと思ってきました。今は本業に回帰した感じです。
藤元 自分のやりたい時期にやりたいことで働いて、いろんな選択肢の中で自己実現を選べる生き方はいいですよね。日本だと大企業に入って出世する在り方がマジョリティですが、シアトルではどうですか?
江藤 卒業したら企業に入るのではなく、親や社会、学校、先祖に対して報いるために、優秀な人ほど起業する文化があります。ビル・ゲイツも、ジェフ・ベゾスもそうですよね。
藤元 日本の優秀な人たちが次の一歩を踏み出すにあたって、どうしたらいいでしょう?
江藤 身近な人に自分がどう見られているか意識する、聞いてみることをお勧めします。自分のいい面も悪い面も分かるので、それをベースに自分を振り返ると、次の一手を打つときに役立ちます。
参加者 江藤さんは、何がモチベーションでそこまで働いているのでしょうか。
江藤 私は、年齢の割には小さい子供がいるんですよ。成人しているときまで父親が仕事をしていることは重要だと思ったんです。何を目指して仕事をしているかは子供にはちゃんと伝えたいです。
藤元 自分が定年を決められるキャリア形成がこれからの時代大事ですね。培ったキャリアが、自分で定年を決められることにつながるかどうかが大事なのではと感じます。
参加者 キャリア形成にあたり、家族の理解を得るにはどうしたらいいでしょうか。特に、転職や起業などの場合は、反対されることもあります。
藤元 この人にはこんな才能と可能性があるからぜひ応援してあげましょうよと、その人を理解している第三者から言ってもらうことも手かもしれないですね。奥さんも、この人がみんなにそう思われてるなら仕方ないわねとなるかもしれません。周りの人たちを巻き込むことですね。
江藤 解はないかもしれませんね。
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グローバルビジネス最前線の話に聞き入りつつも、そこに向かって解のないキャリアを踏み出すため、地に足の着いた質問も飛び出した2時間。聞くだけではなく自分が真剣に動こうとする参加者によって、日本企業の未来が開かれていく予感のするセミナーとなりました。
(イノビート編集部)
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