20代から行うべき未来への長期投資とは?〜若いうちは資産作りが先決:伊井哲朗

20代から行っておいたほうがよい未来投資とは何か。長期投資を基本とする投資信託の運用・販売を行うコモンズ投信株式会社代表の伊井哲朗氏に話を伺いました。

生きるための3つの力を高める

「お金」の話は、学校でも家庭でもあまり教えてくれませんが、これからの時代、人が生きていく上で重要な三種の神器のひとつだと伊井氏はいいます。その3つは「語学力、IT力、金融力」。

日本人の生涯賃金は「約2億円」といわれますが、この2億円を増やすのも、減らすのも、自分次第。自分の「未来」に投資するかどうかで大きく変わります。自分のスキルを高めることや人とのつながりを広げるとともに「意思を持ってお金を使う」ということを、若い時期に意識しておくことが大切です。

イマドキの消費

お金は増やすのが目的なのではなく、目的を実現するための「手段」です。「何かを実現するため」「何かに備えるため」には欠かせません。この本質は変わりませんが、以前と今では消費者の意識や行動が次のように変わってきています。

・自分を飾るより、自分を賢くするためにお金を使う
・ただ安く買うより、地域が潤うようにお金を使う
・ものを手にいれるより、絆を強めるためにお金を使う
・有名企業でなくても、信頼できる企業から買う
・消費するだけでなく、自ら創造する人になる
(出所:スペンド・シフト ― <希望>をもたらす消費)

金融の使命は本来、お金を社会に循環させること。そして、循環させるためには意思を持ってお金を使うことが大切です。消費だけでなく、投資、貯蓄、寄付などを主体的に行う時代になりつつあります。

「資産運用」と「資産作り」の違い

20代で「投資」といわれると、「そんなお金はまだない」「あと10年して貯金がたまってからでいい」と思う人が大半です。その一方で、20代の誰もが「自分の年金はもらえるのか?」「子育ての資金はどのように準備をすればよいのか?」という漠然とした不安を抱えています。

今、投資に関する若い人の行動は二極化していると伊井氏。本やセミナーなどで勉強して資産づくりをはじめている人と、何もせずに不安なままずっと過ごす人に分かれているのです。

投資というとすぐ思い浮かぶ「資産運用」は、すでに資産のあるシニア層が主に行っています。彼らは銀行や証券会社に行き、まとまったお金で金融商品を一括購入または売買します。

しかし、若い世代は「資産づくり」が先決です。例えば、毎月3万円を2種類の投資信託に分散して投資する、というのが30代前後で比較的多い資産づくりのケースです。

さらに、伊井氏が薦めるのは小額での株式投資や投資信託への投資。小さな失敗や成功を重ねていき、慣れてきたら、徐々に金額を大きくしていく。これがうまく長期投資へつなげていくコツだからです。

企業分析力がキャリアデザインに役立つ

雑誌などに発表される学生の人気企業ランキングの上位企業。実は、証券業界ではピークを過ぎた「遅行企業」だと言われます。かつての大企業やCMのイメージが良い企業がランキングの上位に並ぶためです。

自分の関心のある身の回りの企業に、株式投資をして少しでも勉強していれば、その実態を理解できます。「今度の新商品は凄く売れそうだ」とか、「最近、コールセンターや店員の方の態度が悪くなったなー」など実感としてその企業の調子も分かるようになります。そうした自分の印象と、株価の動きの違いに気付くことこそが、企業の見る目を養うことになるのです。

また投信に組み込まれている企業を調べることも、優良企業を見つける秘訣のひとつです。プロが財務状況や将来性などを分析し、選抜された株式(または債券など)で構成されているからです。

このように、投資によって景気や企業の状態を体感することは、自身や家族のキャリアデザインを考える上でも役に立つと、伊井氏は強調します。

保険は必要最小限・寄付は活動参加を

お金を使う、社会に還元するという意味で、最後に保険と寄付についても、意見を伺いました。

保険は「掛け捨ての保険を必要最低限入っておくこと」。例えば、子どもが成人するまでは、万が一の保証を厚くしておくなどです。「でも投資型の保険に入るのであれば、投資信託を買ったほうがお得ですよ(笑)」と伊井氏。

寄付については、関心のあるテーマを扱う団体があれば、まずその活動に参加することを伊井氏は薦めます。日本人は決して寄付に無関心なのではありません。むしろ関心は高いけれども、どこへ寄付をしたらよいかわからない、寄付したお金が何に使われているかわからないのです。株式投資も似ており、どこの会社の株式を買ったらいいのかわからない、投資後の株価や業績の変動をフォローすることが難しいという印象が強く、はじめることに躊躇してしまいます。

このため、寄付をする場合、単にお金を振り込むだけではなく、実際に自分が関心のある団体に参加することが肝心。参加すれば団体の様子がわかります。また、情報開示をしている団体を選ぶことも重要です。寄付されたお金が何の用途で使われているのかをチェックし、納得のいくレポートを出しているところへ寄付をします。

どんなお金の使い方でも、最も大切なのは、何のために使いたいのかという意思。明確な意思を持って能動的に自分で調べ、その上で納得したものに対してお金を出すというプロセスを、20代から積み上げていくよう意識していくことが大切です。それが、将来に向けて金融力をたくわえることにつながるからです。

プロフィール

伊井哲朗 コモンズ投信株式会社代表取締役社長&CIO 
若い世代が手軽に長期で資産形成できる金融商品を提供したいとコモンズ投信を立ち上げる。大学卒業後、山一證券で営業企画部に約10年間在籍し、マーケティングなど担当。その後、機関投資家向け債券営業。メリルリンチ日本証券、三菱UFJメリルリンチPB証券で法人・個人向け営業を約10年。コモンズ投信創業と共に現職。2012年7月からCIO兼務。

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Sho Sato

D4DRアナリスト。Web分析からスマートシティプロジェクトまで幅広い領域に携わる。究極のゆとり世代の一員として働き方改革に取り組んでいる。

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