ワークショップ「認知から購入後のUXを見極めるカスタマージャーニー導出」千葉工業大学 山崎和彦教授
HCD(人間中心設計)、UX(ユーザーエクスペリエンス)研究の第一人者、千葉工業大学の山崎和彦教授の研究室を、D4DR社員が訪問。同じテーマで定性調査と定量調査をもとにユーザーのニーズをさぐる、実験的なデザインワークショップを行いました。
出されたお題は「植物を育てる人に向けたサービスまたは製品開発」。
「植物を育てる人に関するデータ」をダミーで用意するとともに、参加者の中から「植物を育てる」ことが生活の一部になっている人に立候補してもらい、調査対象者としてインタビューを受けてもらいました。
解決策を視覚化するUXマップ 山崎和彦教授
「ユーザーエクスペリエンス(UX)マップとはユーザーの体験を視覚化したもの」と山崎教授は解説します。
UXマップは「現在の体験」と「未来の体験」を視覚化する際に有効です。UXの専門家の中には、UXマップの書き方を指示する人もいますが、それはあまり意味がないと山崎教授は指摘します。ケースによって状況は異なるため、自分たちのプロジェクトに合うUXマップ作りをすることが重要だからです。
UXマップづくりで鍵になることのひとつが時間軸です。範囲が決められた時間の体験だけでなく、継続する時間の体験も意識します。例えば、ピアノという製品は検討して購入したら終わり、ではなく、購入後は50年ほど製品を使うことができます。その長い時間の流れの中でユーザーはどのような体験をするか。このようにユーザー体験をみていくことで新しいヒントを得ていきます。
もうひとつ重要な要素として、山崎教授は「ステークホルダー」を挙げます。サービスを利用する側だけでなく、それを提供する側の体験をいかにUXマップに組み込むか。例えば、あるプロジェクトでホテルに新しいサービスを提案した際、ホテル側から「そんなサービスをすると従業員が辞めてしまう」と言われます。それでもサービスを実施したところ、本当に従業員が何人か辞めてしまいました。サービスを提供する側もいい体験にならないとサービスが成り立ちません。
それではUXマップはどのように作成すればよいか。模造紙と付箋を用意し、模造紙に横軸は時間、縦軸はプロジェクトが重視する指標を記載します。例えば、縦軸の指標は戦略やユーザー体験、ユーザーの価値観、場所、人間関係などが考えられます。付箋には気づいた点、明らかになった事柄を次々に書き残し、模造紙に貼っていきます。自分のプロジェクトに適した、横軸、縦軸を考えていき、それを視覚化して「問題シナリオ」と「解決シナリオ」を作ります。
購入された後のマーケティング D4DR 藤元健太郎
これまでのマーケティングは買わせて終わりでした。「これからは購入後にどう行動させるか。その市場を取りに行くことに企業はますます力を入れていくだろう」とD4DR 代表の藤元健太郎は分析します。データを基にリアルタイムで情報を発信することで、ユーザーの行動変容を起こすのです。
例えば、ある飲食店が最寄り駅付近でビールのCMをスマホに配信します。その情報を受け取った消費者が「降りて飲んでいこう」と思わせることも可能になります。アシックスではデータを解析する会社を買収し、シューズを購入した人がどのような状況で走っているのかといったデータの分析をはじめています。
次にD4DRのコンサルタント 家田真也は、カスタマージャーニーといわれる顧客行動について紹介しました。カスタマージャーニーを正確に把握することが、マーケティング戦略・施策において今後さらに重要性を増していきます。
◆カスタマージャーニーマップとは:カスタマージャーニーをわかりやすく視覚的に捕らえるため時系列にマップにまとめたもの
カスタマージャーニーを把握するには、
・企業に合わせて企画立案・仮説をたてる
・データを分析する
・どのような行動の塊があるかを把握する
という3つをおさえる必要があります。これにより顧客行動を時系列で視覚的にとらえる「カスタマージャーニーマップ」を作成することが可能になります。
インタビューをする際は、調査結果が調査対象者の記憶に左右されることを念頭に置いておきます。調査対象者は「1年前に買ったときにどういう情報を集めていたか?」と聞かれても、覚えていないこともあるからです。そこでSNSなどのデータもあわせて分析し、データの精度を上げていきます。また、オンラインの情報に影響される人と、新聞で情報収集し、店頭で判断して買っていくオフラインのみの人とは、情報の取り方や分析の仕方は異なります。
カスタマージャーニーマップを行動セグメントごとに作ることで、適した施策を立て、ROI測定を可能にします。また、ペルソナは個人の生活や集団の中の代表例や象徴的な人格像を浮き彫りにします。カスタマージャーニーマップをまとめることによって、アプローチすべきセグメントや有効なメディア、適したコミュニケーション方法など、マーケティングの投資対効果を最大化するための施策を考えていくことが可能になるのです。
同じテーマで異なるアプローチのワークショップ
今回、UXマップを研究する山崎研究室と、カスタマージャーニーマップをマーケティングに活用するD4DRの発表の後、合同でワークショップを行いました。
データを基に分析する3チームと、グループのメンバー1人にインタビューして行う2チームの計5チームができます。D4DRが用意したダミーデータを渡されたチームは、データから現状や課題を読み取り、サービスや製品の企画を考えました。2チームは、普段から観葉植物や野菜を育てている人に、植物の世話をする状況や購入シーンなどを聞き、その中からニーズを拾い出していきました。
データを基にしたチームは、「インドアで料理もするIoT男子」「ロハスな主婦」などペルソナをいくつか想定し、そこに刺さりそうな製品サービスを企画。インタビューをしたチームは、「観葉植物は、インターネットで情報を探すことはあるが、最終決定は店頭で実物を見て部屋に合うものを購入する」というように、実際に育てている人ならではの情報を得た上で、その人が大事にしている上位価値をさぐりました。
データを基にしたチームは、行動特性をセグメント化することで複数のペルソナを設定し、多様なサービス案を考えていきました。個人にインタビューしたチームは特定の個人の行動特性に限定される一方、より具体的な利用シーンやニーズが浮き彫りになりました。
同じテーマでありながら、多面的な施策案を得ることができるワークショップになりました。
デザイナーの多くの仕事は、商品企画がすでに決めた製品にスタイリングを施す時代もありましたが、デザイナーの役割はそれだけではありません。マーケティングチームとデザインチームがユーザー調査を協力することにより、真のユーザーのニーズが見えてくるのです。そこでは、定量調査と定性調査を効果的に組み合わせ、ユーザーの状況や価値を把握することができるのです。
ユーザーの行動特性を把握して現在のマップを作ったからといって、すぐに未来のマップの回答は導きだせるとは限りません。発想をジャンプさせる要素が必要です。ユーザーの価値観、新技術、社会の状況など「本当はどういうことなのか」を深掘りするのです。「ここがビジネスチャンスであり、研究のネタにもなるのです」と山崎教授は語りました。
(イノビート編集部)
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