アフターコロナ時代の「Love&Sex」アダルト業界の先進性に学ぶ(第十六回)
【特集】アフターコロナ時代のビジネス戦略 とは
D4DRでは、今回の新型コロナウイルス(COVID-19)の流行を経て社会がどのように変化するか、そして各業界がどのような戦略にシフトしていくべきなのかを考察した「アフターコロナ時代のビジネス戦略」を毎週連載しています。
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アフターコロナ時代のビジネス戦略 -エンタメ③アダルト業界-
人間の三大欲求の一つ「性欲」。新型コロナウイルス拡大により、三密を避ける、ソーシャルディスタンスを保つ、外出を自粛する等の新しい常識が求められたことで、私たちのセックスライフも変化し、新たな次元をむかえそうである。
「Love&Sex」における自治体の方針や、市場や生活者の変化、最新テクノロジーの先に見えてきた新しいセックスライフ、今後のセックスライフの楽しみ方を考察した。
コロナ禍のセックスライフにおける、自治体の方針
SNSでネタにされる、東京都によるセックスライフ自粛要請
新型コロナウイルスの拡大が続いていた4月10日の東京都の定例会見にて、小池都知事は国の緊急事態宣言を受け、休業要請を行う業種や施設の公表を行った。
アダルト業界もその対象となっており、遊興施設等の内訳に「個室付浴室業に係る公衆浴場」「ヌードスタジオ」「のぞき劇場」「ストリップ劇場」「個室ビデオ店」のアダルト関連施設が名指しされた。
参考URL:
https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/007/661/2020041000.pdf
「のぞき劇場」や「ヌードスタジオ」などの聞きなれない単語に、SNS上は沸き立った。これらの言葉は法律用語を基にしており、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風営法)2条5項が定義している、性風俗関連特殊営業にあたる店舗・施設と解釈できる。
「ヌードスタジオ」「のぞき部屋」「ストリップ劇場」については、風営法の中にその単語を確認できる。
第二条 法第二条第六項第三号の政令で定める興行場は、次の各号に掲げる興行場(興行場法(昭和二十三年法律第百三十七号)第一条第一項に規定する興行場をいう。以下この条において同じ。)で、専らこれらの各号に規定する興行の用に供するものとする。
一 ヌードスタジオその他個室を設け、当該個室において、当該個室に在室する客に、その性的好奇心をそそるため衣服を脱いだ人の姿態又はその映像を見せる興行の用に供する興行場
二 のぞき劇場その他個室を設け、当該個室の隣室又はこれに類する施設において、当該個室に在室する客に、その性的好奇心をそそるため衣服を脱いだ人の姿態又はその映像を見せる興行の用に供する興行場
三 ストリップ劇場その他客席及び舞台を設け、当該舞台において、客に、その性的好奇心をそそるため衣服を脱いだ人の姿態又はその姿態及びその映像を見せる興行の用に供する興行場
(法第二条第六項第四号の政令で定める施設等)
参考URL:
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=359CO0000000319
東京都によるセックスライフにおける指針は、上記のような「性風俗関連」の営業を行う店舗の休業を要請するにとどまり、具体的に私たちがどのようなセックスライフを送るべきかは、示されなかった。
ニューヨーク市保健局が公表した「セックスとコロナの真実」
一方、セックスライフについて明確に示したのがニューヨーク市保健局だ。「Sex and COVID-19 Fact SHEET」と題して、コロナ禍におけるセックスライフとの向き合い方を指南している。一部を抜粋したい。
参考URL:
https://www1.nyc.gov/assets/doh/downloads/pdf/imm/covid-sex-guidance.pdf
コロナウイルスについてまだわからないことは多いとしながらも、唾液や粘膜と直接接触することでウイルスが広がる危険性があるとしている。またウイルスに感染している人の糞便や精液で見つかったことが確認されたものの、精液を介して伝染するかどうかは分からないとしている。また、膣分泌液に関してはウイルスは発見されていないと報告している。
その上で、性行為を行う際の注意点を指摘している。
キスはウイルス感染の危険が高いこと。リミング(アナル舐め)はウイルス感染リスクの可能性があるとしている。
コンドームやデンタルダム(歯科治療で用いるラバー製のシートだが、セーフセックスの際に用いられることがある)の使用は、特にオーラルセックスやアナルセックスにおいて予防効果が高いとしている。そして、セックス前後の手洗いが重要だと喚起している。
セックスをする相手についても指針が示されている。
「自分自身」が最も安全なセックスパートナーと定義し、マスターベーション(オナニー)を推奨している。
次に安全な相手は同居する人、とされておりセックスのパートナーは極力減らすように記されている。ただし、セックスによって生計を立てている場合には、リアルな対面は避け、オンラインによるテレビ電話、チャット、セクスティング(性的なメッセージや画像を、スマートフォンを活用して送信し合うこと)へのシフトが推奨されている。
このように、ニューヨーク市が求めている「セックスライフ」は非常に分かりやすく具体的で、市民は行動に反映しやすい。
今回の新型コロナウイルス対策では、日本独自の対処手法にデメリットが大きかったと感じる。国民の判断に任せつつ、国民感情や空気を読みながら自治体や国が遅れて対策を進めていく手法だ。
それはこの「セックスライフ」の東京都とニューヨーク市の方針についても、その違いが読み取れるのではないだろうか。
セックスは濃厚接触にあたり、感染者との性行為から容易に感染が拡大する。ニューヨーク市保健局のような、具体的で分かりやすい指針が必要だったように思う。
ロックダウン、外出自粛
-アダルトコンテンツ需要が世界的に高まった-
ニューヨーク市の「Sex and COVID-19 Fact Sheet」にあるようなセックスライフの実現を助けるアダルト商品やエンターテイメント、玩具等の一部は急速な需要の高まりを見せた。
「おうちセックス」「マスターベーション」がコロナ時代のキーワードだ。
おうちセックス -おうちで質の高いセックスを―
世界各国でセクシートイ(大人のおもちゃ)の販売が絶好調だという。
ニュージーランドではアダルトグッズの販売が3倍以上に伸び、コンドーム、潤滑油が特に伸びているとのことだ。
ドイツのウーマナイザー(女性用のセクシートイを販売)も、第一四半期の売上が50%以上増加しているとのことで、セクシートイはコロナ禍における数少ない需要急増アイテムだ。
またイギリスではロックダウン中にセクシートイの販売はもちろん、高級ランジェリーの売上も伸びたという。同時に鞭や手錠などの人気も普段より高いようで、ロックダウンや外出自粛からセクシートイを用いて「おうちセックス」を質を高めたいという、生活者心理がうかがえる。
マスターベーション -自分自身とセックス-
「自分自身がもっとも安全なセックスパートナー」と推奨されるように、マスターベーション関連商品も需要が急増したという。
マスターベーション関連商品を販売する典雅(TENGA)は需要拡大を受け「お家時間を楽しく過ごそう!快適オナニーTIPS」を公開。外出自粛により在宅時間が増加している中、快適に性的欲求を満たすための情報発信を行っている。
参考URL:
https://note.com/tenga_official/m/m47f4d4f30bdf
誰かと同居している人のために、オナニー時間を確保するコツや質の高いオナニーのための情報など、マスターベーション関連商品を扱うTENGA独自目線の情報が満載だ。
メディアでは「コロナ離婚」や「コロナ別居」など夫婦やカップルが不仲に陥る問題が取り上げられている。
もちろん、コロナによる収入の減少や家事負担の増大等による影響も大きいと思われるが、オナニーをする時間のようにプライベートな時間や空間の確保が、今までよりも困難になっていることも、要因として考えられるのではないか。
アダルト動画サイトが「Stay Home」セックスライフを支援
大手アダルト動画サイトPornhubは新型コロナウイルス感染拡大が広がるさなかの3/24より、有料サービスの「Pornhub Premium」を翌月までの1か月間、無料で提供した。ソーシャルディスタンスの確保を支援するためとしており、Pornhubのロゴも「Stayhomehub」へと期間限定で変更された。この取り組みにより、多くの人がStayhomeでマスターベーションを楽しめたことと思う。
感染拡大と無料化により、世界中でトラフィック急増
Pornhubはプレミアムの無料開放に合わせて、トラフィックの変化データも提供している。
これによると、プレミアムサービスの無料開放の次の日がトラフィックのピークとなっており、その後も高い数値で推移している。「お家セックス」と「マスターベーション」といったセックスライフへの移行に伴い、そのお供となるアダルト動画の需要は必然的に高まった。
このような需要の高まりに合わせてプレミアムサービスを無料開放したPornhubは、アダルト業界が果たす役割を的確にとらえた、優れた戦略であったと言えるだろう。
家の職場化 -アダルト動画閲覧時間帯の変化-
またPornhubはトラフィックの変化だけでなく、アクセス時間帯の変化も公表している。
2019年までは多くの人が寝ている深夜2時~翌朝10時までの時間帯は、全時間帯の平均よりもアクセス率が低い。
しかし2019年と今年のアクセス時間帯別の増加率データを見ると、最も増加率が高いのは深夜3時前後の31%、正午前後の26.4%だった。
在宅勤務による出勤時間が無くなったことで、仕事のための準備時間が短縮した。そこで、いつもより夜更かしをしてアダルト動画サイトを閲覧しているのではないか、と考えられる。
また正午前後の時間帯は、お昼休憩の合間にアクセスされたのではと考えられる。家の職場化により、いつでもセックス・マスターベーションが楽しめるようになった。
このように外出自粛によるライフスタイルの変化は、セックスやマスターベーションを楽しむ時間帯の変化ももたらしていることが分かった。
新しいSexlifeを支える最新テクノロジー
通信技術や新素材など新しいテクノロジーを活用した、新たなサービスや商品開発が各業界で急速に進んでいる。アダルト業界でもそれは例外ではない。
地球の裏側の人とも、性的に「つながる」
KIIROは男性用のオナホールと女性用のディルド(張り型)をセットにしたカップルセット商品を販売しており、カップルが離れた場所で使用しても、振動が同期されて共有することが可能だ。
スマートフォンやPCを使って、ライブカメラ映像とセットで楽しむことで、距離に関係なく性的なつながりを得られる。この技術で、コロナの感染リスクを気にせずに特定の相手とセックスすることが可能だ。
「よりリアルに」「より手軽に」 進化するラブドール
素材の進化による、ラブドール(ダッチワイフ)の再現性の高さも注目したい。シリコンやエラストマー等の新素材により、人間の肌の感覚に近いラブドールの製造が可能となっている。
米アビスクリエーションやオリエント工業が、人間に限りなく近い高品質のラブドールを販売しており、好みの顔や髪形、肌や髪、瞳の色、体型、唇などを選択することも可能だ。
オリエント工業は、 一時的にドールを保管してくれる「お預かり」サービスや、古くなったり不要になったドールの処分と人形供養を行う「里帰り」サービスも提供しており、アフターフォローも手厚い。
またラブドールのレンタルサービスを提供する会社もあり、 ラブドールは高品質さ、リアルさにより価格は上昇傾向にあるものの(オリエント工業は一体あたり70万円~)、手軽なものへと変化してきている。
VRで生々しく、迫力のある「性体験」が実現
アダルトコンテンツのバーチャルリアリティ化も進んでおり、高い映像・音響クオリティにより没入感の高い体験が可能になっている。
私もオイルマッサージを受けるコンテンツを体験したが、視点を自由に変更できるだけで、リアルと錯覚するような生々しく、迫力ある体験ができた。VRは、「観るもの」から「体験するもの」へと アダルトビデオをの概念を変えるだろう。
VRグラスも価格により機能がピンキリではあるものの、スマートフォンを活用して安価にVRグラスを手にすることも可能であり、個人でも手に取りやすい。
DMMグループのデジタルコマースが運営する「FANZA」では、VR専用アダルトビデオを発信しているが、すでに現在1万近くのコンテンツが配信されており、またそのジャンルの豊富さに驚いた。
バーチャル風俗 「なりたい自分」でセックスする
VRを活用したバーチャル風俗店設立に向けた動きも出ており、クラウドファンディングが始まっている。バーチャルリアリティ上で利用者とサービス提供者が、アバター同士で性的サービスを行うというもので、料金は40分7000円だという。
公式サイトでは、アバターを利用することでリアルではかなえられない体験もできるようになるという(もちろんノーマルプレイも可)
・リアル男性だけど、自分も美少女になって美少女とえっちしたい!
・リアルの性が苦手なので、2次元キャラとえっちしたい!
・ドラゴン娘や吸血鬼など、異種族とえっちしたい!
・リアルでは実現できそうにない特殊なプレイをしたい!
参考URL:
https://fantia.jp/posts/365997
このようにコンテンツの量と豊富さや、多様性への対応などアダルト業界はVRにおいて大きく他業界をリードしていると言えるだろう。
これらの新しい技術は、性体験をより「リアルに」「簡便に」「質を高く」するだけでなく、なりたい自分になってセックスをするなど、デジタルでしか叶えられない領域にまでアダルトコンテンツを進化させている。
満足のいく性体験は、人々の精神を安定させたり、ストレスを解消することなどに役立つことだろう。
また、人と人のリアルな接触を減らすことで、より安全でリスクの低いセックスライフの実現を助けており、セックスライフの価値観を変えていくだろう。
今後のセックスライフは過去に学べ
今回の新型コロナウイルスによる影響は、アダルト業界に多大な影響を与えているという。セックスはニューヨーク市保健局が明示した通り、感染リスクが非常に高い行為であるため、多くの性風俗店は臨時休業を余儀なくされ、またアダルトビデオの撮影も多くが中止になっているという。
エイズパニックの時と酷似する、コロナパニックによる差別・偏見・迷惑行為
アダルト業界がこのような危機に直面するのは初めてではなく、アメリカでは1990年代後半以降のHIV(ヒト免疫不全ウイルス)の発生により、壊滅的な影響を受けた。
日本でも日本人のエイズ患者が1985年にアメリカで発見されたことを皮切りに、86年には松本市在住のフィリピン人女性がHIVに感染していたことが報じられ、87年にはセックスによりHIVに感染し、エイズを発症した風俗店勤務の女性が発見され、亡くなった。高知では血友病患者と結婚前に交際していた女性が出産することが報じられるなど、メディアによる過大な報道により、これらの出来事は国民にエイズパニックを巻き起こした。
これらの松本・神戸・高知を震源としたエイズパニックは、当該ナンバーをつけた車が避けられる、外国人が公衆浴場やコンビニ入店を拒否される、血友病患者の受診や学校受け入れの拒否、エイズがすでにまん延していて自分も感染しているのではと疑った人による保健所や医療機関に向けた電話が殺到するなど、様々な差別や偏見、迷惑行為が起こった。
しかしこれらの30年以上前の事件に起こったパニック、今回のコロナウイルスで起こったコロナパニックと非常に酷似していないだろうか。
HIV登場で、アメリカのポルノ界はこう動いた
その後、アメリカの多くのポルノ業界では、すべての出演者にHIVやその他STD(性感染症)の検査を14日ごとに行うことを義務付けるなど、ポルノ出演者を守るための取り組みが進んだ。
HIVは現在完治する方法が見つかっておらず、本人が感染している自覚も少なく、非常に厄介な存在である。しかし後ほど、感染力自体はとても低いことが分かったため(0.1~1%と言われる)、検査を義務付けることで病気のまん延を防ぐことにしたという。
今回のコロナウイルスにおいても、その特性が明らかになることで、先進的な対策を取ることが予想され、その動向に注目していきたい。
コロナウイルスを正しく恐れ、今までよりもっとセックスライフを楽しもう
新型コロナウイルスによる研究は進んでおり、日々新たな情報がもたらされている。それぞれ、コロナウイルスに対する恐怖や対策の度合いも異なり、その価値観の違いが人種間、年代間、地域間などで意見の相違や対立、差別を生んでしまっているのが現状だ。
エイズパニックの時の教訓を忘れずに、ウイルスの特性を知り正しく恐れ、差別や偏見、迷惑行為を起こさないように留意する必要がある。
またエイズパニックの時とは違い、今回はデジタルを中心とした最新技術を活用し、様々なセックスライフを楽しむことが可能だ。
特定の相手とセックスする場合、一人でマスターベーションを楽しむ場合、プロフェッショナルから性的サービスを受ける場合においても、リアルな接触無しに安全にセックスを楽しむ選択肢がある。
アダルト業界は、最新のデジタル技術やコンテンツなどがすでに導入されていたり、早期からHIVへの対策を徹底するなど、非常に先進的な業界であることが理解いただけたと思う。
特に「アバター」を活用して、「なりたい自分」でセックスを楽しむバーチャル風俗には非常に可能性を感じた。デジタルの活用が進む現代、現実世界では実現が困難な「なりたい自分」になれるコンテンツに、今後ますますスポットライトが当たるのではと、今回のレポートを通じて再認識した次第だ。
次回「アフターコロナ時代のビジネス戦略」のテーマは「エンタメ④ギャンブル」、7/29(水)更新予定です。
Yoshida
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