アフターコロナ時代におけるウェルネス市場のビジネス戦略とは?(第十二回)
【特集】アフターコロナ時代のビジネス戦略 とは
D4DRでは、今回の新型コロナウイルス(COVID-19)の流行を経て社会がどのように変化するか、そして各業界がどのような戦略にシフトしていくべきなのかを考察した「アフターコロナ時代のビジネス戦略」を毎週連載しています。
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アフターコロナ時代のビジネス戦略 -ウェルネス-
昨年度、FPRC(D4DRの未来予測を専門とするシンクタンク部門)が日経BP社から発刊した「消費トレンド総覧2030」では、第一章に「ウェルネスマネジメント市場」がテーマとして取り上げられている。「ウェルネスマネジメント市場」とは、個々人の身体と精神の状態を可視化、学習し、それによって心身の状態の把握と最適化を行い、全社会的にQOLを高めるサービス・商品を提供する市場である(FPRCが独自に定義)。ウェアラブルデバイスや高機能食品の登場により、個々人の身体と精神の状態を把握することがより容易になったことで、このウェルネスマネジメント市場が新しく立ち上がるとしている。FPRCではウェルネスという価値観があらゆるサービス・商品において重要な要素になると考えている。 本ページではWith/Afterコロナ時代の個人・企業のウェルネスに着目し、これまでのウェルネス産業を振り返る。そして今後、新型コロナウイルスの流行でウェルネスに関する考え方がどのように変化し、どのようなサービスが求められるのかについて考えていく。
ウェルネスとは
そもそもウェルネスとは、健康を前向きに捉え、今ある健康を基盤に、より健康、より美しく輝く人生を志向している状態を指す。ウェルネスは「能動的」な捉え方であり、健康であっても自己実現に向けて積極的にサービス・商品を利用するものである(※Global Wellness Instituteのウェルネスの定義:the active pursuit of activities, choices and lifestyles that lead to a state of holistic healthより)。ウェルネスの範囲は個人にとどまらず、家族や社会までに及び、多元的である。そのため、ウェルネスと一言で表しても抽象度が高く、捉えにくい。
一方で、メディカル(=ヘルスケア)は特定の症状や疾患、身体に何らかの反応があった場合にのみ、利用するサービス・商品分野である。メディカルは「受動的」な捉え方であり、健康であれば利用しないものである。
※補足:「ウェルビーイング」とは心身、社会的にすべて満たされた状態を指し、ウェルネスのゴールにあたる。
ウェルネスの要素を分類すると次の大きく4つになる。①身体的ウェルネス②精神的ウェルネス③環境的ウェルネス(空気、水、食、安全などの物理的な生活環境における状態)④社会的ウェルネス(家族、友人など周囲との関係性)である。これら4つの要素全てを満たすことが、ウェルネスを追求する上で重要である。
ウェルネスに関連する産業は、世界的に盛り上がりを見せている。ウェルネスビジネスの世界最大の国際会議であるGlobal Wellness Summitでは、2018年には4.3兆ドルだったウェルネス世界市場が、2019年には4.5兆ドル(約500兆円)に到達したと発表した。ウェルネス市場規模は年々増加の傾向にあり、日本を含め、世界的に広がりをみせている。
このようなウェルネス市場拡大の背景には、世界的な寿命の延伸と所得の増加(下図)が影響していると考えられる。1950年と2019年を比較すると、寿命と所得が著しく延びていることがわかる。それも一部の国や地域だけでなく、全世界的に増加していることがわかる。
参照: Gapminder
これまでの(Beforeコロナにおける)ウェルネス
日本において、健康意識ひいてはウェルネスという志向が注目を集めている背景には、下記4つのポイントがあると考えている。
1. 社会環境の変化
- 経済成長の鈍化
- 働き方改革の推進・健康経営強化
- 寿命の延伸
- 社会保障費の増大
- 労働人口の減少
→経済の停滞による不安感により、将来の健康や幸せについて考える(/考えさせられる)機会が増えた。
2. ライフスタイル・価値観の変化
- 物質的・経済的な充足から精神的な充足へ
- 未病改善、予防意識の高まり
- メンタルヘルスリスクの増大
- 個別最適されたサービス、商品の選択
- シェアリングエコノミー、エシカル志向
→自分らしい人生、周囲の幸せを重視するようになった。
3. テクノロジーの発展
- センシングデバイスの進化によるバイタルデータの収集、常時モニタリング
- ゲノム解析の普及
- パーソナルデータ活用の進展
- 次世代通信(5G)の導入
- xRやロボティクスなど先端デバイスの登場・普及
→多様なデータの取得、高度な制御・解析が可能となった。
4. 産業モデルの変化
- あらゆるコンテンツのデジタル化・オンライン化
- 個別最適されたサービス
- サブスクリプションサービスの提供
- 他産業との連携による付加価値向上
→個人・組織に最適化、業界を横断したサービスが提供されるようになった。
これら4つの要素が互いに影響しあい、人々の健康や幸せに対する価値観、社会のあるべき姿が形作られている。新型コロナウイルスの流行は特に②、④の変化に大きな影響(変化を加速させた)を与えたと考えている。
新型コロナウイルスが与えるウェルネス意識への影響
新型コロナウイルスの流行は、改めて自身と周囲の健康・幸せを捉え直す機会を与えた。未知のウイルスに感染する恐怖や、自身が感染を拡大させてしまうリスクなど、個人の行動が自身と周囲に与える影響について、より深く考えるようになった。
企業は、企業としての立場から従業員の心身の健康を管理し、維持・向上させることはもちろん、自社の従業員が周囲に感染を広げないような社会的行動を促すことも強く求められるようになった。つまり、より高度な健康経営が必要とされていると言える。オフィス内・リモートワーク先といった、ある特定の執務場所に限定せず、例えば休日に従業員がどこで何をしていて、どのような状態にあるかを企業が把握することが求められると考えられる。
以下に企業目線、個人目線で起きる変化の例とそのタイムスケールをまとめた。
企業における変化
①健康経営の高度化:長期的
・感染リスクの推計
・執務スペースのマネジメント
・従業員の状態把握(公私両方)
②緊急時における対応マニュアル整備、BCPカバー範囲の拡大:長期的
・感染者マネジメント(感染時・死亡時の対応)
個人における変化
①健康意識の増大:長期的
②関係性の見直し:短期的(~半年)
・オンラインをベースにしたコミュニケーション(過去の関係性の復活、関係の希薄化)
③可処分時間の増大:中期的(半年~2年)
・通勤、通学時間の減少
・コミュニケーション機会の減少
④インドア・自宅消費の増加/メリハリ消費:中期的(半年~2年)
With/Aterコロナ時代に求められるウェルネスサービスの方向性
個人の心身の健康および生活スタイルのデータを取得し、リスクの推計および改善提案を提示、それに連携した多数のサービスが求められる。
toB
高度な健康経営支援サービス
・執務スペース環境のリアルタイム把握(温度・湿度、衛生状況の可視化)、自動制御
・ウェアラブルデバイスによる従業員の心身状態の可視化(リモートワーク者にも対応)、健康診断との連携
・健康状態に応じた改善アクションの提示(従業員・組織マネジメント)及び福利厚生サービスとの連携
リモートワークになることで、従業員の心身の状態が見えづらくなることが予想される。脳波や脈波など、これまで取得できていなかったバイタルデータの活用が進み、より高度かつ柔軟な従業員マネジメントが実現するだろう。
株式会社VIVITが2020年秋よりIoTメンタルヘルスケアサービス『cocoem.』をリリースする。本サービスは、専用開発された“脈波センサー内蔵のパソコン用マウス”で、脈波を測定する。そこから自律神経の状態を分析し、社員のストレスや脳疲労を可視化する。社員の心身の不調を検知し、改善のアドバイスをすることで従業員のパフォーマンスを向上させることが可能であり、企業における生産性向上の促進が見込まれる。
健康診断結果やバイタルデータなどの活用には個人情報の取り扱いに課題がある。今後、個人が積極的に企業へ情報を預ける情報銀行など、適切に情報を管理・流通させる仕組みが重要になるだろう。
toC
健康状態のモニタリング及び、パーソナライズされたコンテンツ
・パーソナライズドフード、パーソナライズドフィットネスなど
リアルタイムかつインタラクティブに繋がれるデジタルコンテンツ
・VRライブ、オンライン/バーチャルツーリズムなど
在宅時間が増加し、コミュニケーション機会が減少することから、特にメンタルヘルスの悪化が予想される。自宅にいながらストレスを発散するサービスが注目を集めている。
フィンランドへの観光を促進する団体である「Visit Finland(フィンランド政府観光局)」が、バーチャルでフィンランド流のウェルネスアクティビティが体験できるキャンペーン「バーチャル Rent a Finn(レント・ア・フィン)」を始めている。国民の幸福度の高さで知られているフィンランドのライフスタイルを、日本にいながら体験することができる。
ツーリズムだけでなく、ヨガなど様々なコンテンツがデジタル化している。今後、xRや高速通信(5G)などの先端技術によって、よりリッチなコンテンツを自宅で体験できるようになるだろう。そして、デジタルコンテンツが増加することで、リアルなコミュニケーションが希少化すると考えられる。
リアルだからこそ伝えられる価値・デジタルだからこそ実現できる体験、それぞれのメリット・デメリットを見極める必要がある。そうした理解を得たうえで、リアルとデジタルをミックスした付加価値の高いサービスを生み出すことが今後求められるだろう。
最後に
新型コロナウイルスの流行によって、人々は自身・社会の健康や幸せについて見つめ直すこととなった。ウェルネス産業にとっては、これ以上無いと言っていいほどのチャンスであると考えられる。今後ますます、あらゆるサービス・商品の根底にウェルネスという価値観が必要になるだろう。
Global Wellness Summitが公表している10のトレンドのうちの1つに『J-Wellness(JはJapanを意味する)』のカテゴリーがある。日本にはウェルネスに直結するコンテンツ(温泉や日本食など)が多く、世界から大きな注目を集めている。様々なコンテンツがデジタル化している現状において、ウェルネス産業も積極的にデジタル化・グローバル化を進めていくべきであると考える。『J-Wellness』を起点としたサービス・商品を、政府と民間が連携して提供していくことで、日本の経済を活性化させることに期待したい。
次回「アフターコロナ時代のビジネス戦略」のテーマは「 SNS分析[飲食テイクアウト編] 」、7/1(水)更新予定です。
アフターコロナ時代のビジネスに関連するサービス内容・お見積り等は、以下をご参照ください。
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