コロナによって消費者の『住』は1拠点から多拠点に?その時不動産仲介業に求められるものとは(第五回)
【特集】アフターコロナ時代のビジネス戦略 とは
D4DRでは、今回の新型コロナウイルス(COVID-19)の流行を経て社会がどのように変化するか、そして各業界がどのような戦略にシフトしていくべきなのかを考察した「アフターコロナ時代のビジネス戦略」を毎週連載しています。
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アフターコロナ時代のビジネス戦略 -生活者の住生活・不動産仲介業-
今回はコロナによる生活者の「住む」ということに対する価値観の変化と、その価値観の変化に対応していかなければならない業種「不動産仲介業」について論ずる。
コロナによる不動産仲介業への打撃
飲食業や旅行、交通業ほどではないが、不動産仲介業も外出自粛により、確実に打撃を受けている。不動産情報サービスのアットホーム株式会社が発表した『地場の不動産仲介業における景況感調査(2020年1~3月期)』によると、2020年1~3月期賃貸仲介の首都圏業況判断指数は前年同期比-6.1ポイント、売買仲介の首都圏業績判断指数は前年同期比-4.2ポイントといずれも大幅に落ち込んだ。2020年4~6月期は、賃貸仲介・売買仲介ともに前年同期比20ポイント以上の下落と見通されている。
不動産仲介業者は外出自粛対策として、LINE上での物件資料や見積もりの提供、スタッフ代行内見やセルフ内見、生活者が自宅にいながら内見できるVR内見など様々な施策を打ち出している。これらの新たな仕組みはコロナ終息後も便利な物件探しの方法として取り入れられるだろう。
しかし、アフターコロナ時代のビジネス戦略を考えるうえでは上記のような小手先の施策ではなく、コロナによる生活者の価値観の変化を想定したうえで、生活者のライフスタイルをより充足させるために創出すべき付加価値を考える必要がある。
コロナによる生活者の意識変化
コロナによって顕在化したリスクの一つに「都市一極集中の災害リスク」が挙げられる。都市一極集中はコロナ発生以前からも叫ばれていた問題ではあったものの、東京圏の転入超過が24年連続であることや、2019年の東京圏の転入超過が前年より9,000人弱増加していることからも生活者の当事者意識は低いことがわかる。
コロナを経験し、都市一極集中のリスクを体感したことで地方分散型社会へゆっくりと変遷していくのではないかと筆者は考えている。
生活の軸は一拠点から多拠点へ
「モノからコトへ」という若年層に多い価値観が住まいにも適用され、 地方分散型社会への移行と同時に一拠点生活から多拠点生活への移行が進むであろう。従来型の「都市圏にある持ち家と別荘」という多拠点ではなく、様々な地域のシェアハウスや空き家、賃貸物件などに短期的に住みながら、そこでしかできない体験をする生活である。
弊社が2019年6月に出版した『消費トレンド総覧2030』でもマルチハビテーション(多拠点居住)については大きく取り上げたが、多拠点居住の大きな障壁の一つに仕事があった。しかし、その仕事についてもコロナの影響により、リモートワークが多くの企業で取り入れられ、リモートワークやワーケーションなど働き方についても今後大きく変化していくことが予測される。
働き方が多様化すると、人生における「住まい」の立ち位置が大きく変わるのではないか、と筆者は考えている。
従来型の考え方は、「幸せに生活する・食べていくために何が必要か」→「仕事や家族」→「住まいは仕事に行きやすいところ」であった。
今後、働き方の多様化や価値観の変化により、「どんな生き方をしたいか」→「のんびり自由に暮らしたい、様々な人と関わりたい、など人それぞれ」→「住まいや仕事」となるのではないだろうか。
つまり、ここで言いたいのは「住まい」は目的のための手段であることは変わっていないのだが、その目的が今後より一層多様化していく、ということである。
多拠点居住が浸透した世界で不動産仲介業に求められる価値とは
では、生き方が多様化し、多拠点居住が浸透した社会で不動産仲介業はこれまで通り物件の売買・仲介情報を提供し、契約の仲介や不動産の管理をするだけでいいのだろうか。
そのままのビジネスモデルであれば、定額全国住み放題サービス「ADDress」や空間のマッチングプラットフォーム「スペースマーケット」といった新興勢力の後塵を拝する結果となってしまう可能性がある。
では、今後不動産仲介業はどのような価値を生み出せばいいのか。
今後不動産仲介業に求められるものは、「住まい」の提供ではなく、「住まい」を入口としたライフスタイル全般の提案・提供ではないかと私は考えている。
例えば、前述の定額全国住み放題サービス「ADDress」は、ANAと提携しユーザーに移動のサブスクリプションサービスも提供している。
このように、多拠点居住を前提とした住まい×移動の提供や、住まい×移動×仕事の提供など生活者のしたい生き方をサポートするシームレスな生活インフラサービスの提供が今後重要になってくるだろう。
また、現状の「住みたい沿線」や「最寄り駅からの距離」、「築年数」、「階数」といった項目から生活者へ最適な住まいを提案するのではなく、生き方や働き方など生活者の抽象的なニーズから最適なライフスタイルを提案することが大きな価値になるはずだ。
家賃のダイナミックプライシングの重要性
少し話は変わるが、最後に家賃のダイナミックプライシングの重要性について論ずる。家賃のダイナミックプライシングが求められると予測する理由は以下の2つである。
コロナにより大打撃を受けた飲食業界のモデルチェンジ
多くの飲食店がコロナにより廃業に追い込まれているが、固定費用である家賃が大きな原因である。もともと飲食店は、原材料費や人件費などの変動費をいかに抑えるかということを念頭に経営していたが、今後コロナのような災害時にも対応できるよう、休業時の固定費対策を考えなくてはいけないだろう。
その時に出てくるニーズに不動産業界が対応できるよう、先んじて変動費ビジネスモデルの開発を行う必要がある。
(※『アフターコロナ時代のビジネス戦略:飲食業界編』は後日公開予定のため、飲食業に関する詳細は本記事では割愛)
多拠点居住の浸透、MaaSの高度化による生活者の移動の活発化
多拠点居住の浸透やシェアリングサービスの拡大、移動手段の高度化により、これまで家賃を決定する際に重要であったパラメータの「最寄り駅からの距離」がそこまで重要ではなくなる可能性が高い。前述したように、生活者の目的が多様化することから、家賃を決定する際にこれまで以上に多くのパラメータが必要になってくるであろう。そのパラメータの中には季節や街のイベントなどといった変動的なものも含まれる。
上記のように様々なプレイヤーから今後出てくるであろうニーズに対応するため、様々なパラメータに基づいた動態予測を行い、変動的な家賃設定を行うことがアフターコロナ時代には求められるのではないだろうか。
次回「アフターコロナ時代のビジネス戦略」は5/13(水)、テーマは「スマートシティ」を予定しています。
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