情報銀行(情報信託サービス)とは?
情報銀行は、ビジネスの電子化とデータ活用ニーズの高まりを背景に利用が進展している。総務省主導の情報信託制度により、個人データの横断的活用が可能になり、マーケティングや行政サービスの効率化が期待される。プライバシー侵害や情報漏えいへの懸念はあるが、個別企業へのデータ預託よりもリスクは低いとされる。個人のデータ主権が強化され、より価値の高いサービス提供や社会最適化が実現する可能性がある。
予想される未来社会の変化
- 分散していた個人に関わるデータが安全かつ一元的に管理されることで、分野を横断したサービスが行いやすくなる
- 集約されたデータをAI等を活用して、個々人に最適化した情報提供や提案を行うパーソナルエージェントサービスが進化し普及する
- 高度なマッチング機能は需給や機会ロスを減少させ、より環境負荷の少ない全体最適化された社会の実現に寄与する
- データを預託する人とそれを良しとしない人の間での格差と意識の不均衡が生まれ、社会問題化する
トレンド
分散型IDの日本とオーストラリア間における相互接続
大日本印刷と三菱UFJ銀行は、2024年5月にオーストラリアの金融機関やシステム開発企業と共に、個人のアイデンティティに関する情報を管理する「分散型ID」に基づくデジタル証明書(Verifiable Credentials:VC)の活用を目的とした実証実験を実施。
この実験では、欧州委員会が検討中の「European Digital Identity Wallet(EUDIW)」の技術仕様を参考にし、米国のOpenID Foundationが策定したデータ形式と通信プロトコルを利用。これにより、日本とオーストラリア間で異なるフォーマットのデータの相互接続が可能であることが確認された。
さらに、両社は「日豪クロスボーダー相互運用性ワーキンググループ」を設立し、オーストラリアのデジタルIDソリューション「ConnectID」を提供するAustralian Payments Plus社や、ナショナル・オーストラリア銀行(NAB)、オーストラリア・コモンウェルス銀行(CBA)、および分散型ID管理と認証サービスを提供するMeecoが参加した。
近年、日本とオーストラリア間の観光や留学などの交流が活発化する中で、デジタル化が進行し、個人情報の不正利用や情報漏洩の問題が拡大している。このため、高いセキュリティを持つ信頼できる個人情報流通基盤の整備が急務となっている。
この背景を踏まえ、ECが策定を進める「European Digital Identity Wallet(EUDIW)」を参考に、日本とオーストラリアの民間企業間で初めての国境を越えたデータ連携の相互運用性を確認。今後は、この技術的実証実験の結果を基に、移住者の銀行口座開設手続きの効率化や観光客の観光専用チケット購入など、日豪の生活者にとっての利便性を向上させる多様なユースケースに関する実証実験が続けられる予定。
SaaS型信用スコアモデル「M.Score」
みらいスコアとテンソル・コンサルティングは金融機関の顧客データ利活用を促進するための「SaaS型信用スコアモデル」として2023年10月「M.Score」β版を限定リリースしていたが、「M.Score」本格版アプリをリリースし、一般の個人顧客が利用できるようになった。スマホやパソコンでM.Scoreアプリの質問に回答するだけで自分の信用スコアを確認することができる。
「信用スコア」とは、個人顧客がスマホで質問に回答すると、一人ひとりの信用度がスコアとして見える化され、スコアに応じてローンの条件が優遇されるほか、様々なレコメンドや金融・非金融の優遇特典が受けられるサービス。「M.Score」は、金融機関が自らスコアモデルを保有せず、SaaS利用料だけで信用スコアサービスの導入ができ、このサービスを導入することで、金融機関は初期投資を抑えながら短期間かつ簡単に信用スコアを活用したスコアカードローンなどの新サービス提供が可能となる。
金融・非金融の優遇特典は今後順次追加サービスとしてリリース予定。
医療版情報銀行サービス「decile」
三井住友銀行では医療版の情報銀行サービス「decile」を展開している。三井住友フィナンシャルグループの連結子会社であるプラスメディは2025年1月に第二大阪警察病院と統合し新病院として生まれ変わる社会医療法人警和会 大阪警察病院が推進する「スマートホスピタル構想の第1弾」にこの「decile」のデータの活用が予定されている。
「スマートホスピタル構想の第1弾」は、大阪警察病院が掲げる「いのち輝くスマートホスピタルを実現するために」という基本方針をもとに、医療データの利活用を早急な課題として捉えている。具体的には、全国の病院で患者中心のPHR(パーソナルヘルスレコード)をつなげるプラットフォームを構築し、大阪モデルを全国に展開することを目指している。
プラスメディは二つのスマホアプリ「wellcne(ウェルコネ)」と「FAROme(ファロミー)」を導入運営している。これらのアプリは、スマホを介して患者と医療機関の接点を持ち、医療版情報銀行「decile」とのデータ連携を行うことにより、患者体験を向上させる。
「wellcne」は通院時間の短縮、病院内の混雑緩和、患者と病院のコミュニケーション向上、PHRの実現を目的としており、電子診察券や診察待順案内、会計後払い決済などのサービスを提供している。
一方、「FAROme」は患者の日常生活のQOL(生活の質)向上を目指し、疾患相談や病気の知識を提供することで不安を軽減し、体調の変化を記録することができる。これにより、患者は自分の健康状態を把握し、医師との連携やデータ共有を行うことが可能となる。
プラスメディはこれらの取り組みを通じて、データの利活用によるQOLの向上を目指している。
・ビッグデータ活用の裾野が広がった背景には、AIの進歩で大量のデータ処理が可能になってきたことが挙げられる
・現在の個人情報を守る仕組みは、個人と企業に依存しており、情報流出のリスクが高い
個人がIDとパスワードを何十個も管理し、定期的に更新することは負担であり、限界がある
・「情報信託」とは個人の健康状態や購買履歴などの情報を、本人の同意を得たうえで預託し、活用するもの
情報は総務省が主導となって、進めている情報銀行に集められる。情報銀行とは、提供された情報を一括管理し、ニーズのある第三者に対して提供する事業体のことを指す
・個人がそれぞれの企業に預けているデータは異なり、それを複数企業が横断的に活用し、告知ビジネスやマーケティングに活用したいという需要がある
国や自治体も円滑な交通・防災等にそれらのデータを活用することで、効率が高く、安全性の高いパーソナルエージェントサービスを享受できるメリットがあると考えられる
・三菱UFJ信託銀行の「個人データ銀行」構想が報じられたのを皮切りに、情報銀行(情報利用信用銀行)に関する動きが活発化している
・自治体など、公的機関がデータを公開する、オープンデータの取り組みも広がっている。新型コロナウイルス対策では、感染状況など関連データを自治体などが公開したほか、官民が協力して人流データを活用する動きも見られた。
今後はワクチン接種履歴データを世界共通で管理する必要性も提起されている
・英国では2011年11月に官民共同プロジェクト 「midata(マイデータ)」が開始された。「midata」が目指したのは、消費者が自らのデータを取得できるポータルサイト等の構築を、企業の間で広めること
任意参加のプロジェクトだったが、Googleや、英国のIT・金融・インフラ業界の大企業が参加したこともあり、注目を集めた
しかしプライバシー侵害・情報漏えいへの不安や、サービスそのものの使い勝手の悪さのために、開発されたアプリは事業化されず、データ流通基盤の構築もかなわなかった
・新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、データの有効活用(Society5.0)に向けて加速している。情報銀行に対する期待も高まっている
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