希少資源の調達リスクとは?
希少資源の調達リスクは、レアメタルや脱炭素技術に必要な資源の需要増加と供給不安定性から生じている。電気自動車や再生可能エネルギー技術の普及に伴い、リチウムやコバルトなどの需要が急増し、資源ナショナリズムの台頭や採掘による環境破壊も懸念される。
対策として、リサイクル技術の向上、代替材料の開発、調達先の多様化、国際協力の強化などの取り組みが進められている。
予想される未来社会の変化
- エネルギーや資源が需要の増大に対して供給不足になり、社会不安を招く
- レアメタル・脱炭素資源の供給網の再編
- 脱炭素の達成が困難になる
トレンド
エマルションフローを用いたリチウムイオン電池の高効率リサイクル実証プラント
エマルションフローテクノロジーズ(EFT)は、電気自動車や電子機器からの退役リチウムイオンバッテリーを効率的にリサイクルするために、「エマルションフロー小型実証プラント」を稼働し、リサイクル電池開発向けのサンプル提供サービス「EFTファウンドリー」を開始。
電気自動車の普及が進む中、リチウムイオンバッテリー(LIB)のリサイクルは急務となっており、世界各国で開発が進められている。しかし、退役LIBの流通が少ない現状では、開発に必要な量の回収が難しいという課題がある。
さらに、退役LIBを粉砕した際に残るパウダー状の素材(ブラックマス、BM)は、電池の種類によって性状が異なり、処理条件によっても組成や品質が変わるため、リサイクル原料の品質に応じたプロセスの適用が求められる。また、大型プラントでの処理はコストがかかり、環境への影響も考慮する必要がある。
EFTは、原子力機構が開発した革新的な溶媒抽出技術「エマルションフロー」を活用するスタートアップであり、蓄積されたプロセスデータベースに基づいて、顧客から提供されたBMに適したプロセスを提案。数10kg単位のリサイクル原料の評価を通じて、リサイクルLIBにふさわしい原料品質やコストの最適化を目指す。
この小型実証プラントでは、硫酸コバルト、硫酸ニッケル、炭酸リチウム、水酸化リチウムなどの「リサイクル原料」の製造が可能。プラントはBMの重量で1時間あたり2kgから5kg程度の処理が行うことができ、これまでに30時間以上の連続運転を通じて、LIBのリサイクル材として適した高純度の数10kgオーダーのリサイクル原料の回収に成功している。
家庭から出る使用済みリチウムイオン電池からレアメタルを回収する実証試験
埼玉県はサーキュラーエコノミーを推進するため、太平洋セメントや松田産業、狭山市および上尾市と協力し、2023年9月から2024年2月にかけてレアメタルの回収を目的とした実証試験を行った。この試験では、スマートフォンやモバイルバッテリー、電子たばこなどの小型家電に内蔵されているリチウムイオン電池から、コバルトやニッケルなどのレアメタルを回収することを目指した。
現在のところ充電式電池の回収は十分ではなく、また使用済み電池が適切に分別されず、ゴミ処理の際に火災の原因となることもある。
このため、狭山市と上尾市の協力のもと、家庭から出る使用済み充電式電池やそれを含む製品からブラックマスの回収が検証された。ブラックマスは、リチウムイオン電池を熱処理することで得られる粉体で、レアメタルを含む。これを精錬することで、必要なレアメタルを回収することができる。
実証試験では、狭山市と上尾市が保管していた充電式電池やその内蔵製品を、松田産業の助言を得て種類ごとに仕分けした。その後、仕分けされた電池や製品は、太平洋セメントと松田産業によって処理され、ブラックマスが資源として回収された。
一方で、充電式電池の仕分け作業にはコストがかかることや、効率的な回収ルートの構築が必要であるなどの課題も明らかになった。
海底に眠るレアメタル資源の発見を目的とした探査システムの研究
ワールドスキャンプロジェクトと東京大学 生産技術研究所(東大生研)のソーントン・ブレア准教授らの研究チームは共同で、海底に眠るレアメタル資源の発見を目的とした探査システムの研究を行っている。
本研究チームは、ワールドスキャンが開発した新型磁気センサ「ジカイ」(金属探知センサ)と東大生研ソーントン研究室が開発した3D画像マッピングシステムを有索遠隔操縦ロボット(ROV:Remotely Operated Vehicle)に搭載し、海底に存在する磁気反応を詳細に調査し、深海環境におけるレアメタル資源に関する情報を取得して解析するためのシステムを共同開発した。資源が有望視されている1700mの海底において、磁気データの取得に成功した。
深海には、銅・鉛・亜鉛などのベースメタルや、リチウムイオン電池の材料などに使用されるコバルトなどのレアメタルを多く含んだ海底鉱物資源が点在する。今後、深海の磁気異常計測により、海底に眠るレアメタル資源の分布の把握に活用することができると期待される。本研究を推進して、深海に眠るレアメタルの存在量と位置情報を把握し、正確な海底資源マップを作成することを目指す。
・地球環境問題が深刻化する中で、世界的に脱炭素化の流れが加速している。2015年12月に開かれた気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で、地球温暖化防止の国際的な枠組み「パリ協定」が採択され、「低炭素化」から「脱炭素化」へ世界的な潮流は変化した。
・ 脱炭素化に向けて需要拡大が見込まれる電気自動車や風力発電などの分野で、レアメタル調達など資源の調達リスクが問題視されている。
・ 電気自動車には、銅やアルミニウムのほか、リチウムイオン電池の正極材にニッケルなどが使われる。
風力発電には、モーター用磁石にレアアースが使用されている
・レアメタル調達に関して、レアメタル・脱炭素資源は、産地の集中度が高く、リチウムやコバルトは上位三カ国で8割前後のシェアを占めている
・資源国が資源国を囲い込む動も出始めており、非資源国は脱炭素の達成が困難になる
・日本は、レアアース輸入の6割を中国に依存しており、中国の輸出規制が強まれば他国からの調達競争が激化すると見込まれている。
・アメリカは、オーストラリアのレアアース大手を国内に誘致して生産力の増強を行うなど、脱炭素化に向けて世界で供給網の再編が始まっている
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