a-16 : バイオプリンティング(移植用臓器・人口培養肉など)

バイオプリンティングとは?

バイオプリンティングは、細胞を材料とする3Dプリンティング技術で、再生医療や培養肉の生産に応用されている。医療分野では、損傷部への人工皮膚の貼布や、移植用臓器の作製に用いられている。

バイオプリンティング技術による培養肉生産は、食肉用の家畜飼育に比べ資源の消費量や環境負荷を大幅に抑えられることや、動物福祉上の課題を解決できるといったメリットがある。

予想される未来社会の変化

  1. 人から人への臓器移植が不要となり、カスタマイズされた臓器による待機なしの移植医療が実現する
  2. 再生医療が一般的になり、平均寿命、健康寿命が大幅に延伸する
  3. 培養肉の工業生産により、食肉需要による環境負荷が軽減される
  4. 生体組織の大量生産技術により、化粧品や医薬品の動物実験が不要となる

トレンド

ヒトiPS細胞由来の大脳オルガノイド同士を軸索で結合させた組織(コネクトイド)

出典:東京大学生産技術研究所「【記者発表】軸索で結合させた大脳オルガノイドは複雑な神経活動を示す――脳の発達と機能の解明に新たな手法を開発――」

東京大学の研究チームは、ヒトiPS細胞から生成した大脳オルガノイド同士を神経軸索で結合させ、複雑な神経活動を示す脳組織モデルを開発。この研究では、2つの大脳オルガノイド間に神経束を形成し、相互に結合した脳組織モデルを作成し、その神経活動を解析した。脳は異なる機能を持つ領域が神経回路で結合し、高次の情報処理を行うが、ヒトの脳ではこの結合が複雑で、発達メカニズムや機能の解明は困難だった。

従来、ヒトiPS細胞から作製された大脳オルガノイドを利用し、脳の発達や機能を再現する試みが行われてきたが、オルガノイド同士の結合がうまく再現できず、異なる結合様式になる問題があった。この研究では、微細加工技術を用いた特殊な培養チップを使い、2つの大脳オルガノイドを離れた位置に配置し、その間に軸索の束を形成する新しい方法を開発した。

この神経組織モデルを「コネクトイド」と名付け、従来のモデルと比べてより複雑で強い神経活動を示すことが確認できた。さらに、光遺伝学的手法により神経束を刺激すると、コネクトイドの神経活動が引き込まれ、短期的な可塑性も観察された。これにより、コネクトイドが生体の脳に近い機能的な結合を有していることが示唆された。

また、神経束で結合された神経細胞は、そうでない細胞に比べて活性化や成熟に関連する遺伝子発現が高いことが明らかになった。これにより、軸索による結合がコネクトイドの機能的発達に重要な役割を果たしていることが示された。

本研究で開発されたコネクトイドは、ヒトの脳の神経回路網を再現する画期的なモデルとして、脳の発達や機能、脳障害のメカニズム解明に寄与する可能性があり、将来的には創薬スクリーニングへの応用も期待されている。

剣山メソッド

出典:JSTORIES「3Dプリンターで移植可能な臓器を作成、日本独自の再生医療が2030年頃までには選択肢に」

サイフューズは、日本のバイオテック企業であり、3Dバイオプリンターを利用した最先端の再生・細胞医療に取り組んでいる。九州大学医学部の研究チームが開発した「剣山メソッド」を基にした技術を用いて神経組織などを作成し、既に国内で10人の患者に対して移植を成功させている。この「剣山メソッド」では、直径0.2ミリの細い針を用いた土台の上に細胞を積み重ねることで、血管や神経細胞などの組織を形成する。3Dバイオプリンターの導入により、従来20時間かかっていた作業が40倍の効率で進むようになり、現在では3センチ程度の血管や神経細胞を数時間で生成できるようになった。

この技術の最大のメリットは、実験用だけでなく、実際に移植可能な組織や臓器を生産できる点である。他社の3Dプリンターでは人工材料を使用するが、サイフューズのプリンターは細胞のみを用いて積み立てるため、体内で溶けずに機能する移植臓器を提供できる。そして、縫合が可能な点もメリット。

今後、サイフューズは、米国のスタンフォード大学やジョンズホプキンズ大学と共同研究を行い、アメリカ及び欧州市場への進出を計画している。「剣山メソッド」を通じて、患者自身の細胞から自分の体に適した組織や臓器を生成することを目指し、必要な大きさに応じた組織の製作を進めている。

また、市場調査機関MarketsandMarkets Researchによると、2024年には世界の3Dバイオプリンティング市場の収益が13億ドル(約2,000億円)に達し、2029年までには24億ドル(約3,800億円)に成長する見込みであり、その間の年平均成長率は約13%と予測されている。

勝手場

出典:PR TIMES「インテグリカルチャー、『勝手場』のサービス開始みんなが使える細胞農業の実現に向けた最初の一歩」

インテグリカルチャーは、細胞農業を通じて細胞性食品(培養肉)の実現を目指し、その事業化に必要な資材や知見を提供する新サービス「勝手場(Ocatté Base)」を開始。この勝手場は、細胞農業に特化した製品のマーケットプレイスであり、同社が開発した食品グレードの培養資材や「CulNet®︎コンソーシアム」で共同開発した製品の販売も視野に入れている。

細胞農業では、コストと環境負荷の低減を両立させるために、効率的な細胞培養が可能な資材が求められる。しかし、これらの資材はしばしば秘匿されており、参画を希望する企業にとっては必要な資材を揃えることが難しい状況。

そこで勝手場は、会員企業に対して簡単に細胞農業資材にアクセスできる環境を提供し、活性化を図っている。これにより、企業は研究開発にかかる時間とコストを削減することが可能。

さらに、勝手場は技術を持つ企業同士を繋げるB to Bマーケットプレイスとしても機能し、「みんなで作る細胞農業」をテーマに、多くの人々が細胞農業にアクセスできるよう努めている。

現在、勝手場では基礎培地、細胞剥離剤、細胞接着コート剤、細胞凍結液の4つの製品を展開。これらの製品は、同社が整備している日本初の培養肉生産ラインで採用した資材であり、培養肉を製造するために必要な要素となる。

このサービスは、国内外の細胞農業企業や興味を持つ企業に向けて提供されており、特にシンガポールなどの海外市場にも焦点を当てている。A.T. カーニー社の予測によれば、細胞農業の市場規模は2040年までに6,300億USドルに達する見込み。


・バイオプリンティングは、細胞を材料とする3Dプリンティング技術。
再生医療や培養肉生産での活用に向け、研究・開発が進んでいる。世界の3Dバイオプリンティングの市場規模は、2019年の ​5億8,613万米ドル から、2025年までに ​19億4,994万ドル に達すると予想されている

株式会社グローバルインフォメーションのプレスリリースより

・医療分野では、損傷部への人工皮膚の貼付や、移植用臓器の作製に用いられている。チップ上に人間のミニ臓器を作る技術では、患者個々人に合わせた治療アプローチ開発を可能にする。
また、動物実験に代替する方法としても注目される

出典:Newsweekより
3Dプリンターで「移植可能な臓器」ができる日は近い:最新研究

・2018年には、 3Dプリンターを利用した人工皮膚を、直接患部に貼り付ける治験をトロント大学とサニーブルック・ヘルス・サイエンス・センターの共同研究チームが実施した。
2019年には、アメリカのライス大学とワシントン大学の共同研究チームが、複雑な血管網を持つ人工肺の作製に成功した

出典:Share Lab NEWSより
「生きた皮膚」を3D印刷-3Dプリンターで叶えるアンチエイジング


Bioengineers clear major hurdle on path to 3D printing replacement organs

・日本において、臓器の機能不全により移植を待つ人は約13,000人であるが、移植を受けられる人は年間300人ほど。バイオプリンティング技術を活用した臓器移植の拡大による解決が期待される

・カーネギーメロン大学の研究チームは、500ドルで作れる3Dバイオプリンターを開発。バイオプリンターの低価格化を目指した研究が行われている

出典:Gigazineより
わずか5万円で導入可能な3Dバイオプリンターが登場

・バイオプリンターによる培養肉生産は、食肉生産のための 屠殺の必要がなく、 食肉用の家畜飼育に比べ資源の消費量を大幅に抑えることができるといったメリットがあり、地球環境問題の解決につながるとされる

・2021年、イスラエルのフードテックスタートアップAleph Farmsとイスラエル工科大学は、世界初の3Dバイオプリンティング技術を用いた培養リブアイステーキ肉の生産に成功した

出典:NEXT MEATSより
イスラエルのアレフ・ファームズ(ALEPH FARMS)が世界初となる培養肉のリブアイステーキを開発

 

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