成功するデジタルトランスフォーメーションとは~加速するDXに必要な視点~

2020年12月11日、D4DR主催のオンラインイベントを開催した。
今回のイベントでは、ゲストに江端浩人事務所代表/次世代マーケティングプラットフォーム研究会主催の江端氏を迎え、「成功するデジタルトランスフォーメーションとは~加速するDXに必要な視点~」 をテーマに、単なるデジタル化ではない、デジタルトランスフォーメーション(以下DX)とは何かということについて江端氏とD4DR代表藤元が議論した。

「マーケティング視点DXの4P/4C」( 江端氏プレゼン )

まずは藤元より、イベントに先立って事前に実施した会社毎のDXの取り組み状況のアンケートの結果が発表された。
80を超える数の企業にお答えいただいた本アンケートでは、「会社全体で取り組んでいる」という回答が37社、「一部で取り組んでいる」という回答が23社と、実に7割以上の企業がDXに積極的であることが明らかとなった。

あらゆる領域で進展を見せているDXであるが、昨今のコロナ禍によってその必要性は格段にかつ急激に高まってきている。そうした背景も踏まえ、まずは江端氏に著作『マーケティング視点のDX』(日経BP,2020/10) の内容にもまつわる「マーケティングの視点DXの4P/4C」というプレゼンを実施していただいた。

同氏によると、マズローの欲求五段階説的にマーケティングの在り方も時代を経るにつれて変化しつつあるという。カタログ中心のマーケティングが主流だった大量生産・大量消費の時代から、ブランドマーケティング、社会承認CSRマーケティングの時代を経て、現在は自己実現マーケティングの時代に差し掛かっている。それに対応して製品・サービスの提供の手段や、顧客との繋がり方がデジタル化してきた。その上で製品やサービスの価値をどのように創造していくかを考えることが重要であり、それに関する提言を『マーケティング視点のDX』にまとめている、と言う。
DX2.0(マーケティング視点のDX)における4Pモデルは
①「Problem」
②「Prediction」
③「Process」
④「People」 の4つであり、

上記の4Pに基づく4Cモデルは、
①「将来的な提供価値」(Customer value/Benefit)
②「顧客のコスト、手間の削減」(Cutting Cost Time & Distance」
③「手軽で簡単」(Casual & Easy)
④「ファンの育成」(Community)
である、という。

「こうしたモデルを実践に移していくにしても、DXは単なるデジタル化=アナログのデジタルへの置き換えということで完結しない。それだけでは解決しない問題も多く、改めて課題は何なのか?デジタルをどう活用するか?アナログのままにしておくべきところはどこか?といったことを念頭に置きながら、マーケターが潜在的なニーズや顧客のインサイト、時代のインサイトを掴んでいくことが必要である。短期的な解を出すにとどまらず、技術の進化なども踏まえて考える必要があり、想像力が非常に重要になってくる。」(江端氏)

D4DR藤元と江端氏による対談

江端氏著『マーケティング視点のDX』 について

D4DR藤元:

この本は、情シスやITではなくマーケティング視点なのがいい。江端さんが仰る通り、かえってアナログである方が新鮮だったり、それをSNSに取り込んで「映え」させるという形の需要がある。そうしたユーザーの気持ちをくみ取れるのはマーケティングの視点だと思います。ただ何でもデジタルにすればいいわけじゃなく、顧客視点が重要。しかし、日本企業は部分最適が得意過ぎて顧客視点を持てないでいるように思いますがいかがでしょう。

江端氏:

例えば、光景をただ記録するだけならデジタルカメラさえあればいいわけで、どうしてチェキのようなアナログなものに需要があるのかといえば、コミュニケーションのツールになっているからだと思うんです。「ちゃんと撮れてるかな」とワクワクしながら現像を待つ時間にベネフィットがある。デジカメやスマホのカメラではそれは提供できません。その記録を共有しようと思えば、デジタルの出番にということになります。

D4DR藤元:

そう、むしろアナログに回帰すべき部分もある。それを把捉するにはカスタマージャーニーが重要になってくるでしょう。

江端氏:

お客さんとの関係もそうですよね。社内に新しいデジタルなシステムを導入する際に、当然セキュリティが重要な問題になってきますが、その管理に手間取り他の業務ができなくなったり、結局そのためだけに出社しなくてはならなくなったり、使う人側の利便性をセキュリティが上回ってしまうという例もあります。やたらにデジタル化をすればいいわけではない。マーケターは、顧客あるいは企業のどちらかからの視点だけではダメで、バランスのとれた設計をする必要があります。

D4DR藤元:

やはり全体最適が重要ですよね。その塩梅を探るためにカスタマージャーニーは古くて新しい手法として有効でしょう。こういう時代だからこそ顧客視点からマーケティングの全プロセスをもう一度見直す必要があると思います。

江端氏:

顧客視点で好調な例で言えばzoomでしょうね。リンクが送られてきてそれをクリックするだけで会議が実現できるというUIの圧倒的な利便性からこれだけ普及しています。

伝統企業の変化と教育ビジネスについて

D4DR藤元:

伝統のある企業でも柔軟に変化して業績を伸ばしている好例にフェンダー社があります。初心者女子にターゲットを絞ってマーケティングを実施し、オンラインレッスンのサブスクの提供を開始するなど、裾野が広がるとユーザー増加に繋がります。

江端氏:

フェンダーもギブソンも売り上げ低迷に苦しんでいた。そこでフェンダーはナイキなどでマーケティングの経験をしていた人材を招いてのマーケティングを実施し、顧客リサーチによって女子によるギターのオンライン購入が増えていることを明らかにしました。そこから浮かび上がってきたのは、レッスンを受けたいけど尻込みしている初心者女子が多い実態です。そこでサブスクでレッスンを提供し、上手くなってきた頃にあわせてよりハイグレードなギターのクーポンを打つ。ギターにはまった人はそうしてギターを複数購入していくことになり、将来的には100万を使うそうです。 一方でギブソンは従来型の投資を続けて破綻しました。

D4DR藤元:

メーカーがサービス業に変化したということですね。

江端氏:

売って終わりのモデルのメーカーはこれからのDX時代では厳しいでしょう。オンラインで色々なコンテンツを提供できるのだから、サービス業とをセットにしたモデルはいくらでもできます。

D4DR藤元:

伝統企業にもこれだけ変化をもたらすほど、DXにはヒントが多い。やりようによってはいくらでも新しいビジネスモデルに移行できるという好例です。
続いて教育ビジネスの話ですが、 事前の質問の中にも今までの学校教育をオンラインにしたらどうかというものがありました。教育って結局自分が学びたい情熱を形にしてあげれば何でも教育ビジネスになるので、実はすごく裾野が広い。ゆえに学習意欲の数だけサービスがあると考えていますがどう思いますか。

江端氏:

教育サービスは自己実現をするプロセスに対応したものです。プロになりたいとかそういうことではなく、なりたい自分になろうとすることで人生を豊かにしていくこと、それをお手伝いするということ、つまり教育がサービスになりうるということです。プロダクトやサービスによって、お客様が将来的にどういうことを実現したいのかということに寄り添ってあげることが重要でしょう。

DXに際して必要な人材とは

江端氏:

難しい問題ですが、唯一必要な能力やマインドセットがあるとすれば、それは好奇心だと思います。既存のものに対して、目の前の改善ばかりに捕らわれず、これからどうなっていくんだろう、何ができるんだろうと好奇心・関心を持って取り組んでいけること。専門的な知識は専門家に頼れば良くて、自分には「これしかできない」と限定しまうことがないようなマインドセットを持ちたいですね。

D4DR藤元:

目の前の改善をひたすらやってきた人は、1あるものを2にしようとするばかりで10にしようという視点を持つことが難しい。視点を変えるためにはアンラーニング的な取り組みが大事になってくるでしょうね。

江端氏:

もう一つ組織的に重要なのは、2にしようとして0.8にしてしまうようなときがきっとあると思うんですが、その時その失敗を責めないことですね。失敗を恐れてチャレンジしなくなってしまう。

D4DR藤元:

知識は必ずしも必要ではなく、好奇心があくまでも重要ということですね。セブンイレブンが全商品にバーコードを全商品に付けてデータとして管理をするというのもDXの事例といえます。これはバーコードをスキャンしてというアナログな手法に対し、全部の商品を読み込んでデータをとるんだというデジタルな発想が組み合わさって生まれました。この発想自体はスキャン機器などの仕組みに詳しくなくても出せる。つまり新しいことを考えるばかりがDXではない。そういう風に考えると、専門的な知識がなくても「もっとこういう風になたらいいな」という発想を出すための視点を持つことができるでしょう。

江端氏:

何をしたいのかを明らかにし、そのための方法やプロセスをマーケターとITの技術者が上手く折衷できれば実現できることが結構ありますよね。 少しのヒントでも大きく発展する可能性を秘めている。

D4DR藤元:

そう考えると、既存のもののなかにまだまだできることはたくさんあるし、デジタルテクノロジーコストとの折り合いで選択していくということが大切です。その際に必要なことを提案することがマーケターの役割といえます。 経営者層よりはミドルな層にDXは重要といえるかもしれませんね。現場のデータをしっかり上に持っていくといったような。

江端氏:

この転換期に現場でオペレーションをしている方々に集中して負担がかかっている側面はあるでしょうね。それによって業績が悪化する可能性も十分に考えられる。なので全部いっぺんにシステムを変えるのではなく、部分的な実験をしていくのが大事だし、その過程で失敗しても責めないことも重要。そしてブレイクスルーを生み出すには上が(データを)適切に拾い上げていくことも大事になってくるでしょう。

D4DR藤元:

他にもDXに伴う変革に際して、鈍感力は一つのスキルとして重要だと考えております。何か新しいことをしようとすると、どうしてもそのやり方に反発する意見が出てくることがある。それを気にし過ぎないということ。面白いからやる、リスクを恐れずに買っていく姿勢が重要です。

江端氏:

パートナリングも大事ですよね。自社で出来ないから諦めるというケースがありますが、非常に勿体ない。技術を持っているところと協力すれば、それがブレイクスルーにいくらでもなり得る。自分たちに必要なものは何か、どこと組めばいいかということを考えるのが重要です。

D4DR藤元:

ITベンダー側にとってもそれは重要な話。ITベンダーも求められることが増えるので、DXを成功させるためにITベンダー側がどう顧客と付き合っていくかを考えることが大事になってきます。

江端氏:

企業間で考えるDXですね。一企業では手に余る大きな規模のシステムを作っていくには、皆でやってしまった方がいいという領域はかなりあります。

D4DR藤元:

DXは本当に多くの人が関心があり自分事にしやすい事柄です。どんどん自分事化して進めていくとよいですね。

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