脱炭素社会を見据え、未来仮説を活用して戦略方向性を検討(三井共同建設コンサルタント様)
現代社会では様々な課題が山積しているが、特に喫緊として各国・各社が対応を迫られている課題の一つが「脱炭素」である。
地球温暖化により気候変動などの被害が深刻化する中、様々な脱炭素のアプローチが検討されている。エネルギー(再生可能エネルギー、原子力、液化天然ガス(LNG)、SAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)など)、電気自動車(EV)、脱炭素資源(レアメタルなど)、植物性タンパク質など、その方法論は多岐にわたる。
しかし、自社としてどのようなアプローチをするべきかを考える際には、現在の延長線上(フォアキャスト)だけでなく、長期的な視点で脱炭素のような社会的な目標と自社の経営ビジョンや事業戦略を照らし合わせながら検討し、そこからバックキャストで必要なアクションを練ることが重要である。
今回のプロジェクトでは、D4DRの未来ナレッジを活用した仮説構築や戦略方向性の策定といったコンサルティングを脱炭素というテーマで実施した。本記事はそのクライアントにインタビューを行い、プロジェクトの背景や過程、重要な考え方などを掘り下げたものである。
今回のプロジェクトを通して分かったことや、改めて確認できたポイント
● 広く社会変化を示す「未来コンセプト」を活用することで、プロジェクトメンバーの間や社内全体で未来に対する意識がバラバラでも、未来に対する共通認識を持つことができる ● 特に重要なコンセプトの影響度評価など、未来社会仮説を構築するにあたってナレッジを活用するフレームワークが鍵となる ● 各企業や業界のアセットなどを可視化してオープン化し、業界横断的な取り組みにつなげて共創を推進することが、持続的な社会をつくることにつながる |
三井共同建設コンサルタントについて
三井共同建設コンサルタント株式会社(以下、MCC)は、昭和40年に三井グループ主要20社が出資した総合建設コンサルタントで、社会資本整備の一翼を担ってきた。道路・橋梁、港湾・空港など幅広い事業展開のうち、主力は河川・砂防分野であり、特に洪水のリアルタイム氾濫予測システム等に強みを持っている。
また、三井不動産等が展開する千葉県柏市の柏の葉スマートシティにおいても、IoTセンサによる環境データの分析等、近年はスマートシティ領域においても実績がある。
今回はMCCの中でも、様々なテーマで新技術の開発などに取り組むMCC研究所に所属されている吉田恭平 氏に、プロジェクトの背景にあった課題や今後の展望についてお話を伺った。
吉田 恭平 氏 2011 年にMCC入社。MCC研究所新技術研究室所属。都市計画・まちづくり分野を専門とする。 入社間もなくして仙台に異動し、東日本大震災の復興事業に数多く携わる。 2015年からは三井不動産に出向し、柏市や横浜市の大規模複合開発プロジェクトのコンペ、その後の事業推進を担当。 2019年にMCCに戻り、徳島県美波町のスマートシティ実行計画策定やPPP/PFI可能性調査等を担当。 2021年から現職。気候変動・脱炭素等のメガトレンドをキーワードに、社内の脱炭素経営ビジョンの立案、美波町をフィールドに地域活性化のプロジェクトを手がけている。 |
課題意識とプロジェクト概要
MCCではかねてより、脱炭素に向けた長期経営ビジョンを策定したいと考えていたという。
そこで最初のステップとして位置づけたのが、2050年をスコープに、社会における脱炭素の取り組みの動向を把握することである。
そして、長期経営ビジョン策定の基礎として、そうした外部事例や未来社会仮説を参考に、脱炭素社会における建築コンサル事業の戦略方向性イメージを構築する必要もあった。その際に未来に対する専門的な知見のあるコンサルティングが必要となり、D4DRにご依頼いただくという経緯で今回のプロジェクトが開始された。
プロジェクトでは、D4DRの未来コンセプトから特に建設コンサルティング・建設業界に影響の大きい項目を抜粋して整理した未来社会仮説と、海外を含む外部企業の脱炭素に係る取り組み事例から、建設コンサルティング事業の戦略方向性イメージを複数検討。さらに現在の社内での取り組み状況を調査して洗い出し、いくつかの戦略方向性イメージを評価しながら、今後MCCが取るべき戦略方向性の絞り込みを行った。
プロジェクトに関する所感
吉田氏には今回ご依頼いただいたプロジェクトの中でも、「未来コンセプト」について評価いただいた。
吉田氏:社員によっては、何か検討を進める際にリソースとして現実的かどうかを優先して考えてしまうことが少なくありません。地に足のついた計画を立てられることも大事ですが、長期的な視点を持つことも重要です。「未来コンセプト」として広く社会変化を示していただいたことは、プロジェクトメンバーの間や社内全体で未来に対する意識がバラバラでも共通認識を持つのに有効だと感じました。
一方で、未来社会仮説の構築プロセスにおいて課題に感じた点もあったという。
吉田氏:「未来コンセプト」は膨大な未来の変化要素を、特に重要なキーワードを中心に体系化しているということもあり、いずれも大小の違いはあれ建設コンサルティング・建設業界にも関連するといえます。しかし一つずつ全部掘り下げていくわけにもいかず、どれが特に重要かといった影響度の評価など、未来社会仮説を構築するにあたってどう絞っていくかのフレームワークが難しいと感じました。
「未来コンセプト」は未来に向かって社会が変化していく全体の中で、特に影響の大きい一つひとつの要素を取り出したものであるため、マクロ的な未来ビジョンに説得力を持たせられるところも強みといえる。
しかしそれは裏を返せば、そのマクロ的な未来ビジョンをどのように描いていくかがプロジェクトの核心ということでもある。D4DRとしては、こうした未来ナレッジを最大限活用するためにも、引き続きフレームやビジュアライズなどの手法についても磨きをかけていく所存である。
また、D4DRでは「未来コンセプト」を社内の未来認識共有ツールとして活用するワークショップもサービスとして提供しているが、今回のプロジェクトはプロジェクトメンバーのみで取り組むシンプルなフローを設定していたため、そうしたプログラムを取り入れていなかった。しかし、吉田氏としてはプロジェクトメンバーだけでなく社内での認識共有も重要と考えており、今後はぜひそうしたプロセスを踏みたいというご意見もいただいた。
吉田氏:プロジェクトを終えてみて、取り組みの中で社内での合意形成のためにワークショップなどを実施できればよかったとも思っています。プロセスをみんなで作ったという実績があれば、社員も自分ごと化して考えることができるはずです。
今後目指したい方向性
本プロジェクトの最後で「MCCが取るべき戦略方向性イメージ」を検討したが、その際に参考にした資料の一つ「令和5年度以降のBIM/CIM活⽤に向けた進め⽅」(国土交通省)では、10年後に目指すべき姿として、以下のような項目が挙げられている。※全体より一部のみ抜粋
- 共通のプラットフォームに体系的に保管し、誰でもアクセスできる体制
- 3次元モデル(BIM/CIM)等によるプロセス間のリスク情報伝達を前提とした設計・積算、入札・契約制度
- 建設産業は、従来の測量会社・設計コンサル・ゼネコン等に加え、関連産業から提供されるデータや新技術を取り込んで成り立つ広がりを持った産業へ
吉田氏も特に建設コンサルティング業界について、今後は他の業界から見ても「何を手掛けているか」「何ができるか」が分かるよう可視化してオープンにし、業界横断的な取り組みにも繋げていくことが重要と考えている。
また、MCCは現在、森林による二酸化炭素吸収を推進するグリーンカーボンだけでなく、ブルーカーボン(海中の海藻などの光合成によって二酸化炭素が吸収されることを利用する脱炭素施策)の一環で、藻場の再生保全支援に取り組もうとしている。
短期的なアクションとしてそうした施策が必要な一方で、長期的には上記のように各社の持つアセットなどをオープン化して業界横断的に事業やサービス開発を行うことができれば、ビジネスが全体最適化され、脱炭素を含め、リソースを合理的に活用できる社会が実現する。
持続可能な社会を築いていくためにも、長期的な未来視点で自社として取り組むべきアクションなどを策定するだけでなく、未来に対する認識を社内で共有し、そうした取り組みの意思決定を迅速に行えるような環境をつくることも重要である。
D4DRとしてもその両方を支援しながら、企業や業界の垣根を超えた事業・サービスの共創に貢献するため、さらにナレッジやサービス、ネットワークを充実させていきたい。