働き方改革の現状とその先 〜企業と個人の関わり方について〜 / 目黒 友佳氏(フリーランス 新規事業アクセラレーター)

近年、「人生100年時代」という言葉をよく目にするようになりました。政府は1億総活躍の実現を掲げ、副業やリモートワーク、ノー残業デーなど、様々な働き方改革を実施する企業も増えてきています。AIや通信などのテクノロジーの進化により、働き方はこれからもどんどん変化していくでしょう。

日本電気株式会社(NEC)やソニー株式会社で新規事業開発に携わり、現在はフリーランスとして、企業の事業開発を行っている目黒氏と対談を行いました。今回の対談では、大企業での働き方や仕事の進め方、仕事上の女性ならではの問題について、お話を伺いました。

目黒さんの自己紹介

藤元:まずはこれまでの経歴を教えてください。

目黒:新卒でNECに入社し、PCやスマートフォンなどのエンドユーザー向けビジネスを取り扱うユニットで3年間ほど事業戦略を担当したのち、約5年間、事業イノベーション戦略本部で新規事業の立ち上げに関わってきました。
NECではローンチ前のコンセプトメイキングやアクセラレーションがメインでしたが、商品発売後まで携わりたいと思うようになったので、ソニーに移りました。
ソニーでは商品企画を中心に、その後の販促や営業活動も担当しました。次期商品の仕様を検討しながら現商品の拡販のためにライブコマースに自ら出演したり、広告バナーや店頭POPを自分で作成したり、とにかく何から何まで泥臭く従事しました。
その後、事業開発のローンチの前後に携わった経験を基にフリーランスとして企業の事業開発全体に携わっています。

まだまだ柔軟にならない働き方。異端児と呼ばれる人材

藤元:働き方を選べる時代になってきたと思いますが、フリーランスになった今、どのように感じていますか?

藤元 健太郎

1991年、電気通信大学情報数理工学科卒業後、野村総合研究所入社
1999年5月、株式会社フロントライン・ドット・ジェーピー代表取締役就任
2002年6月、D4DR株式会社代表取締役に就任
日経MJ「奔流eビジネス」連載中

目黒:大企業だと、在宅ワークなど、働く場所に関する制度はそれなりに整ってきていると思います。
しかし、兼業や副業についてはまだまだハードルがあるように感じます。制度として兼業や副業が認められていても、本業に対してしっかりとコミットできているのか、など、上司や周囲から圧力をかけられることも多々あるのではないでしょうか。

目黒 友佳

2009年日本電気株式会社に新卒で入社
パーソナルソリューション企画本部で事業戦略を担当したのち、事業イノベーション戦略本部でヘルスケアやフィンテックサービスの新規事業開発を担当
2017年1月にソニー株式会社に移り、香りデバイスの事業開発に携わる
2018年7月からフリーランスとして活動
新規事業の立ち上げアクセラレーターとして活動中。

藤元:それでは、若手は難しいですよね。

目黒:社内の状況をしっかりと把握でき、本人に十分な能力があれば、若手でも可能だと思います。しかしそういう人は周囲から「異端児」などと表現され、本業の方で働きにくくなるかもしれません。
そこで、「異端児」と言われる存在を上手く活かすためには、組織としてフォローできるかどうかが鍵になるでしょう。腫れ物を触るような扱いではなく、新しい働き方をしたいという人をサポートし、応援できる人が周りにいることが重要です。また本人も、自分が社内から「異端児」とみなされることを逆手にとり、抵抗するのではなく積極的に社内とコミュニケーションしていったほうが良いと思います。

藤元: そうですね。自分自身がどういう存在であるか認識し、周囲に働きかけることは非常に大事だと思います。自分が「異端児」であり、それが周囲にいい影響を与えられるということを周囲に理解してもらうことが第一歩になりそうですね。それと同時に外部のチャネルを増やし、自分の引き出しを充実させることが重要になりそうですね。

目黒:確かに外のチャネルを持つことは大事で、欲を言えばそれをしっかり本業にアピールできるくらいの立ち回りができればいいですね(笑) 新規事業を提案する際にも社外の活動を事例として堂々と話すことができれば、良い印象を与えると思います。また、内部の関係性も重要で、大企業だとやはり他部署の上司や役員とネットワークをつくり、社内で誰をどのように説得すれば、自分のやりたいことをやらせてもらえそうなのかを頭で描けることも重要ですね。つまるところ、社外・社内とあまりこだわらず、自分にとってのキーマンを探し、色々な人に自分の考えていることを話してみるのが大切ではないでしょうか。

「見えない未来」に対する安心感があれば、女性は働きやすくなる

藤元:女性に何かアドバイスはありますか。

目黒:女性もイノベーションの分野で、もっと活躍できると思っています。
NEC時代からの疑問だったのですが、主体的に企画提案をしていた人が、実際に新規事業が決裁される段階で外れてしまったり、サポート側に回ってしまったりすることが気になっていました。事業開発それ自体に従事することは、やはり何か大きなハードルがあって躊躇してしまうのかもしれません。

藤元:大企業で男女問わずよくある「アイディアは出すけど、自分がやる前提で話をしていない」というようなことですね。

目黒:そうですね、主体的な提案ではないことも多かったですね。特に女性がサポート側にまわってしまうのは、どうしてもリスクに対して敏感にならざるを得ないからではないかと思います。女性特有の、プライベートな問題を意識してしまうことも大きな原因のひとつと考えています。例えば「妊娠・出産」というライフイベントについてです。企業によってさまざまな産前・産後休暇の形はありますが、妊娠や出産の大変さは企業の想定以上に人によって異なります。私も妊娠7ヶ月目ですが、妊娠初期の頃は重度のつわりで2ヶ月間ほとんど寝たきりになってしまいました。妊娠のタイミングや経過を含めて、「何が起こるか分からない」ということそれ自体が大きなハードルなのです。それぞれのライフプランに合わせて柔軟に対応できることも必要と思いますが、それだけではなく、企業側は女性の持つ「不確実性・不確定要素」への対応が重要になってくるのだと思います。

藤元:確かに女性の不安を減らしていくことが社会の課題になっていると思います。個人個人のタイミングで柔軟に働き方を変えられることが必要ですね。

目黒:はい。見えない未来に対していつでも働き方を選び、変えられるという安心感が大事だと思います。女性に関して言うと、妊娠や出産によって自分のフェーズや生活スタイルが変化した場合でも、その状況を細かく周囲が把握・理解し、ITツールなども駆使してコミュニケーションを綿密にとっていくことで、より不確実性に対応しやすくなるのではないでしょうか。また、大企業は組織力という強みを活かし、業務をプロジェクト単位の仕事にして、より細かいタスクに落とし込むことで、メンバーはライフイベントに関わらず事業開発チームの一員として長く関わり続けていけるようになると思います。仕事の切り方や采配などを含め、チームリーダーがメンバーの状況を細やかに把握する力が大事になるでしょう。

新規事業を始める企業・社員へのメッセージ

藤元:最後に新規事業を始める大企業やそこで働く人に向けてメッセージをお願いします。

目黒:2社しか経験していないので、その限りの所感ではありますが、大企業の場合、自身で作った新規事業創出の制度が大掛かりになりすぎ、仕組みに囚われて、人が素早く動けないということを多く見てきました。まずは「スタートを切ること」を目標にしても良いのではないでしょうか。制度という視点でも、まずはローンチするための出口をしっかり作り込み、その後の拡大をどう進めるか、を考えるのが鍵になります。ローンチ後は外に出してしまってもいいかと思います。大企業の場合、スタートを切ることに最も難航しがちなので、極端にいえば「見切り発車」を許容し、サポートする制度があればと思います。
 社員に関しては、基本的なことかもしれませんが、男女問わず、まず自分の特性をしっかり理解し、伝えていくことが重要だと思います。「異端児」と言われているなら、それでも良いのです。自分自身を明確に定義し、社内外にポジティブにアピールしていくことができれば、かなり動きやすくなるでしょう。

藤元:そうですね。常に出口を意識して始めることは非常に大事だと思っています。また、確かに、社員は自分自身を定義し、周囲にそれを上手く伝えていくことが重要になりそうですね。個人の生活に沿った柔軟な制度をつくり、様々な人材が活躍できる社会を作り上げていきたいですね。
またスタートアップやフリーランスが大企業ともっと仕事ができると面白いですね。大企業も、制度に縛られすぎずに、様々なバックグラウンドを持つ有能な人と働ける環境を整えていくことも重要だと思います。大企業と、スタートアップや有能な人材をつなげて事業を進めていけるような組織が今後必要になってくるかもしれませんね。

画像: 新規事業を始める企業・社員へのメッセージ

働き方改革が進み、様々な制度が整いつつありますが、その制度を意味あるものにするために、制度を作る側は、利用する人のことを考えなければならないと思います。ただ制度を作るのではなく、性別関係なく個人の状況に対応できる、柔軟な制度を作っていくことが、本当の意味での働き方改革に繋がると感じました。

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