CVCから見た第4次産業革命 / 保科 剛 氏(キャナルベンチャーズ株式会社)


「キーパーソンに訊く!」第3回は、今年5月に設立されたキャナルベンチャーズ株式会社代表取締役COOの保科剛さんにお越しいただきました。長年スタートアップに関わってきた保科さんに、CVCから見た第4次産業革命について語っていただきました。

今やらずして、いつやる?


藤元:まず、このタイミングでコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)を立ち上げた理由について、伺えますでしょうか。

保科:私がスタートアップと関わり始めたのは1990年頃でした。当時、サンやオラクルのようなスタートアップと付き合い始め、最初のプロダクトをやり、渡米もしました。1995年には次のプロダクトをアメリカに売り込み、1998年には逆に持ち込み、大手メーカーに納品しました。

2000年代に入ると、国内の大学発ベンチャーに関わるようになります。審査員になったり、政府に提言をするようにもなったりしているうちに、政策に関して提言しているだけで自分でやってないと、歯がゆくなってきた(笑)。投資環境も、2020年の東京オリンピックに向けて新しいことをやってみようという機運が高まっている。今のタイミングを逃すと、次はいつだとなってしまいます。

重要なのはスピード+数

藤元:保科さんの業界では、スタートアップがやることは、今のレイヤー構造のある部分をスピーディーにやるか、低コストでやるか、新しいアプローチをしていくかなどだったと思います。

ところが、今の第4次産業革命では、そのレイヤー構造が崩れかかっています。今までのアプローチでは対処しきれないのではないでしょうか。

保科:スピードと量が全然違う。会社の中で企画書を100件出すのは難しいけれども、スタートアップにはたくさんのアイデアがある。それらをどれだけ選び、どれだけのスピードで出していくかなのです。だからスピード+数となる。

 

保科 剛:1981年、日本ユニバック(現 日本ユニシス)入社。ビジネスアグリゲーション事業部長、アドバンストテクノロジ本部長を経て、2004年、最高技術責任者。2017年、キャナルベンチャーズ株式会社代表取締役COOに就任。経済産業省産業構造審議会2020未来開拓部会委員、情報通信研究機構ICTメンタープラットフォームメンター、情報処理推進機構先進的IoTプロジェクト支援事業推進委員会委員。

VCの方によれば、ひと月に何十社も見てふるいにかけているそうなので、複数のVCと我々が組めば、100件にも200件にもなります。そういう方々と我々のやりたいことをマッチングさせていく。

藤元:コンピュータ業界のレイヤー構造では存在しないことが第4次産業革命で起きていると思うので、交わされる対話自体も外に出して変えてみるということですね。

付き合う会社を変えることは、違う産業構造になること

保科:付き合う相手を変えるというのがあります。約50年前に計算機も何もない企業が当社やIBMさんと付き合うようになって、業務の機械化や情報化が進みました。

そして、今はIoTなど総じてデジタルに強い会社と付き合いを変えていかねばと、多くの事業会社が言い始めています。つまり、違う産業構造やアーキテクチャーに移っていく。その中で「では、今いちばん新しい人は誰だ」となるのです。

藤元:そういう意味では、ITは新しいというイメージがありますが、レガシーなこともいっぱいありますよね。

日本と海外で、スタートアップ市場の違いは感じますか。

保科:日本では、事業会社が関わっていなかったのは大きい。あと、海外を見ていたらわかりますが、マイクロソフトにしてもグーグルにしても、ロビー活動をすごくやっています。私たちが媒介になってもいいですが、スタートアップがロビー活動に参加していくのは大切。広がりが出ますから。新しいことを広げるというのは、輪を広げることなのです。

オープン・イノベーションのためのM&Aを

藤元:経済産業省はまだしも、他の省庁などはスタートアップとコミュニケーションが取れていない。癒着を防ぐという意味もあるでしょうが、もったいない。

 

藤元 健太郎:1991年電気通信大学情報数理工学科卒業後、野村総合研究所入社。1999年5月、株式会社フロントライン・ドット・ジェーピー代表取締役就任。 2002年6月、D4DR(ディー・フォー・ディー・アール)株式会社代表取締役に就任。日経MJ「奔流eビジネス」連載中。

また、海外はM&Aの出口戦略が多いけど、日本はIPOが主流。「このテクノロジーを買ってほしい」というのが少なく、事業計画の選択肢が狭まってしまう。だから日本の大企業が自分たちのオープン・イノベーションのためにM&Aをやっていくべきです。現状はというと、ヤフーや楽天など、かつてのスタートアップがスタートアップをM&Aをしています。

保科:スタートアップから大きくなった企業は、オーナーが危機感を抱いている場合が多い。だからM&Aに躊躇しない。これは、サラリーマン社長では難しいと思います。私たちのようなCVCが増えていくことで可能性が広がるのではないでしょうか。

また、アメリカと違って、日本の場合はスモールサイズの企業が混じっている場合がある。スモールサイズがIPOを目指すのに対し、スタートアップは短期間で破壊的なイノベーションを起こすことを目的に資金を集めながら、出口戦略としてM&AやIPOなどを目指している。両者を峻別する政策が必要ですね。

トップ・ノッチのアントレプレナーが数をこなせる政策を

藤元:バリエーションがあるべきなのに、オーナー企業というか、一国一城の主モデルというのがベースになっている感じがします。

保科:スタートアップはギャンブルという印象が、大企業にはある。「早くIPOしなさい」とスタートアップやっている人に言うし、M&Aをしようものなら仰天する(笑)。

スタートアップの社長さんの中には「次をやりたい」とこぼす人もいる。トップ・ノッチのアントレプレナーなんて一つの国に何人もいないのだから、5個でも6個でもやってもらいたいのですが、次から次に手掛けるのは駄目という空気を感じます。

ゼロから1にするのが得意な人と、1から10、10から100にするのが得意な人がいます。ゼロから1にするアントレプレナーを、国の大切な財産として活躍してもらう政策が必要です。

藤元:問題は1から10にできる人が少ないことでしょう。どうやったら育つのかなあ。

保科:日本もシニア・アントレプレナー、シリアル・アントレプレナーが出始めたのは、改善されてきたところです。B to CだけではなくB to Bが増えていく状況では、大企業で役員くらいまで経験した人が起業することが重要です。業界の人脈は十分持っているし、課題意識も持っている。ただ、それを大企業の中でやるとスピードが出ないので外に出てやる。20年くらい前の大学発ベンチャー企業が出てきた頃から始めた人たちには大企業経験者もいて、利用者側のことをよく分かっています。

アントレプレナーがシニア・アントレプレナーになったり、シリアル・アントレプレナーになったりしていくように、投資する側もそういう会社が出てこないと、全体の成熟度が上がらない。日本のスタートアップやイノベーションが起きる状況を作るのに必要なプロセスを、今、踏んでいるのです。

前時代的にならず、2020年以降に通じるように

藤元:大企業はオープン・イノベーションと言いながら、ちょこちょこっとスタートアップのコンテストをやって終わりという会社が多い。そのような事業会社にメッセージがあれば、お願いします。

保科:アメリカからエコシステムという概念が日本に入り込み、使われ始めたのが2012年。トランスフォーメーションも同時期のキーワードでしたが、直前に流行していた「イノベーション」の言葉に乗っかる格好でした。

トランスフォーメーションとは、既存産業が既存産業でいられなくなること。業態を変えるという意味で、イノベーションよりトランスフォーメーションという言葉のほうが馴染む。まず自らをどう変えていくかが大事です。

エコシステムはそれまでの異業種間コンソーシアムへの対立概念で、それと同時にプラットフォームという概念が出た。大手が提供するプラットフォームにいろいろなものがやってきてエコシステムが出来上がる。アップルのiTunesが典型です。

それらを踏まえると、オープン・イノベーションを提唱している人たちには、「前世代のものにならないように」と言いたい。

また、オープン・イノベーションの時にCVCの議論が出てきていますが、1990年代にうまくいかなかったCVC 1.0のモデルからどれだけ脱却しているのか。2020年以降に通じるやり方でやってもらいたい。

藤元:兼業や働き方改革などが議論される中、日本ユニシスの若手が兼業で、投資されている会社で働くことだってあってもよい。

保科:Xカンパニーのモデルは海外では当たり前で、日本でも大企業の社員が外に出て戻ってというのを5回ぐらい繰り返しているのがいくらでも、とならねばなりません。また、行ったり帰ったりの中に大学が入らねばなりません。政府に働きかけているところです。

藤元:ありがとうございました。

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