なぜ3人は転職したのか:トップデジタルマーケター座談会
本日はデジタルマーケティングのキャリアについてパネルディスカッションで考えていきたいと思います。今日ここでテロがおこったら、日本のデジタルマーケティングが10年遅れてしまうのではないかと思うほどのトップデジタルマーケター3名におこしいただきました。濃い話ができるのではないかと楽しみにしています。
組織づくり:鍵となるリーダーシップと連携
藤元:まずはデジタルマーケティングの組織づくりや課題について話をうかがえますか?
本間:グローバルの会社は自分で組織のメンバーを集めてくることができますが、日本は現場の意思で組織を作れません。意思決定の速さも含めてスピード感の差を感じますね。奥谷さんもMUJIのチームは与えられたものだったのではないですか?
奥谷:そうです。だから私はチームを勝手に横へ太らせていきました。未経験の領域へ拡大したのです。そうすると、縦より横で活躍する人材もでてきます。
菅:「なんとなく」デジタルマーケティングの組織を作っている会社が多いですよね。その結果、前に進まない。上手くいっている会社は、組織を横断して動けるリーダーがいます。経営、IT、営業など複数の部門と連携しています。
本間:マーケティング部門とIT部門・情報システム部門が対立している会社は多いですよね。それをまとめるには、デジタルマーケッターの強いリーダーシップまたは権限移譲が必要ですね。
奥谷:柔軟なITトップの存在も重要です。
本間:リーマンショックまでは、日本のIT部門は会社のコストダウンが使命でした。今はさらにマーケティング部門の仕組みも考えなければいけなくなっています。でも新しい予算を確保するのは難しい。その一方で、マーケティング部門が毎月億単位のお金を宣伝につぎこんでいるのを複雑な気持ちで見ています。
奥谷:マーケティング部門とIT部門の架け橋をすることは大切ですね。
本間:菅さんは組織の中では出すぎた杭になっていましたよね、中途半端だとそこまでいかなかった。奥谷さんも突出していました。
奥谷:私は勝手に組織を作り過ぎたかもしれないですね。でもお客様のことを考えたら、やらざるをえなかった。ただ、あまり早く先へ走り過ぎると、梯子をはずされたのか、自分が遠くに来過ぎちゃったのかわからない状態になります。
本間:確かにおもてなしを追求すると、現状できることと行える理想との狭間でもどかしい思いをすることがありますね。実現するために、倍のメンバーがほしいとか。奥谷:時間がもっとあればとかね。
スタート:小さく始めるか、大きく始めるか
藤元:企業がECを導入したころは、実験的アプローチがしやすかったですよね。最初はあたりさわりのない商品で試して、その後、本当に売りたい物に移行した。しかし、デジタルマーケティングは全体最適を考えないと結果がみえにくい場合があります。デジタルマーケティングを小規模な組織で始めるのか、全社で動かしたほうが良いのか、進め方で悩んでいる会社は多いと思うので、ご意見をいただけますか。
本間:悩んでいる人は、アビームコンサルティングに仕事を発注してください(笑)
どのようにスタートするかは、デジタルマーケティングを推進する人の性質によりますね。他部門を巻き込める人は会社全体で議論をして、動かしたほうがいいでしょう。
デジタルマーケッターは無免許運転者が多い。「デジタル」も「マーケティング」も知らない人が仕事をしています。単純にマーケティング部門からデジタルマーケティング部門を作ろうとするからです。本来は、会社で広く募って、誰が担当したらよいかというところから議論したほうが望ましいのです。IT部門を巻き込むことや、お客様相談センターにも話を聞くことなども大切です。
さらに言うと、デジタルマーケッターは精神的に強い人がいいですね。会社全体で取り組む場合、「あいつらだけ新しいことやって」と妬まれても気にしない人です。
でも、日本のデジタルマーケティングが進まない根本的な理由は、始め方や担当者ではありません。会社としてマーケティング自体を変えなければいけない時期に来ているのに、それについて議論していません。嗜好が多様化したロングテールの時代となり、マスマーケティングが崩壊している状況にもかかわらず、それを認識せずに前へ進んでいます。
奥谷:ネット企業であるオイシックスも、ネットでのマーケティング議論を深めるのはこれからです。私は小さく始めていくつもりです。いきなり大きく理論をたてて証明していくのではなく、経験を積んだ後に「次はこれが実現できそうだ」とつなげていきます。
MUJIの時は会社を理解していたので、ひとつ着手して動き始めると全体へ一気に広げることができました。オイシックスはまだその段階ではないのでスモールスタートをします。
菅:デジタルマーケティングとはなんでしょうね。
本間:ぼくは、デジタルとマーケティングの間に「レ点」を打ったほうがいいと考えます。マーケティングのデジタル化だと。
菅:確かに単にネットマーケティングの話だけをしていることもありますよね。また、日本ではマーケティングといいながら「4P(Product、Price、Promotion、Place)」の「Promotion」の話しかしていないことがほとんどです。会社としてデジタルマーケティングをどう定義するかで、取り組みの範囲が変わってきます。
奥谷:オイシックスに入り、前職と比較してよりオンラインカンパニーだと思うのは「Webは売り場」としてみている点です。MUJIの場合、Webは買い物をせずに、見ているだけでも構いません。Web は両方の人の場なのです。
スキル:複数の専門性を組み合わせる
藤元:デジタルマーケティングの分野の人材をどう集めていますか、また育てていますか。
本間:今日のセミナーに参加した人が興味あるのは、「転職に興味のある人」か、この三人が転職して上手くいったのかを確認したかった人」じゃないでしょうか(笑)
デジタルマーケティング分野の人材は不足しています。産業も仕事の仕方もかわってきている今、転職したい人には多くの可能性があります。例えば、もっと先に進もうとしているコンサルティングファームは、明らかに人が足りないですよ。
奥谷:デジタルマーケティングにおいては二極化しています。デジタルマーケティングカンパニーとそうでない会社です。過渡期なのでそれをわかっている人は、転職も視野に入れ、自分のスペックをあげたほうが良いでしょう。会社に残る人は、教育によって人材をボトムアップさせることが必要です。
菅:私の会社ではシナリオ設計、データ分析、チームビルディングをビジネスでてがけていますが、それぞれ微妙にスキルが違う。今後はスキルの組み合わせが鍵になります。会社や上司がある程度、今のスキルを軸に幅を広げる設計してあげることも大事です。
奥谷:上司がそれをできない場合もあるので、自分でも意識しておくといいですよね。ある分野の専門性を持つことができたら、近い領域のものも得意にする。専門家ではないけど、AとBとCが3つできる「あの人」は重宝するよね、という感じになります。
菅:全方位60点〜70点という人は結構強いですよね。
採用:面接だけではわからない
藤元:どのようなデジタルマーケティングの担当者を採用していますか?
本間:コンサルティングファームは事業会社出身者を望んでいます。事業会社のナレッジや新規事業を創造できる人を求めています。顧客側も、事業会社に在籍した人のほうが事情を理解してもらえて、無駄のないコンサルティングを受けられると考えるからです。
藤元:一緒に働きたいバックボーンなどはありますか。
奥谷:元野球選手とか。要するに極めた人、探究心のある人です。ネットがわからないと困りますが、例えばリスティングを極めた後、他の分野も挑戦してビジネスや社会のことも理解していれば、年齢も関係ない。T字型人材ですね。
本間::そういう人は履歴書をどのように書いたらいいと思いますか。
奥谷:今、教育も携わっているのですが、面接や履歴書で判断するよりも、教える場で良いと思う人に声をかけています。ワークショップの中で、プレゼンテーション能力やコミュニケーション能力をみていきます。
菅:うちは零細企業なので、1人失敗するとリスクなんですよ(笑)
当社の場合はマーケティングが好きかどうかを重要視しています。生活者と企業の立場でニュートラルにみたときに、自分の指針をもちながら仕事ができる人を採用します。一緒に仕事をするとわかりますが、1時間の面接で判断するのは難しい。先日一人採用したのですが、半年間仕事をしてから採用を決めました。
本間:つまり適格な人の選び方がないくらい、混沌としている状況なんですね。
藤元:知識が共有され業界も活性化するので、人材は流動化したほうがいいと思うんですよね。事業会社からコンサルティングファームを行き来するというのはアメリカでは一般的です。事業会社で培った知識をコンサルティングファームでいかし、さらに知識をアップデートするために事業会社にもどる。日本ではどのようにしたら、人の流動化が進むと思いますか。
本間:4年前に海外へ行ったとき
「What was your business?」
とIBMの役員に質問され、最初何を問われているのかわからなかったんです。
すると、相手のほうから
「そうか、お前は花王にしかいなかったんだ」
と、言われ、過去のキャリアについて聞かれていると気づきました。
海外では、自分のキャリア形成を常に意識しています。日本は大企業になるほど上に行くと誰もがジェネラリストになります。私はたまたま同じキャリアを積み上げることができたけれども、日本でももっと意識してキャリア形成をしたほうがいいでしょう。会社は雇用を守るけど、あなたの人生はみていません。辞める権利を持っているので、常にそれは意識して真剣にキャリアについて考えておいたほうがいいですね。
奥谷:必ずしもジェネラリストになりたい人ばかりではありません。日本では地位が先にあり、仕事が後からついてくるケースが多いのですが、それはおかしな話です。会社と個人、雇用の関係はもっと多様化すべきでしょうね。社長になれる人は一人です。社長の可能性のある人が部門を転々として毒がぬけてしまうと、それでいいの?と思います。
だから、ぼくらみたいに会社を辞めて悩んだほうがいいんじゃないですか?(笑)
菅:本間さんも奥谷さんもぼくも40代で転職しています。遅いですよね。若い時から5年ごとにキャリアをしっかり考えていたかというと、そうでもないんです。
本間:実は、30代のインターネット全盛のときに、転職のチャンスがあったんですよ。六本木ヒルズにオフィスをもつ、錚々たる外資のインターネット関連の企業から声がかかりました。でもそのときは勇気がなかった。花王という大企業を捨てた瞬間、全てが失われると思ってしまったのです。本当はそんなことないのに。その時は、働いているのではなくて、会社に行っていただけなんでしょうね。
菅:私が辞める時に気になったのは「恩義」ですね。無責任に放り出した罪悪感を感じました。日本の企業は、一度外に出て力をつけた人材がもっと気軽に戻れるような企業体質になるといいですよね。
奥谷:MUJIを辞める際、人事の役員に報告しに行ったところ、「お前が辞めると聞いたから、ある制度を作った」と言うんです。それが「カムバック制度」でした。
そんなにすぐ帰ってきませんよ、と思いましたが(笑)
藤元:いずれお三方が社長で戻ってきてくれ、という日がくるかもしれませんよね。
社会に役立つ仕事に身を投じよう
藤元:最後、デジタルマーケティングにおいてキャリアを積みたい参加者の方に一言ずつ激励のメッセージをお願いします。
本間:意識の高い方が集まっていると思いますので、会社を辞める口実として、日本のために働く、と考えてくれませんか?企業に在籍続けることが本当に日本や世界のためになるかどうか。それで少し自分の心を解放して、選択肢を増やしてみるのもいいのではないかと思います。
奥谷:本間さんのように思っているところはありますね。日本人がキャリアを意識し過ぎると、結局会社を辞めないほうがいい、という結論になってしまいがちです。やりたいことがあり、現時点でできないなら辞めたほうがいいと思います。考えて動き続けていればキャリアになります。失敗もキャリアです。
菅:奥谷さんのように、やりたいことを見つけることが大事です。それが社会とどういうつながりをもてるのか。今の会社でできることであれば、そのまま続ければ良いし。できないのであれば飛び出す。社会に役立つことであれば必ず応援する人はでてきます。
藤元:デジタルマーケティングの知識がつくと選択肢が増えていきます。マネジメントだけでなく、スペシャリストや大学の先生、評論家にもなれます。職種が多い魅力的な分野なので、参加者の方もぜひキャリアを積んでいただければと思います。
スピーカーの皆様ありがとうございました。
(innovito編集部 小林)
Sho Sato
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