未来からの逆算で新規事業開発のプロセスを最適化する、「新規事業創発プログラム」とは何か?
良い新規事業が思いつかない、長期的な視野でアイディアを検討したい。事業を推進する人材が少ない中での体制づくりに悩んでいる…。そんな山積みの課題を抱える、大手企業の新規事業開発・推進部から注目を集める「新規事業創発プログラム」とは何なのか。業界をリードする、見込みのある事業を生み出す秘訣とは?D4DR社長の藤元に聞きました。
新規事業開発プロセスの最適化において重要な2つのポイントとは
新規事業開発を担当する部署の方から、筋の良い新規事業のアイディアが出てこない、人材の確保が難しい、といったお声を伺うことが多くあります。
新規事業開発において直面しやすい課題と、その解決策について教えてください。
常に変化する環境の中でスピード感を持って動かねばならない新規事業の担当者にとって、事業開発のプロセスをいかに最適化するのかは大きな課題だと思います。
そのプロセスの最適化にあたり、私たちが重要だと考えているのは「アイディアの精度の向上」と「事業開発人材の育成」の2つです。
「アイディアの精度」については、有望な市場の領域や参入タイミングを見極めた上で具体化されたアイディアが「精度 = 成功確度が高い」と考えています。
たとえばAppleやNetflixなど既存の業界を破壊するテクノロジーやサービスは、大衆に普及するまでに数年程度のラグがあります。
このような新たなライフスタイルを創り出す市場の存在に気づくことができれば、既存事業の転換を行ったり、競合が少ないうちに新規市場に参入できる。そのためには、未来を起点に新規事業アイディアを考えることが重要です。
D4DRの「新規事業創発プログラム」は、未来に起きうる技術や産業変化を予測し、潜在的に有望な事業を生み出す創発プロセスに軸を置いて開発しています。
未来の市場変化を捉え、精度の高いアイディアを出すことが重要だということですね。「新規事業創発プログラム」では、具体的にどのような仕掛けを用意しているのでしょうか。
個々人の直感ベースや現在のみの視点ではなく、D4DRの持つシンクタンクがリサーチした、確かな根拠に基づく最新の未来事象への予測をもとに、柔軟かつ長期的な視野の広い目線での発想や、それらのアイディアを具体化するプロセスを本プログラムに集約しています。
普段の忙しい業務の中で未来を考えることは容易ではありませんが、本プログラムは最短距離で未来にアンテナを張るためのお手伝いをしています。
アイディア段階の発想を拡張するプログラムとしては、網羅的かつ独自のインプットをもとに発想するという点で、他とは全く異なるものを提供していると考えています。
「アイディアの精度の向上」:体系化された未来事象から、革新的な事業アイディアを生み出す
アイディアの精度を高めるプロセスについて、詳しく教えてください。
「アイディアの精度」の向上には、「攻めるべき領域を押さえたアイディア(=質)」を「どれほど多く創発できるか(=量)」が重要です。
そのためには、解像度の高いインプットが鍵になります。「新規事業創発プログラム」はワークショップ形式ですが、ほかのワークショップでよくあるKJ法(参加者の考えをブレスト的に出して整理する手法)とは異なります。
本プログラムでは、未来事象のカードが参加者の発想の源泉になります。技術変化や発展する産業構造といった4つの切り口で、150を超える未来事象をひと目でわかるよう整理したカードです。
こちらは『未来コンセプトペディア』カードとも呼んでおり、サイトやホワイトペーパーでも簡易版を公開しています。
これらの体系化された未来事象のカードをインプットとすることで、単なる思いつきや想像ではなく、確かな根拠に基づいたアイディア創発が可能となります。
どうしても業務から得られる知識や参加者個人が持っている知識には偏りが生じますから、こうしたインプットが新規事業のアイディア出しには適しているということですね。
その通りです。これらのカードは参加者間の共通言語になるため、普段は異なる知識や背景を持つチームでも同じレベルでの議論ができるようになります。この点は、これまでの多くの参加者の方からも評価されている点です。
プログラムでは他にも107項目の社会課題カードや、370枚の生活者のインサイトのカードを使います。
カードを組み合わせるだけでも、生まれるアイディアは相当な数になります。さらに、そこに個人の興味関心や経験の要素を加えることで、未来志向かつ斬新なビジネスアイディアを大量に創発するプロセスを体験できる設計になっています。
「事業開発人材の育成」:ポテンシャルの高い人材を育て、発掘する
アイディアを実行するのは人ですから、人は非常に重要ですよね。新規事業開発に対するビジョンや方針・戦略が定まっていても、それを高いレベルで実行する組織や人材がいないと、新規事業開発は難航してしまいます。
しかし、市場でも希少なゼロイチ経験のある人材を社外から確保することは難易度が高いため、すでにいる社内メンバーが視座高く推進できるように育てる必要があります。
新規事業開発を担うのに適しているのは、どのようなスキルを持つ人ですか?
私たちが特に重要だと考えているスキルは、「未来構想力」「自分ごと化」の2つです。
「未来構想力」は、将来的に有望な市場の先読みや見極め力とも言い換えられます。
特に大企業の新規事業開発のケースで良くあるのは、ある程度の市場のポテンシャルがなければ事業としてGOサインが出ない一方で、そうした市場は顕在化しており、競合他社が多いために苦戦するという問題です。
こうした課題にも、潜在市場を見極める「未来構想力」が役立つでしょう。
新規事業を行う上で、2番目の「自分ごと化」が重要なのはなぜでしょうか。
「自分ごと化」は、アイディアを生むまでよりも、むしろ事業化が決定したあとに最も重要となる要素です。
見込みのあるアイディアを創発できたとしても、事業化を推進する上では到底乗り越えられないような難題に直面することも珍しくありません。
そんなときに、最も重要となるのはファウンダーやチームの熱意。いかに「自分ごと化」して取り組むか、それが成否を分けると言っても過言ではありません。そのため、プログラムでは個人の興味関心をベースとした創発を推奨しています。
アイディアの創発だけではなく、事業化後を見据えた育成や動機づけも兼ねているということですね。
はい。「社員の主体性を引き出せない」「なかなかアイディアが出てこない」といった悩みを持つ事業部の方に当プログラムを利用していただくこともよくありますが、「参加した社員が活発に意見を交わしていたことが印象的だった」といったお声をいただいています。
社外からの人材確保が難しい中での社内の人材育成・発掘や、参加者同士が方向性・目線を共有して走る機会としてご活用いただいたりと、お客さまの課題に応じたプログラムを設計しています。
有望なアイディアを創発するための方法論
「新規事業創発プログラム」でのアイディア創出プロセスについて、詳しく教えてください。
全体としては6つのフェーズに分かれます。
①「未来への動機づけ」 では、先程お伝えしたようになぜ未来視点で考えることが重要なのか、未来視点で考えるとはどのようなものかを意識付けるオリエンテーションを行います。
次の②「未来情報のインプット」では、弊社の未来シンクタンク「FPRC(Future Perspective Research Center)」の最新のリサーチを元にしたセッションがインプットとなり、既存市場の変化、これから登場する新たな市場への理解などを深めます。
次の③「アイスブレイク」から、参加者が主体となって動くパートとなります。プログラムのメインとなるカードを使用し、まずカードの把握や発散的にアイディアを出すことに慣れて貰います。
後半から、本格的にアイディア創出のパートが始まるのでしょうか。
はい。後半の④「未来アイディアストーミング」は、いよいよ未来の社会を踏まえた事業アイディアの創出という本格的なワークに移ります。まずは個人主体で考えていきます。問題/課題意識から問いや仮説を立て、自分ごと化してもらうことが狙いです。
ここでは150の未来事象のカードに加えて、社会課題や生活者のインサイトカードも活用して、ターゲットや概要の解像度を高めていきます。
私たちの生活者カードは、未来に生まれる生活者のインサイトが要素としてある点で、他にはない独自の観点をご提供しています。
カードを制作するにあたって、こだわった部分はありますか?
150枚に集約するところはこだわった一つのポイントです。膨大にある未来事象をそのままカード化してしまうと、多すぎて選択できない、というような不自由がかえって生まれてしまいます。
逆に、生活者のインサイトカードは枚数が多くなっています。顧客となりうる生活者の解像度を高めることは新規事業の成功を高めるために非常に重要ですから、細かい部分まで網羅的に洗い出しています。
このパートでは、いかに色々な観点をスムーズに吸収し、考えを捻りつつ風呂敷を広げられるかが非常に重要です。面白みがありユニークなアイディアを形にするために、これらのカードを使っていわゆる「妄想力」を発揮していただきます。
これらのカードから、具体的にはどういったアイディアが生まれるのでしょうか。
たとえば、『オンライン・STEAM教育』と『教育手段の進化と義務教育の変質』というカードをかけあわせたときに、「遠隔で自由に働きたい人や、遠隔で講義を受けたい人が増加する」という仮説が生まれます。
ここに、いま中国で始まっているような『個人信用スコアの活用』が今後世界に広がる、という事象のカードを掛け合わせて、「誰もが遠隔でも安全にサービスを受けられるマッチングサービス」といったアイディアを生み出すことができます。
⑤「未来アイディアクラスタリング」ではそうしたアイディアを、社会的意義や革新性、会社との親和性の観点で優れたアイディアを評価して絞っていきます。
アイデアの創発段階では個人の関心をベースとするので、普段の業務では出てこないような、発散的でユニークな事業アイディアを生み出せることがプログラムの特徴です。
その後、グループでディスカッションをしながらアイディアを絞る収束のフェーズを経ることで、客観的に見ても有望なアイディアにフォーカスして議論を進めます。
アイディアを発散し、収束させるというプロセスですね。最終的にはどのようなアウトプットになるのでしょうか。
最後の⑥「シナリオプランニング」で、これまで広げた発想を具体的なビジネスモデルに落とし込みます。
その際にはビジネスモデルキャンバスを簡略化したワークシートを使います。限られた時間の中で特に重要な要素に絞って質の高い議論をするために、独自のフォーマットになっています。
そして、ビジネスアイデアのターゲットや提供価値の詳細化、アライアンス先、活用する技術などをシートにまとめ、それらを全体に発表したうえで、参加者同士でのアイディアの評価まで行います。
なお全フェーズで、普段から新規事業開発に携わってはいない参加者でも、迷うことなく詳細化まで進むよう、新規事業支援やリサーチを行う社員がフォローアップを行っています。
自社の強み・アセットを活かした事業アイディアの創発
「新規事業創発プログラム」の実施後にD4DRが並走して支援をしている事例や、オープンイノベーションプログラムでの活用事例もあるようですね。
具体的には、どのような取り組みが行われているのでしょうか。
ワークショップで出たアイデアを事業化に繋げるにあたっての競合調査やシナリオ策定、PoCなどの実行部分も、一貫してサポートしています。
ご要望によってはお客様の持つアセットの棚卸しから並走し、既存アセットとのシナジーを重視したプログラムをオーダーメイドで設計することもあります。大企業の新規事業開発はスピード感ではどうしてもスタートアップに劣ってしまいますが、自社の豊富なアセットを活用できることが大きな優位性になりますから、このようなプログラムの有効性は高いと考えています。
また最近では、「クライアントとの共創の機会として活用したい」といったニーズがあり、プログラムを顧客とのオープンイノベーションにご活用いただいたこともありました。
結果として、「打ち合わせだけではなかなか見えてこない、クライアントの未来に対する考えや本音を引き出す場としてとても役に立った」というお声をいただきました。
他部署も巻き込んだ、未来志向の事業開発の土壌づくり
その他に、新規事業創発プログラムを自社の取り組みにうまく取り入れている事例はありますか?
とある企業では、コンサルティング、社内のイノベーション組織の立ち上げ・活動支援など、未来創発の取り組みを多角的に支援しています。
その企業の社内イノベーション組織では、活動の一環として新規事業アイディア創発を毎年行っています。1年目と比較して2年目の方がアイディアの質が高くなっていると役員からも評価していただきました。
また、社内イノベーション組織のメンバーの方々がエバンジェリストとなって、未来の視点を持って事業開発を行うための啓発活動を実践されるようにもなりました。このように、継続して活動することによる成果も徐々に見えてきています。
プログラムの参加者だけでなく、他の部署への影響も拡がっているということですね。
他の企業でも、当初のプログラム参加者だけでなく、他の部署の方を対象としたワークショップを追加で実施するといった、社内全体で未来に対する共通認識を持つ礎が築かれつつあるケースもあります。
新規事業開発プロセスにおいては、新規事業に取り組んでいるチームだけではなく、他のチームや部署を巻き込む土壌づくりも非常に重要です。当プログラムは新規事業を推進する部署だけでなく、他の部署を巻き込むツールとしてもご活用されています。
本プログラムに興味がある方へのメッセージ
最後に、興味がある方へのメッセージをお願いします。
「SFプロトタイピング」という言葉をご存知でしょうか。“SF思考”で考えた未来を基にSF小説などを創作して、最終的に企業のビジネスに活用するメソッドで、多くの企業で取り入れられ始めています。
そのような時代に、個人の考えや既存の枠組みに囚われず発想する環境とそのためのナレッジをトータルで提供し、まだ見ぬ未来に向けて育つ新規事業やそれを推進する人材の種を植える、それが私たちのプログラムなのです。
プログラムはまだまだ開発途中で、ビジネスモデルの詳細化のノウハウをカード化する新たなサービスも現在開発しています。好奇心を駆り立てワクワクする事業をともに作っていくため、まずはお気軽にご相談ください。(藤元)
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