【イベント報告】店舗における顧客体験価値のあり方とは(9/25第60回NRLフォーラム)
2023年9月25日、60回目となるNext Retail Labフォーラムが開催された。
Next Retail Labとは、「次世代の小売流通」をテーマにした研究会で、製造から小売りまで、さまざまな業種に関する調査研究や、マーケティング視点での提言などを行う任意団体である。
今回は「店舗における顧客体験価値のあり方とは」をテーマに3人のゲスト講師が登壇し、顧客体験価値向上を目指す海外の企業戦略や、それぞれの登壇者が自社で取り組んでいる店舗づくりの取り組みなどが紹介された。また、講演に続いてNext Retail Labのフェローも参加したディスカッションが行われ、顧客体験向上に何が必要か、さまざまな視点から議論が交わされた。
ネットで何でも買える現代に求められる、店舗の価値とは何なのかーー。業界をけん引するトップランナーたちによるフォーラムをレポートする。
オイシックス・ラ・大地株式会社 専門役員 COCO
/株式会社顧客時間 共同CEO
1997年良品計画入社。店舗勤務や取引先商社への出向(ドイツ勤務)、World MUJI企画、企画デザイン室などを経て、2005年衣料雑貨のカテゴリーマネージャーとして「足なり直角靴下」を開発して定番ヒット商品に育てる。2010年WEB事業部長に就き、「MUJI passport」をプロデュース。 2015年10月にオイシックス・ラ・大地に入社し、専門役員/COCO(チーフ・オムニ・チャネル・オフィサー)に就く。 2017年にEngagement Commerce Labを設立。 2018年に顧客時間共同CEOに就く。 2020年からLazuli株式会社顧問。
オルビス株式会社 CRM・メディア戦略部 店舗統括担当部長
オルビス入社後、情報システム部にて、物流機能や受注機能など通販基幹システムの開発運用に従事。その後、グループマネジャーとして通販の新機能追加や基幹インフラ再構築などのマネジメントを行い、海外シンガポール法人のECサイト立ち上げも経験。2018年より、営業部 店舗営業グループマネジャーとして直営店の売上拡大や人事を担当し、直営店に加えてBtoB事業の販路を拡大。2023年1月から店舗事業の統括を行う。
株式会社アイスタイルリテール 取締役 店舗カンパニー カンパニー長
2001年、P&Gジャパンに入社。営業とトレードマーケティングを約12年間経験。2014年からはアマゾンジャパン合同会社にて約8年間、ビューティー事業部の事業部長などに従事。
2022年8月からアイスタイルに入社し、初めての実店舗事業の運営に携わる。
変化する業界環境に対応しながら、20年以上携わってきた日用消費財と化粧品業界での経験を活かし実店舗とデジタル領域を融合させたアプローチを推進中。
■ホスト:菊原 政信 フィルゲート株式会社 代表取締役(NRL理事長)
■進行・モデレーター:藤元 健太郎 D4DR株式会社 代表取締役(NRL常任理事)
■ディスカッション参加フェロー:
・株式会社アイスタイル 矢野貴久子氏(ゲストフェロー)
・ジャパンEコマースコンサルタント協会 川連一豊氏
世界の店舗で自らが顧客となる「CXツアー」、体験を通じて見えてきた、海外企業の店舗戦略とは
(奥谷孝司氏:オイシックス・ラ・大地株式会社、株式会社顧問時間)
最初に講演したのは、オイシックス・ラ・大地株式会社専門役員COCO、株式会社顧客時間 取締役 共同CEOの奥谷孝司氏。チャネル変革を強みとするマーケティングデザイン会社の顧客時間では、支援企業と一緒に海外の店舗に行き顧客体験をする「CXツアー」を実施している。講演では、今年8月に行われたニューヨーク視察の内容を中心に、顧客体験向上に成功している海外企業の実例などについて報告した。
CXツアーは顧客としての体験を通し、背景にある戦略を解釈することを目的にしており、今回は百貨店のドミナント戦略(一定地域に集中して出店・投資を行い、そのエリアで優位な地位を占める戦略)や顧客体験を重視した店舗展開、サステナビリティなど社会課題を意識した経営戦略などについて、現地の店舗を視察した。
奥谷氏がドミナント戦略の成功例として紹介したのが、アメリカの大手百貨店、Nordstromだ。
Nordstromは旗艦店をマンハッタンに置き、その周辺の人口密度が高いエリアにBOPIS(ボピス:「Buy Online Pick-up In Store」の略。オンライン上で購入した商品を実店舗で受け取れる仕組み)、コスメのケースを捨てることができるリサイクルスポット、アウトレット店舗などを集中的に展開している。
Nordstromでは、「ローカルフォーカスの拡大」を掲げ、エリアでの年間購買金額を重視。地域に根差すさまざまな取り組みを行っている。ノードストローム家の第4世代にあたるピート・ノードストローム氏は「どんなにマーケティングをしたとしても、顧客からの善意や口コミ、ロイヤリティを生み出すことはできない」と考えているという。
また、デジタルの売上が総売上高の34%を占めているNordsoromでは、「デジタル対応速度の向上」も遂行している。特徴的なのはデジタル投資の位置づけだ。デジタル投資はあくまで顧客体験を上げるためのものと位置づけ、オンラインの売り上げを上げるためではないという。
例えば展開している二つのアプリでは、インストアモードの他、パーソナルスタイリングの予約や商品検索、ロイヤリティクラブとの連携など、さまざまな機能を兼ね備えており、店舗でもオンラインでも顧客がシームレスに行動できるようになっている。
もう一つ、Omni guest experience (オムニチャネルの顧客体験)を実現している企業として奥谷氏が紹介したのが、ペット関連の商品やサービスを販売するPetco。Omni guest experienceは、コロナ禍にも関わらず大きな成長を遂げたスポーツウェアブランド・Lululemonの戦略として知られる言葉で、オムニチャネルを最大限に生かした顧客体験を重視する考え方だ。
ユニオンスクエア近くにあるPetcoの旗艦店は、顧客がペットと一緒に訪れさまざまな体験ができる作りになっており、まさに「顧客体験重視」を実現した店舗となっている。
しつけ教室やブルーミングできる場所、大型犬が洗えるバスタブなどがあり、カスタマイズのフードや服を購入することもできる。もちろん生体販売は行っておらず、保護犬や保護猫と顧客の出会いの場を提供している。
Petcoでは、物販に留まらずサービスの市場にも注力しており、バイタルケアのサービスなども始めている。サービスに関してもオムニチャネル化を実現し、ペット市場の獲得に成功しているという。
奥谷氏は「アメリカの企業を見ていると、コロナ禍を経て、経営課題が変化していることを感じます。インバウンドなどコロナ以前の状況再来を夢見る企業は業績が落ち、成長を続ける企業はデジタル対応を終えて新たに顧客を起点にしたKPIを打ち出しています。そして、サステナビリティやダイバーシティなど、社会課題の解決をも念頭に置いた経営戦略をリーダー自らがけん引できる企業が、今後の小売業界の主役となっていくのではないでしょうか」と話しています。
顧客を第一に考えた接客を促す仕組みを導入、あらゆる場所で顧客体験を向上させ、LTVの最大化を
(石田龍太郎氏:オルビス株式会社)
次に登壇したのは、オルビス株式会社CRM・メディア戦略部店舗統括担当部長の石田龍太郎氏。スキンケア化粧品を中心にビューティブランドを展開するオルビスは1987年に創業、通信販売を中心に売上を伸ばしてきたものの、他ブランドの台頭などにより2005年ごろに踊り場となり、リブランディングをしている最中だという。
講演では、リブランディング後の提供価値、店舗に対する考え方、顧客体験を向上させるための店舗での取り組み内容などが紹介された。
オルビスは現在93の直営店を持ち、顧客に「またオルビスに行きたい」と思ってもらえる店舗づくりを店舗事業の方針として掲げている。満足度の高い買い物体験がブランドに対するエンゲージメントを高め、LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)の最大化につながるという考えだ。
買い物体験の満足度を上げるという方針に基づき、例えば無理な購入をすすめることを防ぐため、店舗ごとの目標はあるものの、美容部員個人に対するノルマはない。また、通販と店舗の買い回りを促すため、「通販貢献売上」という制度を策定。店舗で抱えている顧客が通販で購入した金額の一定割合を店舗の売上に加算している。
こうした仕組みを導入することで、例えば通販限定のキャンペーン等の対象となっている商品を店舗で購入しようとしている顧客がいた際に、美容部員が通販での購入を案内するという接客も実現している。美容部員が個人や店舗の売上にこだわることなく、顧客にとって最適な購入方法を自然と促せるようになり、結果として企業全体の売上や顧客のLTV向上につながっているという。
もう一つ、顧客体験の向上のため取り組んでいるのがオンラインカウンセリングの強化だ。オンラインカウンセリングは、コロナ禍でほぼすべての商業施設が休業を余儀なくされた時期に、美容部員に相談した上で商品を購入したいという顧客の声を受けてスタートした。現在はカタログに掲載されている新商品の色味やテクスチャーを知りたいという通販の顧客に多く利用されていて、オンラインカウンセリングを利用した顧客のLTVは非利用者に比べて14%高いという数字も出ているという。
さらに、新しい取り組みとして、オルビスでは事前登録の必要がない無人の店舗を今年5月にオープン。完全無人でセルフ購入する仕組みで、店舗の中にはテスターやオンラインカウンセリングのブースなどが設けられている。
無人店舗を作った背景としては、化粧品店舗が持たれがちな「入店したら何か買わされる」というイメージからの脱却や、将来的に予想される販売員不足への備えなどが挙げられる。
他にも、直営店のある都道府県に比べ、ないところでは化粧品ブランドに占めるオルビスのシェアが低くなっていることから、ブランド認知を高めるためのアイコンとしての役割や、未進出エリア・撤退エリアへのコストを抑えた再チャレンジのための選択肢の一つという意味合いも持っているという。
リブランディングをする中で、オルビスが新たな価値として重要視しているのは「ここちよさ」。サイエンスに裏付けされたスキンケアを中心とした化粧品を提供することで、「ひとりひとりが持つ美しさが多様に表現されるここちよい社会」の実現を掲げている。
石田氏は今後の店舗運営などに対し、「直営店に限らず、無人店舗やオンラインなど、どこでもCX向上が実現できる未来を作っていく必要があります。その上で、様々な販売チャネルにおいて、個々の売り上げにこだわるのではなく、顧客のLTV最大化を重要視する運営を行っていきたいと思います」と考えを述べました。
変化する化粧品業界と顧客にとっての店舗の価値、新しい時代に求められる「宝探し」のできる店舗作りとは
(北尾悠樹氏:株式会社アイスタイルリテール)
三人目の登壇者として講演したのは、全国の@cosme STOREと、フラッグシップショップである@cosme TOKYO、@cosme OSAKAを運営する株式会社アイスタイルリテール取締役店舗カンパニー長の北尾悠樹氏。
北尾氏は日用消費材、化粧品のメーカー、EC業界を経て、2022年から現在のアイスタイルリテールで初めての実店舗事業の運営に携わっている。
EC業界のときは、数多くの商品がある中で欲しい商品をいち早く見つけ、配送条件や価格など購買判断に必要な情報を的確に届けるという観点から、顧客が1秒でも早く買い物を終えることが顧客満足が高い状態だと考えていたという。一方で実店舗を担当する現在では、まるで宝探しをするように楽しくリアルな店舗を回ってもらえるよう、1秒でも長く店舗に滞在してもらうことを目指している。
北尾氏は「業界やチャネルによって顧客満足度の指標は違う」と感じており、講演では化粧品業界の特徴やコロナ禍等による業界の変化について振り返った上で、@cosmeのリアル店舗の戦略、ユーザーとブランドをつなぐさまざまな取り組みについて紹介した。
北尾氏によると、化粧品業界は他の業界と比較して、「買う前に実際に試したいという顧客が多い」「販売チャネルごとにメーカーがブランドを持っている」という特徴がもともとあり、これがEC化率が低い要因の一つだと捉えている。
こうした業界独自の特徴が、コロナ禍により、急速に変化していく。リアルな店舗にいけなくなった他、衛生面への配慮から、肌への接触やテスター使用も難しくなり、各メーカーがECにも力を入れるようになった。またSNSの発達などに伴い顧客の情報接点が多様化したことから、マーケティング戦略もデジタル化にシフト。インフルエンサーの活用やネットをフックにしたサンプル送付など、オンライン上のアクションが盛んとなった。
しかし、デジタル情報の渋滞化、ブランドの魅力や世界観の浸透不足など、オンライン戦略の課題も明らかになってきているという。
このような状況の中、これからの店舗づくりには、どのような要素が必要になるのか。前提として、@cosmeとしてはまず、「これからの店舗活用のあり方」が変化していると考えている。
顧客にとっての店舗とは、今までは「買う」目的で行く場所だったが、現在はそれに加えて「出会う」「試す」「(商品やブランドを)理解する」という目的で訪れる場所になっている。そのため、実店舗は買うことができるだけではなく、セレンディピティな出会いと試す体験を提供し、数あるブランドを理解できる場所であることが今後の存在意義になっていくという。
こうした考えをもとに、@cosmeとしては店舗づくりの際に4つの軸を意識している。
ひとつはエンターテイメントで、いろいろな技術を活用するだけではなく、顧客が楽しめるエンターテイメント性を持ったギミックを大事にしている。二つ目はエデュケーション。店舗スタッフや美容部員が店の機能を理解し顧客にファシリテートできれば、店舗の体験価値は大きく向上する。そのほかエンゲージメント、インキュベーション・イノベーションをあわせた軸に沿って、実際の店舗づくりをしている。
例えば一覧で見られるベストコスメ展示、数多くの商品を試せるテスターバーや、付けた化粧品をオフできる洗面台、店舗スタッフが@cosmeの口コミや自らの体験を織り込んだPOPづくりや顧客が参加できるイベント企画など、店舗の中には軸に沿った数々の工夫が見られる。
他にも、接客体験の可視化、CRM活用を目的とした共通台帳システムを導入。通常、化粧品業界ではブランドごとに顧客台帳が存在するが、この台帳システムでは購入や来店の履歴に留まらず何を提案し、どんなサンプルを渡したかなど幅広い情報をブランド横断で管理できる。
さらには「教えて美容部員さん」というライブショッピングを配信し、実際の売り場でのショッピング体験を通じて、店舗の楽しさをオンラインで伝え、ECでの購入や来店への動機付けにつなげているという。
今年9月には@cosme OSAKAがオープン。アプリをかざすと1日1回好きなサンプルを無償でもらえるサンプル自動販売機を設置した。予想を上回る人気となり、連日行列ができているという。また、顧客に楽しんでもらうためだけではなく、アプリと連携することでマーケティングに活用できる顧客情報も取得できる仕組みを準備している。
北尾氏は「我々は@cosmeとしてのウェブ媒体やオンラインショップもあるので、そこと複合した店舗の体験づくりをしています。圧倒的にユーザーから支持される、行きたくなる店舗を目指し、体験価値を最大化できるような店舗運営をしていきたいと考えています。」と今後の抱負を語った。
【ディスカッション】店舗における顧客体験価値のあり方とは
講演会に続き、Next Retail Labのフェローらが参加しディスカッションが行われた。一部を抜粋して紹介する。
店員ゼロ、セルフ購入の無人店舗を利用する動機とは?
藤元(以下敬称略):オルビスの石田さんに、無人店舗について伺いたいのですが、どのような人たちが無人店舗を選んでいると考えられるのでしょうか。
石田:まず何よりも、多くの店員がいる店舗に行くと何か購入させられると警戒している方に好評ですね。それから、短い時間で手早く買い物を済ませたい方にも利用されているのではないかと考えています。紹介した無人店舗は、無人になる前は有人店舗だったのですが、時間帯別の売上を有人だったときと比べると、無人店舗は閉店間際に売上があがっているんです。仕事の帰り際にさっと買い物する会社勤めの女性などが多いようです。また、男性のお客様も一定数います。女性しかいない店に入るのはハードルが高いと感じる男性にとって、無人店舗は利用しやすいのではないでしょうか。
藤元:テスターがあることで、人とは接触したくないけど実際に試してから使いたいという人にとって、行く価値がある店舗になっているんですね。無人店舗はタブレット端末があり、オンラインカウンセリングができると聞きましたが、リアルではなく画面越しだからこその新しい接客方法などはあるのでしょうか?
石田:話し方やご案内の仕方としては、実際に目の前にお客様がいるときと同じように接客しています。一点、オンラインならではの特徴としては、無人店舗のモニターに、お客様の肌をしっかりと見ることができるスペックのカメラをつけているということです。実際のリアル店舗では、気を遣ってしまいそこまで詳細に肌を見せていただくのは難しいケースもあるのですが、無人店舗のオンラインカウンセリングの場合、リアルよりはっきりとシミやシワを観察出来るため、商品のご案内などがしやすいという声があります。
あえて売り場案内をせず、「コスメ好き」が楽しめる仕掛けを
藤元:北尾さんにもお伺いします。テーマパークのように楽しい@cosmeの店舗は、いつも多くの人たちでにぎわっていますが、来店する理由、来店者の特徴などはありますか?
北尾:仮説になりますが、来店するお客様は、まず圧倒的に「コスメ好き」だと思います。普通の店舗は、看板や表示で売り場の案内をしていますが、われわれの店舗はスキンケアコーナー、メイクアップコーナーなど商品の種別で分けたり、百貨店の商品だけを一定エリアに集めたりもせず、目当てのものにすぐたどり着けるような形をあえてとっていないんです。 そうすることで、お客様はいろいろな商品に出会い、試し、先ほどお伝えしたように店舗で宝探しを楽しむことができるようになっています。目当ての商品だけに一直線にたどり着くのではなく、そうした宝探しの体験を「めんどくさい」ではなく楽しいと思って頂けるお客さまが数多くおられるため、多くの人でにぎわっています。
楽しんでいただける宝探しを提供できているかどうかを測る指標として、われわれは売上ではなく主に来店客数や買い上げ点数を追いかけており、一人あたりの買い上げ点数は専門店より多いことがわかっています。
ご紹介した大阪のサンプル自動販売機に関しても、オープン前から連日行列ができて好評なのですが、実は複数回来ている人はほぼいないんです。少なくともオープン以降の20日間で見ると、新規顧客の獲得にうまく機能していると考えています。
川連:サンプル自販機に商品をおいてもらうために、ブランド側は費用が必要になるのでしょうか。
北尾:このサンプル自販機は、我々としては1円も儲けないというスタンスでやっているんです。ただ、詰めないといけないので詰めるコストだけはブランドの方にご負担していただく形をとっています。
藤元:店舗で取得した顧客の情報は、ブランド側も見ることができるのでしょうか。
北尾:アイスタイル全体で行くと契約したブランド側に顧客のアクションなどのデータ提供いますが、実店舗のお客さまの行動をデータとしてお見せする事はまだできていません。来店者のうち何かを購入するのは約3割なのですが、7割の何も買わなかった来店者も、店内でいろいろな商品を触ったり試したりしています。ここをデータとして可視化できれば、マーケティング観点で大きな価値を持つのではと思っています。
過度なエンターテイメント、中途半端な接客…
課題の中で見えた、それぞれの顧客の期待値の可視化する難しさ
奥谷:化粧品業界というのはいい意味で情報と体験が両方求められているので、オムニチャネル化しやすいと思います。北尾さんがおっしゃったように、店舗とネット双方を活用してウィンウィンにするためには、エンターテイメントとエデュケーションがすごく大事で、それができる商品要素を持っているところは化粧品業界でなくてもすすめやすいですが、逆を言うとそれができないのにオムニチャネル化してもうまくいかないだろうなと改めて感じました。
顧客体験の向上を実現するためには、店舗スタッフの役割はすごく大事で、美容部員としてのプライドを保ちながら販売するという基本を抑えたエンターテイメントとエデュケーションが求められます。
一時アメリカの小売業では過度なエンターテイメントが登場しました。ショーフィールズという体験型店舗では、当初入口は滑り台になっており、期待感を持って入店しましたが、声をかけてくれる店員は誰もいない、という経験をしたこともあります。顧客が求めているのはほどよいリーテル・エンターテインメントであるということを忘れてはなりません。エデュケーションを備えたスタッフの接客と、デジタルを活用したパーソナライズ化がうまく機能すると、勝利の方程式になるんだなと感じました。
化粧品は真の接客と体験がありますが、そこには接客も中途半端なものはダメという理解があると思います。小売り全般が「誰に対しても接客しないとならない」という方向に行くと、課題が出てきてしまうと思います。どういう顧客かを理解せず、誰に対しても「いらっしゃいませ」と丁寧に接すればそれが接客というのは間違いです。エデュケーションを備えた店員が、ロイヤルカスタマーになり得るような自社にとって必要な顧客に対し、その顧客が求める対応をパーソナライズ化するのが真の接客ではないでしょうか。
石田:中途半端な接客をしてはならないという点では、オルビスでも課題を感じることがあります。今は本当に多くの化粧品ブランドがあり、特に有楽町や恵比寿など、感度が高いお客様が多い店舗の場合、お客様はSNSなどでそれらの情報を詳細に取り入れてから来店されるのです。
突然聞いたこともないブランドの名前が出てきて、「これとどう違うの?」と聞かれたときに、いかに美容部員がプロとして対応できるか。人間の頭の対応だけでは難しい面もあると思いますが、そうした疑問に答えられるようにならないと、接客における差別化にならないのかもしれません。
北尾:過度なエンターテイメントに人がこないと言う話は共感ですね。大阪の店舗を作る際、いわゆる「映えスポット」が欲しいと思い、都内のいろんな旗艦店はどうやっているのか、見に行ったんです。しかし、フラッグショップがおそらく映えスポットとして用意した場所に、人が集まっていたことは一度もありませんでした。
矢野:私もアメリカの滑り台のある店舗に行ったことがありますが、どうしていいのかわからず、挙動不審になってしまいました。恥ずかしくなってしまい、「この気持ちをどこに持っていけば…」と感じたことを覚えています。強要される感じは私も嫌ですね。
中国やアメリカの店舗を見ると、設計が素晴らしいところはたくさんありますが、接客は日本の接客がいちばん身近に感じます。個人をみてくれているという意味で、お客様ファーストの精神は、日本はやはり秀でているのではと思いました。
奥谷:あえて議論のために言うと、かといって日本の接客はどの業界もすばらしいかというとそうではないという見方もできます。レジでおつりを両手で受け取るとか、全員でいらっしゃいませと言って声をかけるとか、そんなことは接客じゃないと感じるサービスもあります。接客を求めていない人もいるのに、必ず話しかけて、二言三言しゃべったものの話が続かないという事例などを見ると、そもそも何のために話しかけているのかと思ってしまうんです。
無人店舗が必要とされるように、接客を受けたくない人もいると考えると、どのような接客が求められているのかはまだまだ考える余地があると思います。
北尾:個人に応じた接客という点で、我々が今取り組んでいるのは、まず顧客に一声かけて、その上で「もし何かありましたらお声かけくださいと」と言って離れるようにしています。ただ、これが正解かどうかはわかりませんし、日本でもまだまだ磨かないといけないところなのかなと思います。
藤元:奥谷さんの言っていた「期待値」がキーワードになるかと思いました。期待が満たされた場合は「ありがとう」で終わりますが、期待値を超えるサービスに出会うと、人に話したくなるような感動を覚えます。期待値を把握し、さらに超えるというのは簡単ではありませんが、テクノロジーの活用などでできるのかどうか、大事になってくるかもしれませんね。
まとめ
コロナ禍を経て社会が変革を迫られる中、海外では店舗自体の数が減っている地域もあるとされる。
厳しい環境にさらされる小売業界において、いかにワクワクするような顧客体験を生み出し、魅力ある店舗づくりをしていくのか。現状の課題や今後の期待が浮き彫りとなったフォーラムとなった。
※本記事はNext Retail Labから許諾を得て元記事と同内容にて掲載しております。
Next Retail Labとは、所属している組織の枠を越え、産学連携で次世代のリテールやサービス業、地域コミュニティやマーケティングについて考えアクションすることを目的とし、緩やかにつながるシンクタンクコミュニティです。NRLでは、月に1度のペースでフォーラムを開催しています。
主催:Next Retail Lab
問い合わせ先
電話:03-6427-9470
e-mail:info@nrl-lab.net
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