トークセッション「ITエンジニアが描くキャリアの未来〜情シスのキャリアとCTOへの道」―情シスが切り開くWOWなコンピューティングの世界―

8/1、いま最も注目のCTO二人が参加するトークセッションが開催されました。
「ITエンジニアが描くキャリアの未来〜情シスのキャリアとCTOへの道」と題して、東急ハンズ執行役員でハンズラボ代表の長谷川秀樹氏と、トレタCTO 増井雄一郎氏、アクシスコンサルティングでエンジニアの転職を支援するコンサルタント 最上裕司氏が登壇し、D4DR 代表 藤元健太郎がモデレーターをつとめ、情報システムズ(情シス)の未来、可能性について語りました。

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ハンズラボ 代表/東急ハンズ CTO 長谷川秀樹

長谷川:東急ハンズの情報システム部を担当する執行役員です。また、外販向けのシステムインテグレーターであるハンズラボの代表取締役も務めています。

コンサルティング会社から東急ハンズへ転職した時、会計や人事、店舗関係も含めて、全ての社内システムを置き換えました。入社した2009年当時は、メールアプリケーションがふたつ使われていたり、システムそのものが古くなっているものもありました。

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そこで、メールはGoogle-Appsに統合し、本部バックオフィス系はOBIC7、Superstreamなどのパッケージを導入、店舗で使うシステムや連携する基幹業務は自社で開発していきました。

コンサルティングの会社に在籍中、開発グループのトップに聞いたことがあるんですよ。クライアントに何億ものシステムを提案するなら、自分たちがゼロから開発したらいいのではないか?、と。プログラミングを知りませんでしたけどね。すると、そのトップは「ゼロから開発したらバグばかりだから、今の時代にはパッケージに手を入れないと無理」と言うのです。

当時はそんなものかな、とも思ったのですが「四則演算しかしてないのに、できないわけないんちゃう」と素人ながらに思っていました。だから、東急ハンズではゼロから開発してみたんです。

どうなったか。

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私が入社してから東急ハンズのITコストは年々10%ずつ減少。内製化によりエンジニアの人件費は増えていますが、外注費用が減っているのでITコスト全体が減りました。最初の社内エンジニア2名は店舗のスタッフをひっぱり、すべて自社開発していきました。一般的に基幹業務システムは、社内で設計し、社外で開発するので、東急ハンズのように自社開発するのは珍しいのです。

システム刷新を目指し、COBOLからAWSへと開発のベースとなる技術やサービスも変更しました。端末も変更、POSをiPadへ、店舗スタッフが使うハンディターミナルをiPod touchに置き換えました。これもあまり例がありません。メーカーからは「iPadやiPod touchを使っていると壊れますよ」と言われましたが、スマホの性能が向上し、壊れて買い換えたとしても安いのです。

トレタ CTO 増井雄一郎

増井:トレタは代表の中村仁と二人で立ち上げました。トレタは設立して丸3年の会社です。社員数は57名。今はCTOとして社内の情報システムと製品開発を進めています。プライベートでは、PukiWikiをはじめ趣味で様々なアプリを開発し、公開しています。風呂グラマーと検索してもヒットします(笑)。

高校生の時、バイト先の企業の日報など集計系のシステムを作りました。すると、他の会社のシステムを作らないかと声をかけられ、高校3年生の頃にはヒアリングのために飛行機で出張に行き、顧客管理や会計管理の仕組みをつくっていました。

事業は、iPadを使った飲食店の予約管理のアプリを提供しています。例えば電話で予約の問い合わせがきた時、お店の人がアプリで確認し、空いている時間帯に予約を受けるという対応ができます。トレタのエンジニアの仕事はこのようなプロダクトをつくることが主な仕事です。

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ベンダーとの付き合い方

最上: NTTデータに入り営業を担当していました。会社の中から人事異動をみていると、決して適材適所とは思えませんでした。そこでアクシスコンサルティングに入り、IT業界のコンサルを中心に、転職をしたい人の支援や、企業のニーズにあわせてヘッドハンティングなどをしています。

藤元:普通であればIT予算は増えていきますよ。ベンダーも目標予算を達成するために積み上げて提案します。東急ハンズのように「減る」という状況は、経営者の理想だと思いますが、ベンダーさんとの上手な付き合い方のコツってありますか?

長谷川:ぼくの場合はプロと付き合いたいし、適正なお金を払いたい、という姿勢で仕事をしています。

増井:ツールが充実してきているので、ベンダーに頼らなくても良い部分が多いと思います。

長谷川:大手の会社さんには発注しないですね。優秀そうな営業の方が来ますが、その後エンジニアにたどりつくまでの間接コストが高そうです。がんばっている中小企業のほうを応援したい。

我々発注側が責任を持つので、あなたたち(ベンダー)はここまでやってくれ、という関係ができるといいですね。プロジェクトが伸びたら開発側を責めるのではなく、「確かにこっち側も仕様を大きく変更したよね」と融通できる関係性を築けることが大切です。気持ち良く仕事ができるように気をつけています。

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業務を知り、システム開発もできる人材

藤元:これからのエンジニアは、業務を知り、システム開発もできることが必要ですか?

長谷川:私はSIベンダーに業務改革の提案は求めません。社内の情シスでさえ難しい。なぜなら会計や店舗など特定の部門や仕組みだけをみているわけではないからです。それなのに、東急ハンズに来たこともないベンダーが業務改革を提案するというのはありえない。

企業側がしっかりと実現したいことを整理し、作りたいシステムをベンダーへ伝える必要があります。

藤元:そうすると業務も経験して、情シスも経験している人は可能性があるということですね。

長谷川:もちろんあります。

増井:あんまりいないんですよね。情シスにずっといた人か、SIerにいて情シスに入る人がほとんどです。特に言われたものだけを作っているエンジニアはいらないと思います。

藤元:長谷川さんは以前、定年間近の店頭スタッフが、ハンズラボに入ってプログラミングを覚えた、という話をされていました。すごいですよね。

長谷川:55歳の役職定年になる人が情シスにきてがんばったんです。エンジニア35歳限界説といわれますが、そんなことはない。「やる気」が大事です。

増井:その方は現場で経験を積み、解決したい問題を多く把握していたのかもしれませんね。長く勤めていても「こういうふうに改善したい」と普段から思っていないと、難しいでしょうね。

長谷川:おっしゃるとおりです。現場を変えたいという思いがないと、コーディングのモチベーションは上がりません。「こんな問題が店舗にある」と理解した上で開発しています。

会場:システムを全て移行する際、ベンダーとの関係性が悪くなったりしませんでしたか?

長谷川:ないですね。多分、諦めているのでは(笑)。

システムを使っていた日本ユニシスや東芝テックには内製することを伝えましたが、最初は誰も信じていなかったですね。POSの店舗展開を始めたら「まじですか! 見に行かせてください」というのです。見に来ると「おお、動いてますね!」。「そらそうや、足し算しているだけやんけ、レジなんか」というやりとりをしていました。

勘定系は古いものを捨てて、新しい仕組みを作るように指示しました。エンジニアには「経営企画部に確認して問題なければそれで進めていい。その際古いシステムと新しいシステムでデータが違っても気にするな」と言いました。ちゃんとした計算式が行われ、財務経理が確認して問題なければそれでいいのです。

情報システム部長の根性だと思うんです。既存のものを移行し、トラブルが起きて自分が怒られるのがいやだという人がまだ多いんじゃないですかね。もちろん、僕もいやですよ、怒られるの。ただ、そこで立ち止まるか、突き進むかの違いではないでしょうか。

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キャリアを積んでいくか、詰んでしまうか

藤元:日本には言われたことだけをするプログラマや、ドキュメントしか書けない情シスの人もいます、彼らはどのようなキャリアを積んでいけばいいでしょう。

増井:もう詰んでるんじゃないですかね。

藤元:そっちの「つんでる」ですか!
増井:彼らは「何のために働くか」が明確ではないため、キャリアの描きようもないのです。

藤元:もうSEはだめですか。

長谷川:エンタープライズ系、大企業の基幹業務システムは存在しているので、チームを仕切る人間は必要です。だからまだSEは食べていけるでしょう。ただ、そこまでの人数が必要かと言われると疑問です。

我々エンタープライズ系からみるとWeb系の人間はすごいと思います。自分で仕様を決め、コーディングし、サービスをリリースして、経営まですることがあります。見習う部分も多いと思います。

増井:Web系の人は自分たちで使っているものを作ることが多いですね。「Dogfooding」とも言います。ハンズラボさんはそれに近い。肌感覚で問題を把握しています。

SIer側にいると、最終的なユーザも業務もわからないので、役割が細分化するしかなかったのだと思います。細分化するほど、手前の担当者だけをみて仕事をする人が多くなります。最終的に本来何をしたいのかがわかりにくくなるんですよね。

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長谷川:おっしゃるとおり。SIerの人はあまりにも優秀で、顧客の言うことを聞き過ぎた。特にプログラマは「仕様が正しい」という前提に仕事をしています。顧客の一担当者が「こっちのほうがいいのでは?(どっちでもいいけどね)」ということが、最後には「客は絶対そう言った」となります。

これからのSIerやエンジニアは、良くないものには「これではだめです」とはっきり意見を言ったほうがいい。

藤元:SEの未来はこのままでは厳しい、という話がでていますが、最上さんからみてどうでしょうか。

最上:長谷川さんのように腹をくくった情シス部長さんが増えたら厳しいですね。今はいないので、仕様どおりにきちっと開発して、エラーがあったら終わるまで寝ないというSEの世界はまだ残るでしょう。

問題意識を持つことは重要だと思います。どういう風に自分のキャリアを積み重ねていきたいのか。ベンダー側にいたとしても。これは何のためにやっているのかと立ちかえれる人は、スキルをしっかりと身につけていくと思います。

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止めないシステムから、売り上げにつながるシステムへ

藤元:情報システム部門は、勘定系など止まってはいけないクリティカルな基幹業務システムを扱うので神様のように崇められる風潮があります。

長谷川:悪習ですね。小売の場合は特にトランザクション系が重視されます。商品の仕入れや在庫計算をする。でもこれは単に四則演算ですよ。その一方で、売上を上げるプロモーション管理の仕組みも動いています。基幹業務系が100かかるとしたら、販売促進系は5〜10程度の予算になることが多い。でも、売り上げを作るほうが難しいのではないでしょうか?

増井:トレタにおいては、基幹業務系に大きな投資をすることは当面ないですね。商品がソフトウエアなので仕入れがない。そうすると複雑なERPはいらないんですよね。外部のSaaS系パッケージで当面十分そうです。

藤元:基幹業務系システムの開発がそれほど大事ではない日が来るかもしれない。

長谷川:そう思います。

ちなみに会計クラウド「freee」は、そろそろ本格的に使えるのではないかと思います。ハンズラボで試して利用できそうであれば、東急ハンズに展開します。東急ハンズの人は、新たなシステムに自分の業務を合わせるということに抵抗がないんですよ。

増井:システムに合わせて業務や人的フローを変えられのは良い組織ですよね。

長谷川:会計なんて業務フローを変えるというほどのものでもなく、帳票の縦横を変える程度です。「担当者の趣味の仕様変更で、いくらかかってんねん」ということです。

・・・こんな悪口大会で良かったんでしたっけ?

藤元:はい(笑)。

情シスの仕事を、つまらないと思っている人も多いのではないでしょうか。

最上:アクシスコンサルティングへベンダーの人が「事業会社の情シス部門へ転職したい」と言ってくるケースは、顧客の無茶な仕様変更に耐え切れず、情シスであれば楽ができそうだから、という動機が7~8割ですね。もちろん最初からそのように言いませんが、深掘りして聞いていくと本心がわかります。

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新しい価値を創造するエンジニアの未来

藤元:今日はせっかくなので、会場にきたエンジニアの方を中心に、ITに関わる人たちが「会社の売り上げを作る」「新しい価値を創造する」という未来を想像できればと思います。

増井:(長谷川さんの話を聞いて)強い上司がいればそれができる、という気がしてきました(笑)。

最上:今、上のポジションの人を外から採用する会社は少ないですね。CIOが必要だといわれて、いきなり外から飛び込むのはきついと思います。特にCIOのような役職は、その会社の哲学を深く理解しており、信頼できる人でないと紹介しにくい。自分の人脈でとりにいくのが近道だと思います。

藤元:長谷川さんみたいには、どうしたらなれるんでしょうね。

長谷川:キャリアの作り方はいろいろあると思いますよ。情シスとSIerの人材の流動性が高まるといいですね。お互いを知ることで費用も適正になります。

最上:流動性について言うと、ベンダーと事業会社の受け取り方は異なります。ベンダー側は転職をしていると「経験豊富でいい」という印象を持ちます。けれども、エンジニアを採用しようとする事業会社は、定着性をすごく気にしますね。

増井:経営陣が情シスに何を求めるかも重要ですよね。いまだに情シスは社内システムのお守りという意識が強いのではないでしょうか。

最上:コストセンターとしてみてしまうとそうですよね。でも、情シスはプロフィットを生み出すためのサポート集団だと考えられると、もっと攻められると思います。

藤元:増井さんが経営者として情シスの人を雇うとしたら、どんな人ですか?

増井:上司をみて仕事をするのではなく、お客様のために何ができるのか考えられる人と仕事をしたいですね。

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誰でも、何歳からでもエンジニアになれる

会場:ハンズラボの最初2名のエンジニアは、どのように教育したのですか?

長谷川:未経験の2名は、常駐している外部エンジニア2名にOJTで教えてもらいました。また、ハンズラボでは開発にユニケージの謎テクノロジーという技術を使い、簡単なコマンド類を使うだけで開発できるようにしています。

そして、やろうと思えばできるんですよ。精神論ではなく。

企業には様々な部署があります。会計や人事労務も難しい。だから担当者は勉強します。なぜかシステムだけは文系の人を中心に苦手意識を持ってしまうのです。

実際ぼくもユニケージの試験を受けてライセンスをとりました。楽勝だったので、みんなに薦めています。こうみえてぼくも開発できるんですよ(笑)。

WOWのあるエンジニアというオシゴト

藤元:最後に、参加者の方へメッセージをお願いできますか。

最上:エンジニアにとっては良い時代です。キャリアプランが多様化し、チャンスも増えています。ただし、一歩間違えると、「これがだめなら、あっちへ行こう」とキャリア迷子になる可能性もあります。幸い求人数は多いので、しっかり選んでいくといいでしょう。

たまにはエージェントに相談することもお薦めします。転職ありきのエージェントではなく、中長期的にキャリアを一緒に考えていける人を探してお付き合いされるといいでしょう。

増井:ぼくは情シスの経験を経てアプリ開発をしてきました。アプリ開発は注目を浴びていますが、情シスは学生の目にふれないのでキャリアの選択肢になりにくい。社内の問題を解決し、顔の見える人たちが喜ぶ面白い仕事だと思います。業績を上げることも、商品開発をすることも可能です。多くの人が情報システム部門に目を向けて、技術を使う道をみつけてくれるといいなと思います。

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長谷川:今まさにエンジニアの仕事が面白くなる変わり目だと思っています。

これまで情シスがやっていたことは、紙からコンピュータに移しただけで、あまりありがたがられませんでした。

「WOW」がなかった。

次第に人間ができなかったことをコンピュータができるようになりつつあります。エンジニアとしては面白い時代なので、その波に乗ったほうがいい。古いプログラミング言語を書き続けるのではなく、「ワクワクするコンピューティングを体験したかったんじゃないのか」と自分に問いかけて、明日から仕事をするといいのではないでしょうか。

藤元:楽しい仕事なんですよね。ITの仕事は3Kのイメージが強くなりましたが、そもそもコンピューティングは希望のあふれる仕事です。情報システム部にもそういう世界があるはずです。キャリアの選択が自由にできる時代なので、参加されたエンジニアの方もそこへ飛び込んでいくか、変えてみるとよいと思います。

(イノビート編集部 小林)

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