株主至上主義からの脱却とは?
企業活動において、短期的な利益最大化や株主還元だけでなく、従業員、顧客、地域社会、環境など、多様なステークホルダーへの価値提供がより重視されるようになっていく。ESG(環境・社会・ガバナンス)投資の拡大に見られるように、財務以外の価値や指標への注目が世界的潮流となる。この変化により、企業の長期的成長戦略や社会との関係性を再定義し、より持続可能で包括的な経済システムの構築が進む。
2019年、米国の経営者団体ビジネス・ラウンド・テーブルは、従来の「株主市場主義」の方針を見直し、株主だけでなくすべてのステークホルダーを重視する方針に転換すると発表した。このような転換の背景には、労働者の約3分の1を占めるミレニアル世代が、企業に利益の最大化だけでなく、持続可能性や社会的意義の実現を求める人が多いことなどが考えられる。
予想される未来社会の変化
- 企業価値の評価基準が多様化し、社会的インパクトや環境負荷が重要な指標となる
- 従業員や地域社会など、多様なステークホルダーの利益を重視した経営判断が標準となる
- 短期的な利益追求から長期的な持続可能性を重視する経営スタイルへの転換が進む
トレンド
従業員エンゲージメントと投資指標の関係性についての調査レポート
リンクコーポレイトコミュニケーションズのグループ研究機関、モチベーションエンジニアリング研究所は、2022年に「従業員エンゲージメントと投資指標の関係性」に関する調査を実施。
近年、企業は短期的な収益向上だけでなく、長期的な企業価値の向上に注力する必要性が高まっている。特に2020年に経済産業省から発表された人材版伊藤レポートでは、企業価値向上における経営戦略と人材戦略の連携の重要性が強調され、「人的資本経営」という考え方が広まった。
さらに、2023年4月には東京証券取引所がPBRが低迷している企業に対して改インパクト投資善策の開示を要請し、人的資本への投資が企業価値向上の一環として注目を浴びている。しかし、人的資本への投資と企業価値向上に関する具体的な事例や研究はまだ少なく、定量的な分析が求められている。
このような背景から、従業員のエンゲージメントスコア(ES)と投資指標であるROE、ROIC、PBRとの関係性を明らかにすることを目的にした調査が行われた。
調査結果では、ESとROE、ROIC、PBRとの間に正の相関が見られ、ESが高い企業ほどこれらの指標も高いことが示唆されました。具体的には、従業員エンゲージメントサーベイから算出されたESを基にしたエンゲージメント・レーティング(ER)において、Dランク企業とAランク企業のROEには約15.6ポイント、ROICには約13.4ポイントの差が確認された。また、ERがDの企業はPBRが1未満であるのに対し、ERがAの企業では80%がPBRが1を超える結果となり、ERの違いが企業の財務指標にも影響を与えていることが明らかになった。これらのデータは、従業員エンゲージメントが企業の成長を促進する重要な要素になる可能性を示している。
インパクト投資
財務的な収益を追求しつつ、社会的および環境的なインパクトの創出を目的とする投資手法であるインパクト投資の市場規模が年々拡大しており、日本においてもその注目度は高まっている。
ここでいうインパクトとは、事業活動によって生じた社会的・環境的な変化や効果を指し、その影響が短期であるか長期であるかは問われない。従来の「リスク」と「リターン」という判断軸に、インパクトという第3の軸を加えた上で行われる投資である。
インパクト投資の特性を四つの要素には、意図があること(Intentionality)、財務的リターンを目指すこと(Financial Returns)、広域なアセットクラスを含むこと(Range of asset classes)、社会的インパクト評価をおこなうこと(Impact Measurement)が挙げられる。
また、ESG投資が、企業のサステイナビリティーに関する取り組みに焦点を当てた、長期的な視野から投資対象を選定する投資手法であるのに対し、インパクト投資は財務的リターンを追求しつつも、社会的・環境的な課題解決を目的とする投資行動を指す。企業が提供する製品やサービスによって社会的・環境的課題を直接的に解決できるのかを測定・評価するのが特徴である。
インパクト投資が注目されている背景には社会的・環境的課題の多様化とそれに伴う資金需要の拡大・フレームワークの整備などがあると考えられる。
インパクト加重会計
アビームコンサルティングは、アサヒグループホールディングスのESG価値の可視化を「インパクト加重会計」を用いて支援。この手法により、アサヒGHDのマテリアリティの一つである「コミュニティ」に関連する活動が社会に与える影響を金銭価値に換算し、社会的インパクトを算出した。
具体的には、企業の社会や環境への影響をプラス・マイナス両面から金額に換算し、売上収益やEBITDAとの比率を算出することで、自社の変化だけでなく他社との比較も可能にした。
また、透明性のあるロジックにより、投資家に客観的なデータを基にした開示を行い、非財務情報による企業価値の理解を促進。
特に、ビール製造工程で生じる副産物であるビール酵母を利用した「ビール酵母細胞壁由来の農業資材」が農産物生産者のWell-beingに与える影響を分析。この分析は「製品インパクト会計」を用いて行い、野菜・畑作と果樹の2つの農作物グループに分けてサンプルデータを抽出した。その結果、野菜・畑作では収穫量が1.21倍増加し、社会インパクト金額が64.9億円であるのに対して、果樹のケースでは収穫量が1.20倍増加し、社会インパクト金額は16.2億円となり、ビール酵母資材の活用が社会にプラスのインパクトをもたらしていることが示された。
また、インパクト加重会計を用いた可視化支援に加え、アビームコンサルティングのDigital ESGサービスを用いて、アサヒGHDの非財務活動が企業価値の向上にどのように繋っているのか、その価値連鎖の道筋となるストーリー(関連性)全体像の可視化と、企業価値(PBR)向上への相関関係分析も実施した。
・企業の環境(Environment)や社会課題への取り組み(Social)や、企業統治(Governance)も考慮して投資する「ESG投資」も世界で広がりを見せている
・非財務情報であるESGが可視化されることにより、ESGへの取り組みが評価されるようになるだろう
・米企業の調査によれば、ESG評価の高い株式銘柄は、TOPIXよりもリターンが大きいという結果が出ている
・企業にとって、株主との関係性だけでなく、取引先・地域社会などステークホルダー全てとの関わりが、重要視されるようになってきている
・新型コロナウイルスのパンデミックを機に、経済の復興を環境重視で進める「グリーン・リカバリー」の動きが出てきていること、雇用や医療サービスといった「S(社会)」に関する問題が表面化していることなどを背景に、ESG投資が注目を集めている
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