宇宙ビジネスの市場拡大とは?
技術革新と民間企業の参入により宇宙ビジネスの市場は拡大を続けている
人工衛星からの画像データを活用した資源量の解析や農作物の育成状況の把握など、地上産業との連携が進んでいる。小型衛星の高性能化・高機能化により、ベンチャー企業や異業種からの参入もさらに増加すると見込まれる。
宇宙旅行、衛星通信、宇宙資源開発など、新たなビジネス領域も拡大中である。
予想される未来社会の変化
- 民間参入による大幅なコストダウンにより宇宙開発プラットフォームサービスが形成される
- プラットフォーム上に実装可能な多様な機能やサービスが実装され、商用サービスも多数登場する
- 宇宙開発のローコスト化を背景に、希少資源などの開発競争も激化する
- 関連技術と周辺産業が一挙に活性化する(通信、無人操縦、ロボット、高性能電池、センシング、酸素生成、水生成、等)
トレンド
宇宙環境利用・回収プラットフォーム「ELS-R」
ElevationSpaceは、宇宙環境利用・回収プラットフォーム「ELS-R」の初号機「あおば」の回収カプセルにおいて、分離衝撃試験に成功した。この回収カプセルは、顧客から預かったペイロードを収納し、宇宙から地球に帰還する役割を果たすものであり、初号機では宇宙で培養したユーグレナの微細藻類ミドリムシを持ち帰る予定。
政府が2023年に発表した宇宙基本計画では、地球低軌道が「宇宙環境利用のための貴重な場」として位置づけられ、アルテミス計画など月以遠への活動に必要な技術の獲得・実証の場として活用されることが明言されている。
一方で、国際宇宙ステーション(ISS)は2030年に運用終了が決定しており、宇宙環境利用の場を継続的に確保することが課題となっている。
ElevationSpaceは、宇宙環境利用と回収プラットフォーム「ELS-R」の開発に取り組んでいる。「ELS-R」は無重力環境を活かした実証・実験を無人の小型衛星で行い、その成果を地球に帰還させる国内初のサービス。このプラットフォームは、宇宙で実証した材料やコンポーネントを地上で詳細に解析できる高品質な宇宙実証環境を提供し、民間事業者の宇宙産業参入を促進し、日本の宇宙産業力強化に寄与することを目指している。
この「ELS-R」事業の実現には、大気圏再突入・回収技術が必要であり、これを獲得している民間企業は世界的にほとんど存在しない中、国内ではElevationSpaceのみがこの技術に挑戦している。
MUGENLABO UNIVERSE
KDDIは、地球上の課題解決を目指す共創プログラム「MUGENLABO UNIVERSE」に取り組んでいる。このプログラムは、宇宙事業に関心を持つスタートアップや大企業、有識者が集まり、宇宙技術を利用して地上の問題に取り組むことが目的。
具体的には、宇宙空間を再現したデジタル空間や低軌道での実証環境を提供し、スタートアップと大企業にメンタリングやネットワーキングの機会を設けることで、宇宙事業への参加を促進している。
また、新技術や事業アイデアを持つスタートアップと、宇宙を活用した事業の開発を望む大企業とのマッチングを行い、宇宙開発だけでなく、地上での社会課題解決につながる事業化を進めることを目指す。
このプログラムでは、2025年度にデジタル空間での実証を、2027年度には低軌道衛星での実証を行い、2030年度には宇宙を活用した新たな事業の創出を見据えている。
KDDI ∞ Laboパートナー連合に参加する大企業には、関西電力やサントリーホールディングス、三井物産などが含まれている。
小型ライフサイエンス実験装置の開発や宇宙産業の活性化・新事業創出をサポートするDigitalBlastは本プログラムに人工重力を発生させる小型ライフサイエンス実験装置「AMAZ(アマツ)」を提供し、実証の一環として「重力再現環境」を提供している。
大分空港の宇宙港化
大分県国東(くにさき)市にある大分空港では、ロケットを搭載した飛行機の離着陸場(スペースポート)である宇宙港にむけて計画している。
大分空港の場合、種子島宇宙センター(鹿児島県)のようにロケットを垂直方向に打ち上げる「垂直型」ではなく、「水平型」と呼ばれるタイプを想定。ニューメキシコ州での事例のように、小型人工衛星が搭載されたロケットを母船に積んで、空中で水平方向にロケットを発射する。実現すれば、大分空港は「アジア初の水平型宇宙港」になる。
しかし、この計画の後ろ盾になっていたヴァージン・オービットが倒産し、一時は計画が頓挫してしまったかに思えた。ただし、その後、米国Sierra Space社、日本航空、兼松、三菱UFJ銀行、東京海上日動火災保険が新たにパートナーシップを組み、宇宙往還機Dream Chaser®のアジア拠点としての活用計画として再始動している。
波及効果として、非宇宙分野では、「観光・宿泊」、「教育」、「建設・物流」、宇宙分野では「スペースポートとしての離発着」、「衛星などの製造」、「衛星データなどの情報通信」の進展が期待されており、宇宙港化による2040年頃の経済波及効果は県内で350億円、全国に対しては3500億円が予想される。
・世界の宇宙ビジネスの市場規模は、2007年には約19兆円、2016年には約36兆円で、10年間で約2倍に拡大した。その間、日本の市場規模は約10兆円でほぼ横ばいであった。日本の宇宙ビジネスの市場規模は2016年に約8.9兆円であったが、2050年には約59.3兆円まで拡大すると予測されている
・宇宙ビジネスは、「製造・インフラ」「宇宙利用」「宇宙探査」の3分野に分けられるとされるが、技術革新により分野の細分化も見込まれる
・宇宙産業は、従来は民間企業が公的事業として、公的機関(主に国)から受託する産業モデルが一般的であった。
近年はベンチャー企業や異業種の参入が進んでおり、民間企業によるサービスや事業分野が拡大しており、市場はますます拡大していくことが予測される
・製造・インフラ分野では、ロケット・衛星の製造・打ち上げ関連事業者、人工衛星データや衛星通信を提供する事業者、それらのデータを活用した位置情報サービス、画像サービス、通信サービス等を提供する事業者が含まれる
・宇宙探査分野は、無人宇宙探査と有人宇宙探査に分けられる。前者には探査機・ロケットの製造・打ち上げ関連と、惑星探査等が挙げられる
後者には有人ロケット打ち上げの他、宇宙旅行や宇宙ホテルなど宇宙空間に人が滞在するサービス等が考えられる
・技術革新による小型衛星の高性能化・低コスト化、ロケット打上げのコスト低減が進んでおり、宇宙旅行等のコモディティ化が期待されている
・世界の15宇宙機関からなる国際宇宙探査協働グループ(ISECG)は、「国際宇宙探査 ロードマップ」を発表している
・「宇宙利用」分野には、人工衛星あるいは宇宙空間を利用した様々なサービスが含まれる。関連分野は物流、森林・農作物管理、IoT・通信、建築・不動産など多岐にわたる
・近年は衛星から得られるデータの質・量が向上し、宇宙データの分析・活用が進展。宇宙データと地上データの結合や、AI等を利用した解析などによる新しい価値・サービスの創出が期待される
・総務省が2019年に発表した「宙を拓くタスクフォース報告書(案)」では、2030年代以降に宇宙利用において目指すべき将来像として、ネットワーク基盤の宇宙への拡大、衛星データの活用(災害データなど)、人類の活動領域の拡大、宇宙レジャーの4点を挙げている。
なお、ネットワーク基盤の拡大と衛星データの活用には、すでに多くのプレイヤーが参入している
・近年、NTTグループが宇宙ビジネスに本格参入の動きを見せている。2021年5月にはスカパーJSATと業務提携契約を締結し、宇宙空間にICT基盤の「宇宙統合コンピューティング・ネットワーク」を構築すると発表。
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