テイクアウトは定着するか -コロナ禍で飲食店が迎えた転換点-(第十三回)
【特集】アフターコロナ時代のビジネス戦略 とは
D4DRでは、今回の新型コロナウイルス(COVID-19)の流行を経て社会がどのように変化するか、そして各業界がどのような戦略にシフトしていくべきなのかを考察した「アフターコロナ時代のビジネス戦略」を毎週連載しています。
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アフターコロナ時代のビジネス戦略 -SNS分析[飲食・テイクアウト編]-
緊急事態宣言が全国的に発出された4月以降、「テイクアウト」という言葉をいつになく頻繁に耳にするようになったという実感を持つ方も少なくないだろう。本連載第七回の記事の冒頭で触れたように、Google Trendを参照しても、緊急事態宣言の前後からテイクアウトに対する関心が高まっているのは間違いない。
店内で提供している飲食物を店外で楽しめるように提供形態を変えるサービスは、多くの飲食店が休業や時短営業を余儀なくされ、また生活者の行動が一変した状況で、要望に応え売上を確保する手段の一つとして急拡大した。
今回はアフターコロナ関連自主調査として、生活者の体験を映すインスタグラムの投稿を対象に、テイクアウト投稿に注目し、昨年と今年の投稿件数と内容と今後について比較・考察した。
投稿数の驚異的な増加と投稿時間帯の変化
対象のデータは、「#テイクアウト」を含むインスタグラム投稿で、期間は2019年1月1日~2020年6月10日とした。(店舗による告知と生活者による体験を含む。ダウンロード資料では、その内訳も算出している。)
前年同月の件数と比較してみると、今年の4月は約23倍、5月は約27倍となっていた。(下図左の表参照)
2019年はひと月におよそ2万件程度だったのが、1日に2万件を越える日も見られるようになったのである。(下図右上のグラフ参照)
それでは、4月~6月初旬の2ヶ月あまりの間には何か変化が起こっていたのだろうか?
一つのヒントとして、時間帯別投稿数を見てみる。以下のグラフによると、5月に入った時点では昼食時と夕食時の2つの山(投稿の集中)が大きくできていたのが、日を追うごとに少しずつ昼食時への集中にシフトする傾向が確認できる。
本記事では詳細な検証は割愛するが、ボリュームからだけでも、例えば次のような仮説が考えられる。
・外出自粛のピーク時は昼食・夕食のタイミングでテイクアウトを利用していたが、落ち着き始めてからは、昼の利用に集中するようになった。
・飲食店がテイクアウトの告知を昼と夕の2回のタイミングで行っていたが、上記の理由で夕方の集客が難しくなり、告知のリソースも昼に集中するようになった。
もし上記のような変化が確認できれば、今後打つべき施策として
「生活者のライフスタイルの変化に合わせた展開をするには」
「より訴求力の高い商品やコンテンツを用意するには」
といった方向性も的確に見定められるようになるだろう。
日常だった食事が体験の場に
店舗の意図や生活者の利用シーンをより具体的に把握するため、投稿内容にどのような変化があったかを確認した。
定量的に次の2点「食事か嗜好品か」「室内での撮影か屋外での撮影か」で比較したところ、今年の特徴がわかりやすく現れた。
2019年の同時期の投稿では40%を占めていた、スイーツやコーヒー、タピオカドリンク、お酒といった嗜好品は、2020年の同時期には12%にまで激減している。件数が20倍以上になっていることを考慮すると、決して嗜好品の投稿も減っているわけではないが、それ以上に、映えを意識した投稿でもなく、おすすめという意図でもない「生活の1シーン」としての食事が投稿されるケースが際立っている印象だ。
「体験」を共有するインスタグラムであえてそのような食事に関する投稿をする人が増えたということ自体、テイクアウト利用の増加と併せて、日常に起きた変化そのものが「体験」として捉えられたことが推察される。
また、室内での撮影が9割以上と圧倒的な比率を占めたのは外出自粛の影響下で当然とも言えるが、これまでは限定的であったテイクアウトを自宅で食べる(+投稿する)という文化が今後定着していくかは、サービスの提供形態に影響することから、注目を続ける必要があるだろう。
新たな提供形態の出現と、定着の可能性について
投稿内容では、店舗と生活者それぞれに以下のような変化も見られた。
■店舗
2019年は映えを意識した投稿や、店舗の雰囲気の良さ、近隣のイベントをPRする内容、またキャッシュレスの対応やデリバリー対応の案内も目立った。
一方、2020年は一変して、映えを意識した投稿は大きく減り、以下のような特徴が確認された。
・見せ方:商品の分かりやすさ重視、今回の状況を受けたSNS参入などが多く、「インスタ映え」優先ではない
・提供形態:不向きとみられていたジャンルの提供も増えている
■生活者
2019年はお出かけ(お散歩、友人との買い物、旅行など)体験の一環としてテイクアウトしたものの投稿が見られる傾向にあったのに対して、2020年はテイクアウト自体が体験となり、投稿動機となっている。
店舗とは対照的に、自宅投稿で食器やテーブルセットなどにも工夫をするなど、昨年とは違う形の「映え」意識は今年も多く見られた。
感染症対策を意識した「新しい生活スタイル」においては、嗜好品が約9割を占めていた従来とは異なるテイクアウト文化が定着するのだろうか。緊急事態宣言解除後の声を確認したところ、
「テイクアウトのメニューをもっと開発していきたい(店舗側の継続意思)」
「これからもテイクアウトで色々なお店の料理を試したい/続けてほしい(生活者側の継続希望)」
といった意見もあった。
不可逆な変化に沿った飲食店の業態の多様化
外出自粛の影響で店舗、生活者共に新規でテイクアウトやデリバリーを経験した場合も多いことと思うが、今後も需要が昨年程度となることはないだろう。むしろ、これまでは難しかった汁物や食材などにも幅を広げたことや、テイクアウト用のアプリが次々に登場していることもあり、飲食店の業態の一つとして定着すると筆者は考えている。
これからさらに生活者のライフスタイルが多様化する上では、サービスの提供側もそれに合わせた柔軟な対応が求められるというのは、本連載でも繰り返し述べていることでもある。発信の場としてのインスタグラム研究も必要だが、生活者の実際に寄り添った提案のヒントを得られるという観点でも、インスタグラムに現れる体験を紐解くことは有意義と言えるのではないだろうか。
リサーチ資料ダウンロードのご案内
今回の記事の詳細なレポート「インスタグラム分析 – 『#テイクアウト』投稿量と内容の変化」を、以下のボタンよりダウンロードいただけます。
次回「アフターコロナ時代のビジネス戦略」のテーマは「エンタメ①舞台・スポーツ」、7/8(水)更新予定です。
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