ビッグデータ分析からアフターコロナのマーケティングを紐解く~コロナ禍の2020年GWに人気アウトドアブランドが大健闘~
新型コロナウイルスの感染拡大が経済に与えたマイナスの影響は極めて大きく、その規模はリーマンショックを上回る戦後最大級と伝えられている。
消費者の行動自粛の影響を受け、旅行やレジャー、商業施設、交通機関など多くの企業が苦境に立たされている。一方で、巣ごもり需要や予防意識の高まり受け、消費者との関与が増えた企業・ブランドがある。
緊急事態宣言解除後も収束までは長期戦になると予想されているものの、アフターコロナ時代に勝ち組になるためには消費者と企業・ブランドとの関わりの変化を察知し、柔軟にプランを描き直すことが必要となる。
企業・ブランドと消費者の関わり度合い(エンゲージメント)の変化を探るため、SNSの代表格であるInstagramの投稿データ分析したところ、そこには今後のマーケティングのチャンスが垣間見えてきた。
Instagram投稿数の増加要因を探る
新型コロナウイルス禍の活動自粛により消費行動が停滞している中でも、「食」に関わる企業・ブランドはInstagram投稿量が増加している。
外食・中食産業
外食中食産業では、ファーストフードチェーン、ピザチェーンは軒並み前年を上回っている。店内飲食は控えざるを得ない状況であったものの、テイクアウト需要やデリバリー需要を取り込んだことが、投稿量を押し上げた。
牛丼チェーンでは「吉野家」、ハンバーガーチェーンでは「マクドナルド」が競合ブランドに比べて大きく伸長している。
一方、サイゼリヤは全国が緊急事態宣言となった4月に投稿量を大きく減らしているものの、4月下旬にテイクアウトを始めたことで投稿量が増加に転じている。
生活用品
リアル店舗を中心に家具や生活用品を扱う企業をみると、ニトリ、ユザワヤのInstagramの投稿量が増加していた。一方、カインズホームは3月は前年を上回ったものの、4月は投稿量が減少しており、自粛休業の影響がみられた。
各社の投稿内容をみると、「おうち時間」や「在宅勤務」などのステイホームに関するハッシュタグの共起が散見されていることから、自宅で快適に過ごしたいというニーズの高まりが垣間見れた。
緊急事態宣言で一部店舗の休業や営業時間短縮となったものの、ニトリは以前よりEコマースを強化していた、あるいはユザワヤではYouTubeで手作りマスクの作り方を公開するなど、オンラインチャネルを積極活用していたことが、消費者との関わり維持の下支えとなった可能性も窺える。
食品・飲料
食品・飲料では、ビール会社はアサヒビールとキリンビールで明暗が分かれている。アサヒビールが前年割れに対して、キリンビールが前年を上回る投稿量となった。アサヒビールは1−3月は前年を上回っていたが、4月の外食控えの影響を受けた形となった。
ビール2社に共通している点は、コロナ禍(2020年4月)で飲食店の投稿が前年よりも増加していることである。外食自粛の中でも飲食店がンスタグラムを活用して来店を呼び掛けている投稿であり、Instagramが消費者に直接リーチできる集客メディアとして、店舗での活用が広がっている様子が窺える。
メーカーが消費者を応援する取り組みを行ったことで、投稿数が大きく伸長した企業もある。
近年ファンを拡大しているヤッホーブルーイングはリニューアル発売と同時に、家飲みを楽しめるようにと開催した消費者参加型の「オンライン飲み会」の相乗効果で、発売・開催当日に大きく投稿を伸ばしていた。
地方に拠点を置く企業も検討しており、「白い恋人」で有名な石屋製菓(北海道)は、全道の小中高の新入生への応援として、「白い恋人」(総額1億円規模)を贈呈するという社会貢献活動が注目された。
また、4月に大きく伸長した企業の一つにoisixが挙げられる。スーパーでの買い物を含めた外出自粛下で、食料品の宅配サービスの利便性が改めて注目されたと考えられる。
レジャー用品
レジャー用品では、コールマン、スノーピークともに前年を上回った。両社ともに、「家キャンプ」に関する投稿が前年同月の20倍弱ほど増加しており、自宅でキャンプ気分を味わうという代替行動がみられた。
また、スノーピークでは、過去のキャンプ写真の投稿が同6倍と増加しており、過去のキャンプ体験を振り返るという行動がみられた。
Instagram投稿の変化からビジネスチャンスを考える
一部企業・ブランドのみであるが、Instagramの投稿データを分析したところ、今後のマーケティング強化へのヒントが垣間見えた。
(1)顧客層の拡大
コロナ禍でも投稿数が増加している企業・ブランドがみられたが、平時では企業・ブランドと関わりの無い(あるいは希薄な)消費者がコロナ禍をきっかけに関わりを持つようになった(あるいは深くなった)可能性が窺える。
例えば自宅で過ごす機会が増えた若年層やビジネスパーソン、あるいはオンラインでのショッピング率が高まったシニア層などが、新たに関りを持つようになった顧客として期待される。
(2)ビジネス形態、コミュニケーションメディアの変化
Instagramでの投稿数の増加は、単純に消費シーンが増えたことだけではなく、顧客接点の多様化が影響を与えているケースがあると考えている。
先に挙げたニトリやユザワヤのリアル店舗+Eコマース、あるいは外食産業にみられるデリバリー・テイクアウトなどによる販路の多様化、ヤッホーブルーイングやユザワヤにみられたYouTubeやInstagramなどのSNSというオンラインメディアの活用が、販売面ならびにリレーション面で奏功していると考えられる。
アフターコロナ時代のマーケティング強化に向けて
日本経済がコロナ前の水準に戻るには相応の時間がかかると言われているが、企業においては復活とその先のさらなる成長に向けて、コロナ禍で変化した消費者の意識・行動に対応すると同時に、コロナ禍をきっかけに変化した他企業に後れを取らない形で、より一層のマーケティング強化が求められる。
最後に、本調査結果から考えられる、今後のマーケティング強化の取り組みの一端を挙げる。
(1)拡大した顧客層へのリレーション維持・強化
消費者にダイレクトにアプローチする方法でのプロモーションを実施。
コロナ禍をきっかけに、新たに企業・ブランドと接点を持った顧客を、コロナ後も自社顧客として維持・深化していく。
(2)変化を加味した自社ポジションの見直し
コロナ禍で消費者と関与が高まった企業もあれば、逆に関与が低下した(あるいはリセットされてしまった)企業もある。コロナ以前から変化した顧客の意識・行動を可視化し、マーケットでの競合優位に向けた道筋を再考していく。
(3)消費者とのダイレクトチャネルの強化
顧客接点が多様化していることで、不可抗力的な外部環境の変化が生じても、販売面・関係性面で顧客とのリレーションを維持・増加(あるいは下支え)する事ができる。
コロナ禍でシニア層の利用も進行したオンラインショッピング、情報提供手段としてのSNSというデジタルチャネルの活用、あるいはテイクアウトやデリバリーサービスなどのリアルシーンでの新たな販路、ビデオ会議システムを活用したリモート接客など、利便性向上だけではなく、変化した顧客の時間の使い方に合わせたチャネル強化を行っていく。
D4DRでは、今後も情報発信、リサーチ・コンサルティングを通じて、アフターコロナの企業・ブランドのマーケティング強化に向けた支援を行って参ります。
資料ダウンロード
この記事の詳細や、関連コンテンツはこちらからダウンロードできます。
・Instagram投稿量の実数、日別推移
・データ期間:2019年1月〜2020年4月
・資料限定掲載を含めた計21企業・ブランドの調査結果を掲載
(吉野家、すき家、サイゼリヤ、マクドナルド、モスバーガー、ピザーラ、ドミノピザ、カインズホーム、ニトリ、ユザワヤ、アサヒビール、キリンビール 、ヤッホーブルーイング、石屋製菓、oisix(オイシックス・ラ・大地)、おーいお茶、伊右衛門、カップヌードル、本麒麟、コールマン、スノーピーク)
Mikio Aaskawa
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