激動のコンビニエンスストア業界動向・2016
コンビニエンスストア業界に大きなうねりが起こっている。カリスマとして君臨したセブンイレブンの鈴木会長の退任。ローソンもファミマも商社を巻き込んだ経営体制の変更が相次いでいる。その背景としてあるのは業界構造の変化があることも事実だろう。そこでコンビニエンスストア業界の大きな動きを整理してみたい。
出店数から出店効率へ
コンビニエンスストアの主要10社の国内出店数が5万4千を越え,最大手セブンイレブンも残す空白県は沖縄を残すのみとなっている。人口減少時代を迎えこれまでのように単純な出店による成長には限界が見えてくる中,非効率な店舗の統廃合とより効率的な出店戦略が必要になってきている。
効率的な出店戦略のひとつが大量の集客が見込める駅ナカ争奪戦であり,Newdaysブランドでコンビニエンスストア業態も独自に攻めているJR東日本を除くと都市部の鉄道会社はほとんど大手コンビニエンスストアとの提携を進めており,これまでの自社売店からの転換を進めている。また病院内も有望だ。ある大手コンビニでは病院内で出張営業をすることで高い日販を実現している店舗もある。ドラッグストアや介護施設など高齢化社会でのニーズが高まる施設では複合化が進むだろう。
一方で複合化が進む中でコンビニが必ずしも全て強い訳でも無い。小型スーパーなどとの競争も激化している。イオンはコンビニ業態のミニストップの店舗数は少ないが小型スーパーのまいばすけっとは都市部に順調に進出しており,ローソンの100円ローソンが苦戦しているのとは対照的だ。
利益率を高める方向
出店効率と並んで重要になるのが利益率を高めていくことだ。そのためにはお弁当やセブンイレブンのセブンプレミアムに代表されるPBの自社商品を増やして行くことが重要になる。代表例はコーヒーだろう。缶コーヒーやチルドコーヒーなどコンビニで扱うコーヒー商材は多かったが,セブンの100円コーヒーに代表されるいれたてコーヒーはあっという間に定番商品になってしまった。当然ながらJTやネスレが缶コーヒーから撤退するなどその影響は業界全体でも大きい。コーヒーと相性がよいのはという事で出てきたドーナツもすでに業界大手だったミスタードーナツの売上を奪っている。コンビニアイスが拡大する中でサーティワンアイスクリームの業績も下降している。このようにお弁当を中心とした中食は,惣菜,フライドチキン,スイーツなど外食分野との競合が進んでおり,コンビニの戦線拡大に防戦を余儀なくされている企業も多数存在している状況だ。コンビニの凄さとしては最初は競合と比較してそこそこの品質だったとしても,彼らの持つ顧客のニーズを把握し,改良していく力の強さはたちまちのうちに味やコストも改善されていくところの強みは恐るべきだ。
またコストパフォーマンスの高いコンビニ惣菜や冷凍食品とお酒を購入し,自宅で家飲みやホームパーティをするというライフスタイルそのものが増えており,居酒屋でお酒を飲むという習慣すら変えているような状況もある。イートインコーナーに惣菜をお皿に移して提供するなどの実験的店舗も次々と出現しており,ちょっと一杯をコンビニで飲む人達も増えるかも知れない。コンビニ自体の外食化流れも確実に進みそうだ。
顧客コミュニケーション
長らくコンビニは400m商圏全部が顧客という考え方があったため,顧客の囲い込みという発想はなかった。そのため重要なのは商品の売れ筋,死に筋の把握であり,商品の棚の奪い合いは熾烈なものがある。しかし,扱うサービスが広がっていることと,競争が厳しくなる中で,顧客との関係性を重視するCRM発想も年々強くなっている。特にポイントカードや電子マネーの利用が普及したことで顧客一人一人の単位のデータを取得できるようになったことが大きい。これにより,重要な顧客が買っている商品がわかるようになり,販売数は少なくても顧客維持のために必要な商品が見えてくる。
また今後はスマホのアプリなどを活用し,顧客毎に異なるクーポンを提供するなどよりきめ細かい対応が可能になりつつある。アルバイト店員主体の店舗も多いため,接客スキルでの対応が難しい分,カードやスマホのアプリなどのITツールによる対応がますます重要になろうとしている。ペッパー君のようなロボットによるレジも出てくるかも知れない。またこうしたデジタル接点が増えることでメーカーの広告を出すことも容易になるため,広告ビジネスも増えていくことになるだろう。ローソンがイングレスという位置情報ゲームの中で自社店舗をのせているが,ゲームとの連動なども増えていくだろう。
オムニチャネル戦略
アマゾンが東京でもプライムナウという最短1時間で宅配するサービスを開始した。これまではネット通販でも朝頼んで夜届くが最短だった中で,1時間という時間は近くのコンビニにすら買い物に行かなくなるのでは無いかというぐらいのインパクトだ。品揃えでも冷えたビールや冷凍食品などもあり,必要になるとすぐに家からコンビニまで買いに行っただろう商品も多数取り扱っている。こうしたネット通販との競争も激化する中で,既存の流通事業者もオムニチャネル化を進めている。中でもセブン&アイは1000億円を投資してグループ各社の商品を朝注文すると夜にはセブンイレブンで受け取れるというサービスを始めた。西武やそごうの百貨店やアカチャンホンポなどの専門店,まだ一部だがイトーヨーカードーの生鮮食品もセブンイレブンで受け取るサービスも始めている。セブンイレブンがグループ全体の受取拠点になるため,利便性を感じる人も多いだろう。こうしたオムニチャネルへの取り組みの投資ができる企業と出来ない企業の差はますます広がる一方になるだろう。そういう意味では多くの流通小売りがますますセブン&アイグループの傘下になっていく流れは増えていくかも知れない。そういう意味でもオムニセブンは巨大化していくアマゾンに対するセブン&アイグループ連合軍の強力な宣戦布告でもある。
一方でファミマはアマゾンの当日受取サービスをスタートしており,アマゾンと組むという選択をしている。また箱ブーンというヤフーオークションへの出品を容易にするサービスを始めており,コンビニ各社のオムニチャネル戦略の違いも見えてきている。
地域毎の違いも出てくるだろう。都会が顧客のスマホでサービスを選んでよりスピードを競うなかで,地方では店頭のキオスク端末やタブレット端末を店舗オーナー達が使いながら高齢者に対応していくというようなスタイルの違いも出てくるだろう。人口減少が進む地域はロードサイド店舗も閉鎖が増えていくだろう。その代わりのチャネルとしてのコンビニの役割が高まるだろう。
業界の未来
セブンイレブンの一人勝ちはしばらく続きそうだが,強力なリーダーシップの鈴木会長の退任はやはり組織に与えるインパクトは大きいだろう。ファミマはサークルKサンクスとの統合を決めているが,3強がますます強くなる中こうしたトレンドにのれない中堅コンビニの再編はさらに進むことが予想される。ローソンもPontaと統合されるリクルートや,提携したdocomoなどアライアンスにより異業種を取り込むことでオープンイノベーションを起こしていくことが期待される。
成長を続ける中で物流はますます高度化し,人手不足も加速することが予想される中でロボット接客や配送トラックの自動運転などもコンビニは進む可能性が高い。世界トップクラスの効率的な小売りとしての未来モデルはさらに海外へ輸出されていくことも期待できるため,引き続きイノベーションモデルの優等生としての期待は大きく続いていくことだろう。
藤元健太郎
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