ウィズコロナのInstagram分析 -観光地関連の投稿の変化を探る-(第七回)
【特集】アフターコロナ時代のビジネス戦略 とは
D4DRでは、今回の新型コロナウイルス(COVID-19)の流行を経て社会がどのように変化するか、そして各業界がどのような戦略にシフトしていくべきなのかを考察した「アフターコロナ時代のビジネス戦略」を毎週連載しています。
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アフターコロナ時代のビジネス戦略 -SNS分析[観光地編]-
人々の生活が新型コロナウイルスの流行に伴う急激な変化に見舞われて早2ヶ月が経った。リアルとバーチャルの社会が密接につながっている現代においては、当然ながら双方とも未曾有のパンデミックの影響下にある。そこで今回はバーチャルの社会、すなわちSNSに現れた変化について考察する。
検索ワードの人気度から分かる関心の推移
個々の領域について言及する前に、Google Trendを使って、直近の3ヶ月間の関心の推移を大局的に捉えることにした。まず「観光」「カフェ」の大幅な減少、そして入れ替わるように「テイクアウト」が急上昇していることが分かる。旅行・観光業や飲食業の不況は体感や統計だけではなく、検索量のような身近なデータにも表れている。
本連載で業界ごとの考察を取り上げているように、SNSに着目した分析も複数回に分けて紹介する予定となっている。本記事では旅行・観光業に着目し、SNS上の投稿にどのような変化が起こっているかを見ていきたい。
生活者の体験を映すInstagramという媒体
SNSと一口に言っても様々な媒体が存在し、使われ方もそれぞれ異なる。例えばTwitterであれば、多様なトピックに対して多様な意見が集まるなど、社会性の高い一面がある。それに対して、Instagramの場合は生活者の実際の体験に紐付いた投稿が中心である。生活者の実態を把握する際には、Instagramの投稿分析が適していると言える。 そのため、今回の分析はInstagramを対象とした 。
投稿件数の前年比は7~8割減
観光関連の投稿を見るにあたって、今回は観光地そのものとインフラ施設のそれぞれにどのような変化が起こっているのかを確かめるべく、前者の代表に「ハウステンボス」を、後者の代表に「新千歳空港」を選択した。 期間は連休を含む4月27日~5月6日の10日間とし、昨年(2019年)の同時期と比較した以下のグラフからは、やはり今年の投稿数の少なさがはっきりと読み取れる。
さらに期間中の累計投稿数で比較すると、ハウステンボスは約3000件から約700件に、新千歳空港は約1500件から約400件に、いずれも7~8割と大幅に減っている。 それでは、減少してなお一日あたり数十件ある投稿の内容には、目立った変化はあったのだろうか。
共起ハッシュタグの出現率から昨年との違いを検証
投稿を定性的に分析するヒントとして、ハッシュタグのキーワードに他にどのようなものが含まれているか(共起タグ)を確認し、上位20件ずつ抽出した。
ハウステンボスの結果を見ると、もともとイルミネーションや風景の写真が多く、「写真好きな人と繋がりたい」など、写真撮影を趣味とするユーザーの投稿が一定数あったことが分かる。昨年と今年の比較でも、上位の出現率の数値自体に大きな変化はない。しかし、2019年には「GW」「九州」といった単語が多く含まれ、連休を利用して他県も訪れるような旅行のパターンが多かったと読み取れる一方で、2020年の上位には「過去pic」が現れ、閉園期間中でも過去の写真を投稿する動きが見られたことが分かる。また、そういった過去の写真にはコロナ禍の特徴的なタグ「おうち時間」「stayhome」も一部併用されている。
新千歳空港のほうは、様子が異なる。2019年の表では「北海道」「札幌」といった基本的なものを除いて全体的にどのハッシュタグも出現率が低い傾向にあり、これは各ユーザーの体験が多様であることの証左であると考えられる。2020年はというと、上位のハッシュタグの出現率が前年の同じ順位のものに比べて高い数値となっている。これは、ここにランクインしているもののうち複数のハッシュタグが同一投稿内で併用されるパターンが多いと解釈することができる。またハッシュタグの内容に目を向けると、2019年の出現率上位には「ソフトクリーム」「ラーメン」などグルメ系の言葉がいくつも含まれているのに対して、2020年にはそれらは消え、「飛行機のある風景」のような飛行機や空港に関する複数のハッシュタグが上位を占めている。つまり、2020年には多様な旅行体験が消えた結果、飛行機や空港の写真を趣味として撮っているユーザーなど、ハウステンボスと同様に観光を目的としていないケースの割合が相対的に上がっていると推測される。
SNSに現れる顧客の思いを知り、施策に活かすことが重要
以上のことから、観光地およびインフラ施設の双方において、コロナ禍では旅行体験に代わって「映える写真」の投稿が相対的に目立っていることがデータによって示された。旅行や観光の特性からすると、今回のような件数の減少はあくまで一時的なもので、収束後にはある程度多様な旅行体験の投稿も戻ってくるものと思われる。しかし、外出自粛を要請されている期間に写真撮影を趣味とするユーザーの「お蔵出し」的な投稿でフィードを賑わせることは、塞ぎがちな人々の心を少しでも癒していたのではないだろうか。今回対象としたInstagramの投稿データからは、そのように現状を憂うばかりではないSNSの役割も垣間見ることができた。
また、本記事で扱う対象となった実際の投稿を見ると「新千歳空港内のラーメン店にまた行きたい」といったキャプションとともに過去撮影した当該ラーメンの写真を添付したものや、ハウステンボス公式アカウントによる現在のバラの開花の様子や園内気分を味わえるゴンドラ等の投稿に多くの「いいね」が集まっていた。訪れることの叶わない期間中であっても心の離れないユーザーの期待に応えていくことが、収束後の客足回復に必要であることは間違いなさそうだ。
次回「アフターコロナ時代のビジネス戦略」は5/27(水)、テーマは「リテール」での更新を予定しています。
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