コロナによって変わる購買行動 小売・リテール業界は今後どう変わらなければならないか(第八回)
【特集】アフターコロナ時代のビジネス戦略 とは
D4DRでは、今回の新型コロナウイルス(COVID-19)の流行を経て社会がどのように変化するか、そして各業界がどのような戦略にシフトしていくべきなのかを考察した「アフターコロナ時代のビジネス戦略」を毎週連載しています。
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アフターコロナ時代のビジネス戦略 -小売・リテール業界-
新型コロナウイルスによる緊急事態宣言は全国で解除となったが(2020.5.27現在)、多くの小売業は約2ヶ月に亘って休業や時間短縮営業を余儀なくされ、非常に苦しい状況にある。消費者も外出自粛要請を受け、ECや宅配、ドライブスルーなどを活用し「三密」を避けた購買行動を各々心がけている。
全世界に多大な影響を及ぼしている新型コロナウイルスが、小売・リテール業界にどのような影響を与え、この業界はどう変わっていかなければならないのかを考察する。
新型コロナウイルスにより、業界課題が顕著化
新型コロナウイルスによる小売業界への悪影響は、2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災の際に経験した脅威と比較しても、よりインパクトが大きい。
リーマンショックによる景気悪化による消費の落ち込みは、中国の好景気に支えられて再び上向き、東日本大震災ではエリアが限定され、日本全国での消費の落ち込みをもたらすまでには至らなかった。
今回の新型コロナウイルスは、短時間に世界レベルでその悪影響が拡大し、消費だけでなく生産、販売、物流までもがストップするという大混乱を招いている。
日本の小売業界では、新型コロナウイルス以前から様々な問題を抱えていた。「市場の成熟化」「人手不足」「デジタルシフトの遅れ」などがあげられるが、特にデジタルシフトは、その遅れが今回事業継続に多大な影響をもたらし、課題が浮き彫りとなった。今後はデジタルシフトが必然的に進むと予想される。
また小売業界の常識であった大量生産・仕入~大量販売の手法は今後見直されることが予測される。コロナウイルス以前も、大量生産による在庫過多、大量廃棄は、環境問題意識の急速な高まりからすでに問題視されていたが、今後はさらにその圧力が強まるだろう。
店舗のオーバーストア問題も、顕著化すると考えられる。今後、デジタルシフトが進むことで、店舗の役割も「大量の在庫をさばく場」ではなくなる。今の大量生産からの脱却を図ることになれば、そもそも大量の在庫や店舗は不要となるだろう。
生活者の行動・価値観変化を読み解く3つのキーワード
私たちは外出自粛要請の影響を受け、買い物をする際に今までとは違った意識を持つようになった。
「生活必需品」「三密」「スマートフォン」の3つのキーワードから、その違いを探っていきたい。
「生活必需品」とは何なのか?
私たちは生活必需品を判断する際の基準として、「不要不急」であるか否かを意識することとなった。
今回、不要不急の外出の自粛、仕事においてもリモート化が進んだことにより、ファッションやコスメは「購買そのものを楽しむ嗜好品」であることが顕著となり、需要が大幅に減退した。
米国の百貨店「Nordstorm」のノードストーム氏も
「僕らが売っているのは必需品ではなく、(このパンデミックによって)嗜好品だということがはっきりした」と述べたという。
参考URL:
https://www.vogue.co.jp/fashion/article/vogue-global-conference-day4-cnihub
このように私たち消費者は、生活必需品の定義について問い直す機会を与えられた。それにより、自分にとって本当に必要なものは何か、真剣に考える時間が与えられ、消費者の購買意識や価値観は今後も変化を見せるだろう。
「三密を避ける行動」による影響は
三密とは「密閉、密集、密接」をあらわした総称であるという。
今回臨時休業を余儀なくされている百貨店やショッピングモールは、物理的に人を集客してビジネスを行う、まさに三密に依存した業態であることがはっきりした。
今後このような業態は、三密であることが消費者から敬遠され、以前のように混雑を許容した店舗に客足が戻るとは考えがたい。
また百貨店やショッピングモールは、生活必需品よりも、リアルの購買体験が重視されてきた嗜好品の取り扱いがメインであることも、悩ましい問題である。
店舗における購買に必要な要素は何かを考え、三密を回避するための物理的な工夫を行ったり、リアルとデジタルを組み合わせた新たな購買体験サービスを提供していく、などの対応が求められるであろう。
「スマートフォン」を活用した行動へのシフト
外出自粛や三密を避ける手法として、消費者のデジタルシフトも進行した。
ECサイトでの購入にとどまらず、UberEatsや出前館などの食品宅配、商品のモバイルオーダー、BOPIS(Buy Online Pickup In Store)、カーブサイドピックアップなど、リアルとデジタルを組み合わせたサービス利用が進んだ。
これらサービスの利便性を体験した消費者は、デジタルへの受容性を高めたと考えられ、今後の購買行動においてデジタル活用が不可欠なものになっていくだろう。
参考URL:
https://www.mcall.com/business/retail-watch/mc-biz-walmart-pickup-towers-spreading-in-lehigh-valley-20181004-story.html
また、不特定多数が接触する紙幣・硬貨に対する信頼が揺らぎ、キャッシュレス化や非接触の小売手法も増加した。英国では現金使用が半減し、キャッシュレスへ急速に移行したという。
参考URL:
https://www.theguardian.com/money/2020/mar/24/uk-cash-usage-halves-in-few-days
小売業にとっては「ソーシャルディスタンス」を取りつつ、いかにリアルとデジタルを併用して商売を行っていくか、大きな課題に直面している。
複雑化・グローバル化したサプライチェーンの脆弱性があらわに
ものづくりのあるべき姿も、今後大きく変化していくだろう。
大量生産・大量消費の世界では、いかにコストを下げて、低価格で多くの人に売るかが重要であった。コスト低減のためには、サプライチェーンはよりコスト安の国を求めて自然とグローバル化が進展した。
その結果、今回の新型コロナウイルスによる影響は、仕入、メーカー、商社、物流業者など多岐に及び、混乱を招くこととなった。
グローバルサプライチェーンは、メーカー本体が把握できない状況にまで複雑化しており、今回のような事態が起こった際は、その影響の予測すらも困難な状況に陥った。
低コストをゴールとしたグローバルサプライチェーンは、多大なリスクもはらむことが露呈し、今後サプライチェーンは構造のシンプル化が求められ、より内需傾向が進展すると考える。
疲弊する物流業界は、急速に変革が進む
新型コロナウイルス以前より人手不足の問題が表面化していた物流業界は、この影響により問題はさらに深刻化した。
三密を嫌った消費者のデジタルシフトによる個人向け宅配需要が急速に伸びたこともあり、その需要に追い付けていない状況だ。
物流業界は倉庫作業や配送作業など、どうしても人海戦術に頼る部分が多く、三密を避けるべきアフターコロナ時代とは相反するオペレーションになっているのが現状だ。
日本ロジスティクスシステム協会による、緊急アンケート「新型コロナウイルスの感染拡大による物流への影響」では、半数以上の物流企業に業務上の課題が発生したとの回答があったようだ。
※参考URL:
https://www1.logistics.or.jp/news/detail.html?ItemId=259&dispmid=703
具体的な事例を参照すると、
【物流】
・品目による輸送量の増減
・入荷の大幅な遅れと急な出荷対応
【倉庫】
・(学校)休校による人員調整
・海外からの輸入・輸出が停滞
・倉庫内作業、納入現場ではテレワークができないことから、安全上の配慮の困難さ
・現場でのマスク、消毒剤の不足
このような課題が現場では上がっているようだ。
今後はこれらを解消する手段として、ロボットやドローンを活用した自動化(オートメーション)や、RFIDやセンサー等を活用したIoT化の推進がますます加速し、物流事業の強靭化が求められるだろう。
リアルとデジタル融合の先にある、消費者との関係性とは?
新型コロナウイルスの影響により、ECに新規参入する企業が急速に増加しているという。
リアル一本足がデジタルとの二本足にシフトすることは望ましく、当然の流れではあると思われるが、ただモノを売ることに終始してはならない、という点は念頭に置くべきである。
これからの小売・リテール業界は「モノを売る」という意識から脱却し、「顧客(ヒト)と商品(モノ)が運命的な出会いを果たす場(リアル店舗、EC、アプリ…などなど)を提供し、快適な購買体験のお手伝いをする」という意識への変革が必要である。
リアル、デジタルと両方の入り口から消費者が価値の高い体験をし、良質なコミュニケーションを続けることで、顧客ロイヤリティが高まりファンが増加していく。これらの一連の流れを意識し、それを達成するためのUI(ユーザーインターフェイス)や必要なリソース等を整理していくことが、今求められていることではないだろうか。
次回「アフターコロナ時代のビジネス戦略」のテーマは「教育」、6/3(水)更新予定です。
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